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「子どもは五感を通して体に染み込ませていく」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 山本直輝さん<前編>

三輪ひかり
掲載日:2021/10/19
「子どもは五感を通して体に染み込ませていく」柴田愛子さん ✕ 移動動物園指導員 山本直輝さん<前編>

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする新連載「井戸端aiko」。

記念すべき第一回目のおしゃべりのお相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで働く、山本直輝さん。

愛子さんと山本さんの出会いは、山本さんが子どもの頃。今回、ハーモニィセンターの移動動物園がりんごの木にやってきたことで再会しました。

実は、彼のお兄さんをかつて私が保育をしていました。
当時彼はアブちゃんをつけてよちよちしてました。
月日が流れ、そのお兄さんの子、つまり彼にとって甥や姪がりんごの木に入って来たのです。

そんなご縁で「今なにしてるの?」と、繋がりが復活したというわけです。さらに特殊な仕事をしていることに興味が湧く湧く!

そして、もっと話がしてみたいなあと思った、と愛子さん。

子どもと動物の出会いと関わり。
そこで起こる子どもの育ち。
そして、周りの大人や環境のこと。

移動動物園がきた日のことを思い出しながら話せたらと、りんごの木のはたけでそれぞれの視点から見える、子どもの世界をたっぷりとお話いただきました。

「井戸端aiko」おしゃべりのお相手は…

山本直輝さん
公益財団法人ハーモニィセンター理事

1984年、神奈川生まれ。
大学生時代にハーモニィセンターにてキャンプリーダーを3年間経験し、「子どもに関わる仕事」を志すように。卒業後、山村留学指導員を3年間つとめた後、職員としてハーモニィセンターに戻る。移動動物園や乗馬のキャンプだけでなくスキー・登山のキャンプや国際交流、東北の支援活動など様々な事業を担当。動物とのふれあいや自然体験を通して、たくさんの子ども達の成長に貢献したいと考え活動している。
公益財団法人 ハーモニィセンターについて

柴田愛子さん

1948年、東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。
1982年、「子どもの心に添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。保育のかたわら、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。テレビ、ラジオなどのメディアにも出演。
子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。
著書 
「子育てを楽しむ本」「親と子のいい関係」りんごの木、「こどものみかた」福音館、「それって保育の常識ですか?」鈴木出版、「今日からしつけをやめてみた」主婦の友社、「とことんあそんで でっかく育て」世界文化社、「保育のコミュ力」ひかりのくに、「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」小学館、絵本「けんかのきもち」絵本大賞受賞、「わたしのくつ」その他多数。

一人ひとり動物との出会いかたは違う

愛子さん:
この間はありがとうございました。りんごの木、初めて移動動物園というものに来てもらったけど、すごくいい時間だったわ。

山本さん:
こちらこそありがとうございました。

愛子さん:
移動動物園って普通の動物園と比べて、動物の種類が圧倒的に少ないじゃない。でも、見るだけではない。そこが決定的に違うなと思ったの。

山本さん:
うちは移動動物園だけではなく、ポニー牧場と動物広場という動物園のような施設も運営しているんですけど、移動動物園には移動動物園にしかない良さがあるなあと感じていて。

たとえば、乗馬ひとつとっても、動物園だと乗馬のコーナーがあって、子どもたちや来場者のみなさんにはそこで馬に乗ってもらうだけなんだけど、移動動物園だと乗るだけじゃなく、触ってみたり、エサをあげてみたり、その子がしたいやり方で馬に関わることができる。子どもがやりたいことをこちらが様子を見て提供することもできるし、子どものペースに合わせて動物との出会いをつくっていけるのは、すごくいいなと思っています。

あと、ここ(りんごの木)に来た時も思いましたけど、子どもが素でいられるんですよね。動物園に行くと結構カチッとしちゃうじゃないですか、子どもって。

愛子さん:
そうよね。行く時は外向きの自分になっていくけれど、来てもらうというのは自分のテリトリーに動物を迎え入れるわけだから、そもそもの前提が違うわよね。

山本さん:
自分たちのテリトリーに動物たちが遊びにきた、みんな(動物たち)おいでよって感じになるのがいいですよね。遠足でうちの施設に来てくださる幼稚園や保育園があるんですけど、先生に「見てきてもいいよ」とか「牛を見るよ」って言われるまで子どもたちは待つみたいな姿があって、それってなんか変だよなあって。

愛子さん:
この間、ヤギも連れてきてくださったけど、子どもたちはその辺に生えている草をちぎってあげてたじゃない。私、その姿を見てああよかったなあと思ったのよね。というのも、その辺にあるものを動物が食べるってことすら知らない子が多いのよ。


りんごの木に移動動物園がきた時の様子。

愛子さん:
今、りんごの木でカメを飼ってるんだけどね、そのカメ何を食べていると思う?“カメのエサ”を食べているのよ。こういうドーナツ型の市販のエサ。で、カメがそれに飽きちゃったからって、今度は“カメのおやつ”をあげるんだって。どんどん本来の形とは違うところで動物が存在してしまっている。なんでも元を知っていてこそ柔軟な思考になると思っているから、そこに触れられる経験ができるといいわよね。

私、よく思うんだけど、小学校、中学校ってあんなに勉強したのに何も残ってないじゃない。ところがさ、感覚的なものってすごく覚えてる。たとえばうちに卒業生が訪ねてくると、出来事じゃなくて「懐かしい」って言うのよね。「この階段が懐かしい」、「この匂いが懐かしい」って。

そういう姿を見ていると、五感を通しての記憶というか沈澱したものって、その子の根底にふるさとをつくっているというようなところがある気がするんです。だからこの前来ていただいた時も、子どもたちは「思ったよりモルモットが重かった」とか、「馬の毛が硬かった」とか、そういう感覚的なことを通して体験を染み込ませていたんじゃないかしら。

山本さん:
うちも牛や鹿など展示のみの動物もいますけど、やっぱり触れられるって大きいなと思います。ああやって触ると、匂いや温かさ、噛まれると痛いって、本当に五感をフルに使って動物のことを感じられるので、子ども一人ひとりの反応が違うんですよね。

愛子さん:
そうよね。子どもって全種類見ようと思って動物園に行くわけじゃないのよ。大抵は動物のうんちとか、何を食べてたとかを見ていたり、一つの動物をじーっと見たりしている。だから、りんごの木で動物園に行く時は、「ひとつの動物でいいんです。あとは動物と触れ合うようなことをさせてもらえないか」とお願いするの。



大人の思いと子どものペース

愛子さん:
動物って日常的じゃないから、どうやって出会わせていくのかが、結構難しいなと思うの。だから、動物園や水族館に子どもを連れていくと、親や保育者の目的に合わせて子どもを動かしてしまいがちになる。それで結構子どもが疲れちゃったりするのよね。

それこそ、大人と子どものギャップみたいなものを、こういうお仕事しているとすごく感じたりしない?

山本さん:
馬に乗るコーナーで自分の番がきて馬が目の前にくると、「いい。私はやらない」と言う子っていたりするんですけど、そうすると親が「乗りなさい」「せっかく来たんだから、またがってごらん」と言うことって結構あって。子どもがこれしたいというより、親がこれさせたいんだろうなというのを感じることはありますね。一人ひとり動物の楽しみ方や出会い方は違うから、もうちょっと待ってあげられるといいんだけど。

愛子さん:
そういう風に言えるもの?もうちょっと待ってみましょうねとか。

山本さん:
正直、1年目とかはあまり言えなかったですけど、今は「ちょっと待ってみようか」、「あの子がいいんだよねぇ」と子どもに対して声をかけながら、「お母さんもうちょっと待ちましょうか」と親御さんにも声をかけたりしています。

愛子さん:
「せっかく動物園来たんだから抱っこしなさい」とか、「触ってみたほうがいいんじゃないの?」って大人のお節介よね。見ているだけの時だってあっていいと思う。

山本さん:
本当にそうなんですよね。移動動物園でも、普通の園とかって言ったらあれですけど…。

愛子さん:
いいのよ、りんごの木は普通の園じゃないから(笑)。

山本さん:
このクラスは乗馬とか決められていて、それ終わったらこっち、こっちが終わったらここで待ってて、はいおしまい、ありがとうございましたという感じのところが多いんですよ。もちろん、それでも子どもたちは楽しんでくれるのですが。

でも、この間りんごの木では、学年ごとに1時間と決まってはいるけど、時間だから帰るわよというまでは子どもたちは自由にしてよかったですよね。そうすると、好きなところに行って、飽きたらあっちいこうって。そうかと思うと、ずーっと同じモルモットを抱っこしている子もいたりして。

愛子さん:
馬もいたのに、3歳児はすぐ乗ろうとはしなかったわよね。

山本さん:
そうですね。3、4、5歳で全然違いました。

愛子さん:
年齢の違いが明らかにあったよね。3歳児は、自分たちの遊びをしながら風景として眺めているっていうか、いきなりわあーって近づいていかない。これ(馬)に乗ってみたいなんて子もいないからさ、私が一番に乗って。みんな馬は乗るものだって知らなかったんじゃないかしら(笑)。4歳、5歳になると、ああ!!ってすぐに近づいていきましたよね。



心が動く仕事

愛子さん:
そもそもあなたが今の仕事に就いたきっかけってあるの?

山本さん:
子ども時代に一度、ハーモニィセンターに行ったことがあって、学生時代に3年くらいボランティアをやってました。大学は経済学部に入っていたんですけど、就職どうしようかなと思った時に子どもに関わる仕事に就きたいなという思いもあったので、山村留学のスタッフになったんです。そこで3年働いて、そのあと「うちで働かない?」と改めて声をかけてもらって、ハーモニィに戻ってきた感じですね。

愛子さん:
経済学部だったけど、子どもと動物に惹かれてたんだね。山村留学ってその地域の民宿やおうちで暮らすってこと?

山本さん:
僕が働いていたところは、月の半分はひとつの建物で山村留学にきている子どもたちみんなで共同生活をして、月の半分は農家でそれぞれにホームステイするような暮らし方をしていました。

愛子さん:
子どもは何歳くらいなの?

山本さん:
小学校1年生から中学3年生までで、子どもたちは住民票も移して、現地の学校に通っていました。僕はその子たちと毎日寝泊まりして、宿題を見て。

愛子さん:
でも小さい子は泣くでしょう?

山本さん:
泣きますね。だから一緒にお布団入って寝たりもして。

愛子さん
あなた、よくそんなめんどくさいことやろうと思ったわね(笑)。

山本さん:
(笑)。でも楽しかったですよ。山村留学の仕事も、今のハーモニィセンターの仕事も本当に楽しいなと思いながらやっています。

愛子さん:
私ね、昔OLをやったことがあるんだけど、楽しかったけど飽きるのよね。すぐ飽きちゃう。でも、生き物、私の場合は子どもだけど、生き物って飽きないのよ。知ったつもりになってもまだわからなかったり、毎日毎日いろんなドラマが展開されていくから、いつも心が動いているというか、動かざるをえないというか。いつも全身が生きている感じがするのよね。

山本さん:
あー、その感じわかります。

愛子さん:
いろんな感動ももらってね。激怒することもあるけど(笑)。でも、こんなに心が揺さぶられることって他にないから、一度こちらの世界にきちゃうと戻れないのかもしれないわね。


取材・撮影:雨宮 みなみ



この記事の連載

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りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりを楽しむ連載「井戸端aiko」。
第一回目のおしゃべり相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで働く、山本直輝さん。

後編では、動物(指導員)と子ども(保育者)、同じ生き物を相手に仕事をしているという話題から話がどんどん広がっていきます。

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りんごの木こどもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりを楽しむ連載「井戸端aiko」。

第1回目のおしゃべり相手は、ポニーキャンプやふれあい広場、移動動物園など、さまざまなカタチで子どもと動物の出会いを作り出すハーモニィセンターで飼育員を務める、山本直輝さん。
盛り上がったおしゃべりの中で、本編からはカットした「愛子さんと山本さんのこぼれ話」を、番外編としてお届けしたいと思います。