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わがままに生きることってそんなにいけないことかしら?ー柴田愛子さん×臨床心理士 武田信子さん〈番外編〉

三輪ひかり
掲載日:2024/11/08
わがままに生きることってそんなにいけないことかしら?ー柴田愛子さん×臨床心理士 武田信子さん〈番外編〉
りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする連載「井戸端aiko」。

第8回目のおしゃべりのお相手は、臨床心理士で一般社団法人ジョイスの代表理事を務める武田信子さん。

盛り上がったおしゃべりの中で、泣く泣く本編からはカットした「愛子さんと武田信子さんのこぼれ話」を、番外編としてお届けしたいと思います。

愛子さん
りんごの木では毎年、子どもたちをキャンプにお誘いするんだけれど、「行かない」って言う子は、私置いていくのよ。それをすごい勇気のあることをやっているように言われることがあるんだけどね、別に特別なことをしているつもりはないの。

というのも、小学校って林間学校っていうのがあったじゃない。子どもの頃の私は、どう考えてもその林間学校って面白そうじゃないから、「私は行かない」と決めて行かないような子だったの。だから「行かない」という気持ちがわかるし、行きたくなければ行かなくていいじゃないと思うわけ。

そうすると、「疎外感を感じたり、その後に仲間外れとかにならないの?」と言われたりもするんだけど、自分がイヤだ、行かないって決めたことだから、それで仲間外れになるとかならないとかって別にどうも思わないのよ。それこそ、林間学校から帰ってきてから授業で振り返りみたいなものもあったと思うけど、そういうのがあったかどうか覚えていないくらい、私自身は気になってないの。本人は意外とそういうものなのよね。

愛子さん
「愛子さんは、みんなと同じとか普通とかっていうのに縛られたことってないんですか?」って聞かれることもあるんだけどさ、あまりないかもしれないなと思って。それはたぶん、そういうことよりも自分が濁ることがイヤなのよね、私。

武田さん
今を生きる多くの人は、仲間外れになるとか、疎外感を感じるということに敏感な人が多いと思います。それは子どもに対してもそうで、だから人の目や周りからの評価を気にしながら子育てをしたり、子どもがそういう(仲間はずれなどの)対象にならないような立ち位置にいられるかどうか必死になって、勉強させたり、習い事させたり、いい学校に通わせようとしたりする。

そして、そうしてしまうのはとりわけお母さんに多い印象を受けます。日本の子育てってジェンダーの問題と深く繋がっていると私は思っていて、何も許されず、制限され、生きたいように生きてこられなかった女性たちが、せめて我が子は生きたいように、わがままが言えるような位置につけさせてあげたいと思って、そのために教育をし過ぎてしまう。

愛子さん
でも「わがままに生きていいよ」って、そんなの日常からできるじゃん。他者から評価されていて、誰からも文句を言われないように生きることが自分を生きることではなくて、自分はこうしたいと生きることがわがまま(我がまま)に人生を生きることでしょう。

それに、わがままってすごく否定的な意味で使われるし、みんな「わがままに育てたくない」「人に迷惑をかけたくない」って言うけれど、人に迷惑をかけたっていいんじゃないですか。

だって、わがままって別に人を無視しているわけじゃないし、自分の意見からおりることも知っている。それに、人って育っていくんです。育っているんだから、「こんな怒られちゃった」とか「あ、この人はこうされるのはイヤなんだな」って気づいたらやめるのよね。それは、忖度じゃなくて、そう自分自身が感じた(気づいた)から。

それを感じる前に「嫌われるからやめよう」って、失敗を恐れて踏み出す前に自分で自分を囲ってしまったり、「これはしてはいけません」と周りが囲いをつくっていくと、どんどんどんどん自分が自分じゃなくなるし、不自由になってしまうんじゃないかしら。



武田 信子さん
1962年、名古屋生まれ。
20代の頃に総合病院精神神経科思春期病棟で行われていた精神分析的治療の様子から、人生の最初期のケアがどれほど大切かをスタッフや患者さんたちから学ぶ。
大学教員をしながらの子育てを経て、乳幼児の養育環境の改善による発達支援のために、世界各国・日本各地の子育てや教育の現場を子連れで視察、滞在。心理学・教育学・ソーシャルワークの3分野の学びを深める。
2020年に大学を早期退職して、2021年一般社団法人ジェイスを立ち上げ、体と心と脳の発達を保障する社会の実現を図ろうと、日本の子どもたちの育つ環境について、全国で講演や研修、集会を行い、発信している。

柴田 愛子さん
1948年、東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。
1982年、「子どもの心に添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。保育のかたわら、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。テレビ、ラジオなどのメディアにも出演。
子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。
著書
「子育てを楽しむ本」「親と子のいい関係」りんごの木、「こどものみかた」福音館、「それって保育の常識ですか?」鈴木出版、「今日からしつけをやめてみた」主婦の友社、「とことんあそんで でっかく育て」世界文化社、「保育のコミュ力」ひかりのくに、「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」小学館、「それってホントに子どものため?」チャイルド本社、絵本「けんかのきもち」絵本大賞受賞、「わたしのくつ」その他多数。
新刊「保育のヘンな文化 そのままでいいんですか!?」大豆生田啓友共著 小学館、「愛子さんの子育てお悩み相談室」小学館。

写真:雨宮 みなみ

この記事の連載

「条件付きで認める」のではなく、無条件で「あなたはあなたのままでいい」と言ってあげたい。ー柴田愛子さん×臨床心理士 武田信子さん〈前編〉

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りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする連載「井戸端aiko」。

第8回目のおしゃべりのお相手は、臨床心理士で一般社団法人ジョイスの代表理事を務める武田信子さん。

「武田さんがりんごの木に遊びに来てくださった時におしゃべりに花が開いて。井戸端aikoでもぜひ武田さんとお話したいなと思ったの。」という愛子さんからのリクエストで、武田さんとの対談が決まりました。

「育とうとする力が子どもの中にはある。」ー柴田愛子さん×臨床心理士 武田信子さん〈後編〉

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りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする連載「井戸端aiko」。

第8回目のおしゃべりのお相手は、臨床心理士で一般社団法人ジョイスの代表理事を務める武田信子さん。

後編では、編集部の質問から話が広がり、お二人の考えや在り方をたっぷりとお聞きしました。