保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「日常的に一人ひとりのことをキャッチしていくことが大事。」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 ​​山本直輝さん<後編>

三輪ひかり
掲載日:2021/10/19
「日常的に一人ひとりのことをキャッチしていくことが大事。」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 ​​山本直輝さん<後編>

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりを楽しむ連載「井戸端aiko」。

第一回目のおしゃべり相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで働く、山本直輝さん。

前編では、子どもと動物の出会いかたや、その出会いの中で大人がどうありたいかについてたっぷりお話してくれました。

この日のお天気は、あいにくの雨模様。畑にある小屋のなかで雨宿りをしながら、おしゃべりは続きます。

後編では、動物(指導員)と子ども(保育者)、同じ生き物を相手に仕事をしているという話題から話がどんどん広がっていきます。

生き物を相手に仕事をするということ

愛子さん:
山本さんは、人間と動物、両方と関わるお仕事をしてきているけど、似ているなと思うところってあったりします?

山本さん:
よく観察する必要があるということですかね。たとえば、馬は毎朝全頭の体調を必ず確認するんです。今日、おしっこ少ないなとか、あれうんちしてないな、餌食ってないなとか。歩いている姿を見て、ちょっと動きがおかしいぞと気づかないといけない。



愛子さん:
日常的に、その馬その馬をキャッチしていることが大事なのね。たしかに、私たちも同じ。いつも子どもの顔色を見てるわね。体の調子と心の調子があるけれど、朝の顔とおはようでキャッチするのよ。おはようって言っておはようって返ってくると今日は元気だな、逆にうつむいて返事がなかったりすると、あれなんかあったんだなって思ったりとかね。やっぱり生き物ってそうよね。

馬ならではのケアも必要だったりするの?

山本さん:
馬は腹痛になることがとても多いです。それが原因で死んでしまうこともあるくらい。なので腹痛の兆しがみられると、人の手が必要でホースをお尻にぐっといれたりもします。げっぷや嘔吐も出来ない繊細な生き物なんですよね。

愛子さん:
そうなのね。移動動物園だと、車に乗せて動物を連れていくじゃない。車酔いしてしまったりしないの?

山本さん:
車酔いはしないかなあ。

愛子さん:
でも馬は立ってるんでしょう?

山本さん:
馬って立ったまま寝られる動物なんですよ。だから意外と車の移動中も安定して過ごしているんです。

愛子さん:
へぇ!!知らないことがいっぱいあって、話聞いていると面白いわね。


馬という存在

山本さん:
ハーモニィセンターは、もともと子ども会活動や養護施設を訪問するようなことから始まったんです。その中で、子ども時代にいかに自然体験をするのかが人間性を育む上で大切だという考え方から、子どもと馬との関わりの場をつくるようになっていきました。

愛子さん:
どうして他の動物ではなくて馬にしたの?

山本さん:
馬って、自分(人間)の体より大きいから、思い通りにはならないじゃないですか。そういう存在と対峙する時間ってすごく貴重だなと考えたんです。たとえば、小学生や中学生でも考えるんですよ、どうやったらこの馬にうまく乗れるだろう、この馬は今どんな気持ちだろうって。しかも、馬は相手の感情を感じとる生き物なので、そういう人間の心を感じ取ってそこにいてくれるんですよね。

愛子さん:
なるほどね。うちの卒業生の子が、まだ1歳の子どもを馬に乗せたらちゃんとバランスとって乗れるんだと話してくれたことがあったのを思い出したんだけど、それはその子に怖さがないからなのかしら?

山本さん:
うちも、基本2歳から乗馬してOKにしているんですけど、小さい子のほうがすんなりと乗れることって結構多いですね。大きくなると、「大きいな」、「もし噛まれたら・・・」と想像できるようになるからこその恐怖心みたいなものが出てくるから難しさがある。わからないからこそ、ひょいっと乗れてしまうということもあるかもしれないですね。

愛子さん:
面白いわねぇ。私、馬ってあまり乗ったことないんだけど、前に鳥取で乗る機会があった時に、「あなた綺麗ね、でもこんなおばさん乗せるのはご迷惑よね。いいわ、私は乗らない」と、まずはしばらく連れて歩いたりさせてもらったの。そうしているうちに、乗ってみようかな、乗らせてもらってもいいかしらという気持ちになって、乗ることにしたんだけどね、そしたら私は馬の扱い方知らないのに、あっちに行きたいなと思うとそっちへ行くの。びっくりしちゃった。ちょっと止まってほしいと思ったら、止まるのよね。「なんでですか?」と聞いたら、「体の重心の置き方でちゃんとわかるんですよ」って。言葉がわかるんじゃなくて。すごいと思った。

山本さん:
馬って頭もすごくいいんですよね。車椅子に乗っている子を乗せるとおとなしく歩いたりするんです。相手のことがわかるんですよね、きっと。

アニマルセラピーってありますけど、それとは別にホースセラピーというものもあるんです。馬って乗れるので、いつもと目線が変わったり、身体が動く感覚を持つことができて、それが他の動物とは違った効果があると言われているんですよ。養護施設とかに行くと、「この子のこんな顔初めて見た」と先生たちが言ってくれたりして。

愛子さん:
やりがいあるね。

山本さん:
そうですね。この間、ある地域の自治会の催しで移動動物園を公園で開いたんですけど、子どもだけじゃなくてお年寄りの方もたくさん来てくださって。その時に、「何ヶ月ぶりかに家を出たよ」と声をかけてくださる方が何人もいました。お年寄りの方も馬に乗りたいと言って乗ってもらったんですけど、こちらもドキドキはするんですが、でもそういうリスクも取りながら笑顔をつくっていく仕事だなと、改めて思いましたね。


子どもや動物の隣りで

愛子さん:
そういえば山本さん、お子さんがいらっしゃると言っていたわよね。

山本さん:
はい、今8ヶ月です。

愛子さん:
お子さんはさぁ、なんの動物に似ている?

山本さん:
えー、そうですねぇ…馬と同じようによく見ているなあって思ったりはします。たとえば僕がケータイをいじっていて、パッと子どもの方を見るとそんな僕をじーっと見ていたりするんですよね。あ、やばい観察されてるって(笑)。馬もその人をすごい観察したりするので、馬に見られているような気分になることはあります。

愛子さん:
ふふふ。赤ちゃんの時から、その子らしさってあるわよね。何かとぎゃんぎゃん騒ぐ子もいれば、わりとじっと耐える子もいるし、あなたのお子さんみたいに観察する子もいる。威嚇ばっかりしている子は、怖がりのライオンで、自由人で素知らぬ顔してやるのはネコでとか思ったりするわ。

山本さん:
じゃあうちの子は犬の部分もあるかなぁ。常にお母さんを探して、いなくなったらうえーんって泣いて。僕が抱っこしていても、お母さんがくると泣きだすんですよ。それで、抱っこを代わると、今度はこっち見てニコッと笑ったりして(笑)。

愛子さん:
あらー、お母さんが大好きなのね。そして、安全地帯からはにニコっとできるのよねぇ。やっぱり命のもとだから。

そうそう、この絵本知っている?マリー・ホール・エッツの『わたしとあそんで』。


『わたしとあそんで』(マリー・ホール・エッツ/福音館書店)

山本さん:
知らないです。初めて見ました。

愛子さん:
私すごく好きで、女の子が原っぱに行っていろんな生き物に「あそびましょう」と呼びかけるんだけど、手を伸ばすとみんな逃げていっちゃうの。でも、石に腰掛けてじっとしていると、逃げて行った生き物たちが戻ってきて、一緒に遊んでくれる、というお話なんだけどね。

保育者の人たちみんなに読んでほしいと思うんだけど、お節介して近づいていくと生き物って逃げていくのよ。本当その通りよねと思う。働きかけると働きかけるだけ、警戒する。逆に、こちらが落ち着いてじっとしているとみんな寄ってくるのよ。この絵本のように。それは動物だけでなく、子どもも一緒だと思うのよね。

私、子どもの頃、おばあちゃんが歌舞伎座が好きでよく一緒に見に行ったんだけど、その時におばあさんの友だちがいつも「お名前は?年齢は?可愛いわね」と頭を撫でてきて、それがすごくいやだったのよ。頭を撫でられるのを振り払える勇気がほしいと思ったくらい。今思うと、相手が私を自分の方に引き込もうとするのがイヤだったのよね。警戒していたんだと思う。

だからね、子どもや動物と関わる時は、この絵本みたいに、じっと待ってごらんと思うの。そうしていると安心して寄って来てくれるわよって。


「井戸端aiko」おしゃべりのお相手は…

山本直輝さん
公益財団法人ハーモニィセンター理事

1984年、神奈川生まれ。
大学生時代にハーモニィセンターにてキャンプリーダーを3年間経験し、「子どもに関わる仕事」を志すように。卒業後、山村留学指導員を3年間つとめた後、職員としてハーモニィセンターに戻る。移動動物園や乗馬のキャンプだけでなくスキー・登山のキャンプや国際交流、東北の支援活動など様々な事業を担当。動物とのふれあいや自然体験を通して、たくさんの子ども達の成長に貢献したいと考え活動している。
公益財団法人 ハーモニィセンターについて

柴田愛子さん

1948年、東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。
1982年、「子どもの心に添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。保育のかたわら、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。テレビ、ラジオなどのメディアにも出演。
子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。
著書 
「子育てを楽しむ本」「親と子のいい関係」りんごの木、「こどものみかた」福音館、「それって保育の常識ですか?」鈴木出版、「今日からしつけをやめてみた」主婦の友社、「とことんあそんで でっかく育て」世界文化社、「保育のコミュ力」ひかりのくに、「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」小学館、絵本「けんかのきもち」絵本大賞受賞、「わたしのくつ」その他多数。



取材・撮影:雨宮 みなみ



この記事の連載

「子どもは五感を通して体に染み込ませていく」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 山本直輝さん<前編>

「子どもは五感を通して体に染み込ませていく」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 山本直輝さん<前編>

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする新連載「井戸端aiko」。

記念すべき第一回目のおしゃべりのお相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで働く、山本直輝さん。

愛子さんと山本さんの出会いは、山本さんが子どもの頃。今回、ハーモニィセンターの移動動物園がりんごの木にやってきたことで再会しました。

「子どもと生き物の出会いは、大人が思っているほど美しくない」柴田愛子さんが覗く、子どもの世界。〜井戸端aiko番外編〜

「子どもと生き物の出会いは、大人が思っているほど美しくない」柴田愛子さんが覗く、子どもの世界。〜井戸端aiko番外編〜

りんごの木こどもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりを楽しむ連載「井戸端aiko」。

第1回目のおしゃべり相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで飼育員を務める、山本直輝さん。
盛り上がったおしゃべりの中で、本編からはカットした「愛子さんと山本さんのこぼれ話」を、番外編としてお届けしたいと思います。