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「おかげで、私は自分が好き」子どもの一言から見えてきた、私たちのやるべきこと。ー 柴田愛子さん×山内小学校校長 佐藤正淳さん〈番外編〉

三輪ひかり
掲載日:2024/02/22
「おかげで、私は自分が好き」子どもの一言から見えてきた、私たちのやるべきこと。ー 柴田愛子さん×山内小学校校長 佐藤正淳さん〈番外編〉
りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする連載「井戸端aiko」。

第六回目のおしゃべりのお相手は、神奈川県横浜市にある山内小学校で校長を務める、佐藤正淳先生。

盛り上がったおしゃべりの中で、泣く泣く本編からはカットした「愛子さんと佐藤校長先生のこぼれ話」を、番外編としてお届けしたいと思います。

愛子さん
りんごの木に通っていた時は、ぼーっとしていたんだけど、年を重ねる度に、だんだん勉強ができるようになった子がいたんです。高校生の時には、文科省のサポートを受けて留学もして。ところがね、高校2年生で留学から帰ってきてから、一気に視力がなくなったんです。手術をしても回復はしないだろうと言われ、そこからあっという間にわずかな視力になってしまいました。

夢に向かって突き進んでいることを知っていたから、私はすごく心配したんですけど、いつの間にかテレビに出て、「今、点字はあちこちにあるけど活きてない」なんていろんなことを明るく喋るような人になっていたの。私、びっくりして。

それで久しぶりに会った時に、「あなたはどうして見えなくなってからも、こういうふうに外に発信していく人になれたのかしら?」って聞いたらね、「りんごの木の時に、私は歯ブラシに夢中になってたことがあったでしょ。泊まりでキャンプに行った時も、みんなが川遊びしている中で歯磨きをしてて。でもその時にりんごの大人たちは、せっかく来たんだから川で遊んだら?とか、歯磨きはもうやめたらって言わなかったよね」と言うの。全然こっちは記憶にないんですよ。

愛子さん
それから、その子は物をよく失くす子だった。どこかに置きっぱなしにしちゃうのよね。それで、いちいち探すのも大変だから専用の忘れ物箱を作ったわけ。みんなが「あ、〇〇ちゃんのっぽいな」と思ったものを入れていって、帰るときにその中から自分の物を持ち帰れるようにしたの。それを覚えていたみたいで、「ああいうふうにしてくれたよね。私がいるとなんか温かくていいって言ってくれたよね。りんごの木でのそういうことが全て自己肯定感に繋がったと思う。おかげで、私は自分が好き。目が見えていた時も、目が見えなくなっても」って。

それで私は、私たちのやるべきこと、やれることってそう多くはないのかもしれないって思ったの。私が数学の先生に自分を見出だしていただいたのもそうだけど、私たちのやることって「あなたっていいね」って、そういうことなんじゃないかなと。

佐藤校長先生
本当にその通りだと思います。僕たちがやることは、一方通行に教えることになっちゃいけない。ちょっと視点を変えて、子どもの横で伴走者になってその子自身の姿に気づき、認めてあげる。それを伝える。そうすると喜びが、掛け算になって大きくなっていくわけです。

佐藤校長先生
授業の設計も、その中での子どもの学び方もいろんな方法があるし、教師が一方通行で教えたり言ったりするのは簡単です。簡単だけれど、それが喜びの芽や成長の芽、気づきの芽、自己肯定感の芽を摘んでしまっていないかに目を向けたい。

愛子さん
そうなのよね。教えなければいけないもののもっと奥の、真の部分に触れることをしていきたいわよね。



佐藤正淳さん

1967年生まれ、56歳。福島県出身。文教大学教育学部卒。
1989年、横浜市立あざみ野第二小学校で教員人生をスタート。
西前小学校では個別支援学級担任を5年間務める。ルーマニアブカレスト日本人学校を経て、白幡小学校で副校長などして地域や企業と連携した先進的な取組を牽引。
2013年、横浜市教育委員会事務局教育課程推進課指導主事として「横浜教育ビジョン2030」の策定や働き方改革を推進。2017~18年には文部科学省の業務改善アドバイザーとして全国各地に出向き、働き方改革に係る講演等を行う。2019年より現職。

神奈川県横浜市立山内小学校:
今年創立150周年を迎えた公立小学校。
「あったかハート」という学校テーマと「誰一人取り残さない学校」という教育目標を掲げ、学校内だけでなく地域や地元企業と連携した共育・共創の教育活動を実践している。

山内小学校の取り組みの参考記事はこちら

柴田愛子さん

1948年、東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。
1982年、「子どもの心に添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。保育のかたわら、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。テレビ、ラジオなどのメディアにも出演。
子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。
著書
「子育てを楽しむ本」「親と子のいい関係」りんごの木、「こどものみかた」福音館、「それって保育の常識ですか?」鈴木出版、「今日からしつけをやめてみた」主婦の友社、「とことんあそんで でっかく育て」世界文化社、「保育のコミュ力」ひかりのくに、「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」小学館、「それってホントに子どものため?」チャイルド本社、絵本「けんかのきもち」絵本大賞受賞、「わたしのくつ」その他多数。

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撮影:雨宮 みなみ

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第六回目のおしゃべりのお相手は、神奈川県横浜市にある山内小学校で校長を務める、佐藤正淳先生。ほいくる編集長の雨宮から、おもしろい取り組みをしている山内小学校の校長先生とお繋ぎしたい、と提案させてもらい、佐藤校長先生との対談が決まりました。

「座っているふりができる子にしたいですか?」柴田愛子さんと山内小学校校長 佐藤正淳さんと考える、学校へ行く意味。〈後編〉

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前編では、愛子さんの子ども時代や佐藤校長先生の実践の話から、子どもに携わる大人の在り方や学校という場の持つ可能性について話が広がっていきました。
後編は「そもそも学校って何する場所?」という愛子さんの質問から、さらにおふたりの子どもへの眼差しと在り方が見えてきます。