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「子どもと生き物の出会いは、大人が思っているほど美しくない」柴田愛子さんが覗く、子どもの世界。〜井戸端aiko番外編〜

三輪ひかり
掲載日:2021/11/05
「子どもと生き物の出会いは、大人が思っているほど美しくない」柴田愛子さんが覗く、子どもの世界。〜井戸端aiko番外編〜

りんごの木こどもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりを楽しむ連載「井戸端aiko」。

第1回目のおしゃべり相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで指導員を務める、山本直輝さん。

盛り上がったおしゃべりの中で、泣く泣く本編からはカットした「愛子さんと山本さんのこぼれ話」を、番外編としてお届けしたいと思います。

井戸端aiko 第1回 柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 ​​山本直輝さん

前編:「子どもは五感を通して体に染み込ませていく」
後編:「日常的に一人ひとりのことをキャッチしていくことが大事。」


カエルと三人の子どもの出会い

愛子さん:
子どもと動物の出会いって本当に一つひとつ面白いなと思うんだけど、この間もこんなことがあってね。

りんごの木は、夏に5歳児が1泊お泊まりする施設があるんだけど、そこに遊びに行った時にある子が、テラスでカエルを2匹捕まえて家に連れて帰ったの。2週間後にまた泊まりでその施設に連れて行ったんだけど、その子、そのカエルも連れてきたのよ。でね、「どうしたの?」と聞いたら、「これ、かわにかえすことにしたんだ」って。

でもそう言うのに、ちっとも離さないのよ。夜になって、「あんた、そのカエル返すんじゃなかったの?」って聞いたら「あとで」って言って朝になっちゃったから、「返そうと思って連れて来たのなら、川に行ってみない?」と誘って、一緒に川に行ったの。

それでね、石の上にカエルを置いたんだけど、カエルってすぐ川の中に入って遠くへ行くわけじゃないのよね。石の上をぴょんぴょんってして、ちょっとこっちに近づいてきたら、「ぼくのところにかえってきたいみたいだ」って(笑)。

しばらくそんなことをしている中で、「このカエル、2週間もおうちにいたのになんでこんなに元気なの?」と聞いたら、「まいにちコオロギをあげたから」って。「え、あんたんちそんなにコオロギいるの?」と聞いたら、「かってくるんだよ。それをピンセットでつまんであげるんだ」って言うのよ。だから元気だったんだけど、もうあげられないから返すことにしたんだって。理由にびっくりしちゃった。めでたく、その2匹は自然へ帰っていったんだけど、この話はまだ続きがあってね…。

一緒に川へ行ったシュントという男の子がいるの。よその幼稚園から来て、生き物に触れない子だったんだけど、その子がいつの間にか別のカエルを持っているわけ。捕まえたんだって。「もう一人の子はおうちでは飼えないと思って返しにきたんだって。コオロギを買ってピンセットであげなくちゃいけないらしいわよ」って言ったんだけど、「パパもママもおみやげ(楽しみにしてる)ねっていったもん。だからぼくは、もってかえりたい」って(笑)。「そう、じゃあそれはあなたが決めることね」となって。


山本さん:
カエルがお土産(笑)。それで結局連れて帰ったんですか?


愛子さん:
それがね、シュントは初めて捕まえたものだからいじくりまわしていて、しばらくしたら違う子が持ってるのよ。その子はハルトっていう、リーダーシップをとるような強い子なんだけど。

「あれ、シュントさっきのカエルどうしちゃったの?ハルトにあげるの?」って聞いたら、「ハルトにあげるの」って。ハルトは自分でカエルを見つけられなかったから、喜んでいるわけよね。だけど、シュントはあげると言いながら、ハルトの後ろをついて歩いているわけ。心はそこに張り付いているのよ。「シュントさ、これ本当はお父さんとお母さんのお土産にしたかったんじゃなかったっけ?」「うん。じゃあさ、やっぱりもってかえって、おとうさんとおかあさんにみせてからハルトにあげる」って。でもハルトはそんな条件付き、いやなのよ。それで、二人は向き合ったわけ。

そしたらね、シュントが「ぼく、うまれてはじめてみて、はじめてつかまえたカエルなんだ」って言ったの。言えてよかったと思ってたら、ハルトが「かえす」って言って返したの。2人の気持ちが分かり合えた瞬間だなと思ったんだけど、いざバスに乗る頃になったら、カエルが死んでたのよ。ええ、まさかここでって(笑)。

「カエル死んじゃったね。どうする、置いて行く?」と聞いたんだけど、「でも、おみやげだから」って言ってさ。しょうがないから氷をもらって氷漬けのカエルにして、お父さんお母さんに見てもらって。次の日ね、お墓をつくったんだって。

山本さん:
大人が先回りして、「こうしなさい」とか「それはダメ」とか言っていたらこうはならなかったでしょうね。


愛子さん:
もう本当ドラマだなと思ったわよね。子どもと命とか、子どもと生き物とかって大人はすごく美しく教えようとするじゃない。「これには命があるよ」、「こうするとかわいそうよ」って。でも子どもって、もっといじくりながら、いろんな思いをしながら、生き物をわかっていく。そう改めて思った出来事だったわね。


「井戸端aiko」おしゃべりのお相手は…

山本直輝さん
公益財団法人ハーモニィセンター理事

1984年、神奈川生まれ。
大学生時代にハーモニィセンターにてキャンプリーダーを3年間経験し、「子どもに関わる仕事」を志すように。卒業後、山村留学指導員を3年間つとめた後、職員としてハーモニィセンターに戻る。移動動物園や乗馬のキャンプだけでなくスキー・登山のキャンプや国際交流、東北の支援活動など様々な事業を担当。動物とのふれあいや自然体験を通して、たくさんの子ども達の成長に貢献したいと考え活動している。
公益財団法人 ハーモニィセンターについて

柴田愛子さん

1948年、東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。
1982年、「子どもの心に添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。保育のかたわら、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。テレビ、ラジオなどのメディアにも出演。
子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。
著書 
「子育てを楽しむ本」「親と子のいい関係」りんごの木、「こどものみかた」福音館、「それって保育の常識ですか?」鈴木出版、「今日からしつけをやめてみた」主婦の友社、「とことんあそんで でっかく育て」世界文化社、「保育のコミュ力」ひかりのくに、「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」小学館、絵本「けんかのきもち」絵本大賞受賞、「わたしのくつ」その他多数。



取材・撮影:雨宮 みなみ



この記事の連載

「子どもは五感を通して体に染み込ませていく」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 山本直輝さん<前編>

「子どもは五感を通して体に染み込ませていく」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 山本直輝さん<前編>

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする新連載「井戸端aiko」。

記念すべき第一回目のおしゃべりのお相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで働く、山本直輝さん。

愛子さんと山本さんの出会いは、山本さんが子どもの頃。今回、ハーモニィセンターの移動動物園がりんごの木にやってきたことで再会しました。

「日常的に一人ひとりのことをキャッチしていくことが大事。」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 ​​山本直輝さん<後編>

「日常的に一人ひとりのことをキャッチしていくことが大事。」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 ​​山本直輝さん<後編>

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりを楽しむ連載「井戸端aiko」。
第一回目のおしゃべり相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで働く、山本直輝さん。

後編では、動物(指導員)と子ども(保育者)、同じ生き物を相手に仕事をしているという話題から話がどんどん広がっていきます。