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しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第十二回)「ちゃんとしたいと思っている」

齋藤美和(さいとうみわ)
掲載日:2025/03/11
しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第十二回)「ちゃんとしたいと思っている」

ミモザが咲き、園庭のとんこちゃんの動きも少しだけ活気づいているような3月。晴れと雨、そして雪。ゆらゆらしている天気と共に、1月の後半から2月はなんだか体調がもやもやして、いまいちしっくりこない月だった。

しぜんの国の里山を挟んで隣にある簗田寺の精進食堂「ときとそら」の千郷さんにその話をすると「美和さん、去年もこの時期体調を崩していましたね。でもこの時期のその症状は、季節の変わり目のデトックスで、自然の摂理にもあっていると思いますよ」と話をしてくれた。なんだかちょっと話すとホッとする。そうなのか〜と思いながら、こうして自分のちょっとした不調を話せる人がいることにそっと感謝をした。

しぜんの国でも、ちょっとした悩みや体調の不調を相談できる人がたくさんいて、ネットやSNSではなく、こうして人の心にふれながら話せる環境はありがたいなと思う。


そういえば、最近こんなことがあった。

かこちゃんが私の目の前にピカピカの靴を持ってきてくれた日のこと。
「みて!靴!!」きれいな靴に思わず「わあ、新しいの買ったの?」と聞くと「違うよ、きれいに洗ったの!」

あっ、しまった。私ってば、きれいな靴=新しく買った靴と安易に思ってしまった。恥ずかしい。本当に恥ずかしい。

その前にも園行事にご家庭の旅行で来ることができなかった子に「いいな〜お祭りに行きたかったな〜」と言われて、思わず「でも、旅行も楽しかったでしょ?」と言ったら「どうしてわかったくれないの!!」と怒った顔で言われたばっかりだったのに。

言葉が上滑りして、「あーやってしまった」と思うことが重なっている。ちゃんと、ちゃんとしたい。ちゃんと心に言葉を置けるように語りたい、体調も戻ってきたし、ごはんも美味しく食べられるようになったし、ちゃんと、したい。忙しいを言い訳にしないで、ちゃんとしたい。

そう思っていた日々、靴を見せてくれたかこちゃんと一緒に絵本『カラスのパンやさん』(この日は給食もカラスのパンやさんと題したビュッフェスタイルのパンの日だった)を読んでいたら、窓から、カラスが見えた。ゴミを荒らすカラス。

するとかこちゃんが「あっ!カラス。パン食べにきたんだ!」というから、私も一緒になって「カラス、何パンが好きかな」と笑いあって話した。うさぎパン、こねこパン、りんごパン。「ちゃんとしたい」と自分を責めたくなる日も、こんな何気ない出来事でふっと心に風が吹く。

ー このコラムは『しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II』の連載第十二回です。

このコラムの連載

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記Ⅱ(第一回)「わわわっと2024年がスタート」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記Ⅱ(第一回)「わわわっと2024年がスタート」

わっ!という間に2024年度がスタート。卒園と入園が同時に交差するのが、保育園という場の特性。よしっと踏ん張って、笑いたい。燃えないゴミを出すのを忘れたり(2週間に1回・・・)、冷蔵庫の野菜をダメにしてしまったりしながら、なんだかんだで、日々が進んでいく。でも、朝早く起きて、子どもたちと会えると思うと、なんだか心がゆっくりと起き上がってくる。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第二回)「葉っぱを裂く」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第二回)「葉っぱを裂く」

春の園庭。メイさんが長い葉っぱを持ってきてくれた。縦に裂くように切ると、納豆みたいに糸を引くその葉っぱ。「こうやると、こうなる」。目の前で裂いてくれた。「わー知らなかった」。私も一緒に裂いてみる。気持ちよく裂ける。

「ねえ、メイちゃん、なんでこの葉っぱから糸が出るってわかったの?」そうたずねると、「めったんに教えてもらったの」と小さい声で答えた。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 II(第三回)「今日も子どもの傍に」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 II(第三回)「今日も子どもの傍に」

高校の選択授業の中で「保育・教育」の授業を持たせてもらい、今年で2年目。24名の高校3年生に2コマの授業を担当している。保育の場では、いつも誰かがいてくれるから、ひとりで教室に入っていくのはとても勇気のいることで、「教室の中でつい、非常勤の保育者を探してしまった!」と、非常勤保育者の会議で話をしたら、笑ってくれた。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 II(第四回)「一緒に迎える、越えていく、渡る」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 II(第四回)「一緒に迎える、越えていく、渡る」

お泊まり保育だった。年長児(けやき組)の子どもたちは、毎年この時期にお泊まり保育をする。行きたいところ、食べたいもの、子どもと大人と一緒にセッションをして深めていく。当日の朝一番、おしゃべりが好きなカズ君に「今日はずーっと夜まで話せるね〜!」と言われて、泊まるより話すのが楽しみなんだな…と思いを馳せてのスタート。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第五回)「遠く離れて」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第五回)「遠く離れて」

お茶を急須から淹れる時は、幾度かに分けて注ぐ。ごはんをよそう時も、そう。お味噌汁の具材は家にあるものでいいから2種類は入れて。

モンテネグロからボスニアに渡るバスの中で母から教えられたことを思い出した。この夏、バックパックを背負って、トルコ、モンテネグロ、ボスニアヘルツェコビナ、クロアチアの4カ国を渡る旅をした。飛行機、長距離バス、夫が運転するレンタカーで移動した旅。毎日足の裏がジンジンするまでとにかく歩いた。トルコではピーマンに米と玉ねぎ、そして牛ひき肉を入れたドルマ、クロアチアのザグレブではハムとチーズが何層にもなったカツレツ、その土地の食事をすることもあれば、現地のスーパーで買い物をし簡単な料理をすることもあった。その土地に流れる風を感じ、人と人の間にある表情を感じる。同じ地域に連泊したのは一度だけ。今まででいちばん一度の旅行の中で国境を越えた。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第六回)「平気な顔してサンドイッチ」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第六回)「平気な顔してサンドイッチ」

夏をくぐり、新しい月がはじまる。心なしか、風が秋。
そんな風な会話をご近所さんや、保育者と話しながら9月が始まった。

以前、保育者を経て行政の仕事をされている方とお話しているときに「最近では、節分などの季節の行事をコンビニで感じることが多くて・・・。子どもたちと一緒にいた時には、暮らしの中で感じていたんですけどね」という言葉を聞いた。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第七回)「私もマサコちゃんも」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第七回)「私もマサコちゃんも」

あ、カマキリ。里山を通って園に向かう道すがら、木の上からカマキリがポトっと落ちてきた。つい「おはよう」と声をかける。そのまま山道を歩いていると、カサカサっと音がした。4㎝くらいのサワガニだった。また「おはよう」と声をかける。

このところ、気温の変化のせいか体調不良の子が多い。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第八回)「たのしいことを知っている」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第八回)「たのしいことを知っている」

お昼寝のとき。しゅんちゃんのタオルの柄がせなけいこさんの『めがねうさぎ』で、あ、この絵本、好きだったな、と、トントンしながら思っていた。

せなけいこさんの絵本はいつも、教訓めいていなくて、ちょっとよくわからないけど、わからないまま終わる感じも好きで、私自身の子育て中によく読んでいたし、子育てひろばでもよく読んだ。そんなことをふと思い出していた。その次の日の昼礼で(しぜんの国保育園では、朝礼、終礼、など色々試していて、今は昼礼に落ち着いています)、理事長の紘良さんからの話で、せなけいこさんが亡くなったことを知った。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第九回)「生き続ける『こども美術館』」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第九回)「生き続ける『こども美術館』」

しぜんの国が大事にしている祭典「こども美術館」が先週の土曜日に開催された。この美術館は、こども一人一人の表現を大切に分かち合う日。こどもの作品の傍らに、こどもたちとその近くにいる保育者の心の機微を描いた「スケッチ」とよばれるドキュメントを展示する。

どの作品にも文脈があり、物語がある。その小さな日々の積み重ね、一人一人の持ち味を丁寧にキュレーションをして展示していく。その作品に応じた飾り方や見せ方を真剣に考える。こどもの大切にしていることを私たちも大切にしたいと強く願う。そんなこども美術館の展示、エントランスにステートメントを設えた。なんども書き直し、こどもたちや保育者の思いを汲みながら、私も言葉を書いた。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第十回)「内緒の秘密」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第十回)「内緒の秘密」

新しい年が始まった。約1週間ぶりの子どもたち。昼礼では、それぞれのクラスの様子と保育者の思ったことや感じたことを語らい合う。「久しぶりにあったSちゃんの身長が伸びた気がした」「頭におままごとのボールを被っているのをみて、また(日々が)戻ってきたなと感じた」「友達と会えてうれしいのか、クラスの子どもたちもニコニコしている」など。保育者を通じて子どもの風景を感じることができる「昼礼」は私にとっても大切な時間だ。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第十一回)「smallvillage10歳の誕生日」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記II (第十一回)「smallvillage10歳の誕生日」

1月、法人内で私が今身を置く保育園「しぜんの国保育園smallvillage」の10周年パーティーを行った。園自体は1979年に設立され、10年前の2014年に増改築したのが今の園舎だ。

あっという間の10年。早いような、まだ10年か、と思うような不思議な心持ち。法人各園から有志の保育者が集まってくれた。建築士の中佐さんと理事長(紘良さん)のトークセッション、そこから当時を語る保育者が集まり、今までの物語を語り合った。