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「保育者や環境が変わると、子どもが変わる。」指針・要録改定から3年。汐見先生の感じた変化と今。

三輪ひかり
掲載日:2021/05/12
「保育者や環境が変わると、子どもが変わる。」指針・要録改定から3年。汐見先生の感じた変化と今。

「保育所保育指針」、「幼稚園教育要領」そして「認定こども園教育・保育要領」の3法令が施行されて、もうすぐ3年。

改定時にもインタビューをさせていただいた、保育・幼児教育の第一人者でもある汐見稔幸さんに、この3年間での保育現場の変化についてお話を伺うことにしました。

改定時にお話を聞いた記事

「子どもたちは、自分探しの旅をしている」— 汐見稔幸さんが考える本当の“保育の質”とは
汐見稔幸さんが提案する、「保育の質」に繋がる5つのヒント

汐見 稔幸(しおみ としゆき)

1947年 大阪府生まれ。東京大学名誉教授、白梅学園大学学長、日本保育学会会長。
2017年告示保育所保育指針改訂の検討を行った厚生労働省社会保障審議会児童部会保育専門員会の委員長を務める。
専門は教育学、教育人間学、育児学。育児学や保育学を総合的な人間学と考えていて、ここに少しでも学問の光を注ぎたいと願っている。保育者たちと臨床育児・保育研究会を立ち上げ定例の研究会を続けている一方、三人の子どもの育児にかかわった体験から父親の育児参加を呼びかける活動もしている。保育者と保護者の交流誌『エデュカーレ』編集長。

保育者や環境が変わると、子どもの姿が変わる

ー 今日はありがとうございます。

こちらこそ。よろしくお願いします。


ー 早速ですが、汐見先生が感じている保育所保育指針、幼稚園教育要領、そして認定こども園教育・保育要領の改定後の現場の変化から話をお伺いできますか。

僕を含め改定に関わったメンバーたちは、3法令の改定後1年〜1年半くらいは、それぞれの法令がどう改定されたのかを伝えることにエネルギーを費やしてきました。全国の自治体や園を巡って説明をしたり、いろんな出版社から、改定についての本を出版したりして。

というのも、幼稚園も保育園も、要領・指針の中では約30年前の改定から「子ども主体の保育に変えよう」とやってきていますけど、保育の現場ってそう簡単には変わらないんですよね。

たとえば、私の妻は保育者なのですが、「40年以上前に勤めていた保育園で、私が働いていた頃に行っていた行事が今もまだ行われていた。社会はどんどん変化しているのに、園では同じ行事をやっているということに驚いた」と言っていました。でもそのくらい、保育の現場って変わりづらいところなんだと思うんです。

でも、そういうところを変えようとしたのが、今回の改定ですよね。保育も今の時代にふさわしいものにしていこうよと。

ー 実際、変わっていったのでしょうか。
 
私の知る限りの話にはなりますが、指針や要領を読み解き、保育者の子どもへの関わり方や声かけ、園の環境を変えてみた園があったことは間違いありません。そうすることで、子どもたちの姿が変わった、というところもいくつもありました。

子どもが集中して遊ぶようになったり、トラブルが減ったりして、「変えることに意味があるんだ」と実感したという声も多く聞きましたね。


ー 保育者や環境が変わることで、子どもの姿が変わる。

ただ、今までのやり方にこだわっている人と、それはまずいんじゃない、やりかたを変えようという人が混在し、難しさを抱えた職場も増えました。ベテランの先生たちの中には、「昔から私はこうやってきたし、それで子どもたちは問題なく育ってきた。なんで、私がやっていることを否定するの」と感じてしまう人もいるようです。

もちろん、その人自身を否定しているわけではない。時代が変わったから、やりかたも変えなくちゃいけないということなんですけど、一回身に染み付いたことはなかなか変えられないんですよね。

そういう意味で、「ちゃんと話をしよう」と対話できる職場は改定したことでポジティブな変化が生まれていましたけど、「こうした方がいいんじゃないですか」「こうしたいです」と言えない職場、言っても否定されてしまう職場では、保育を変えていきたいと思っている人も苦しくなる、というネガティヴな変化も起こってしまいました。

ー 私も昔働いていた職場で、保育者同士のコミュニケーションがうまくいかずに苦しかったことがありましたが、今回の改定によって、保育者間の考え方の違いがより浮き彫りになり、衝突や葛藤が起きた職場が増えたのかもしれないですね。

保育者がなぜすぐ辞めてしまうのかというのは、給料が安いからということだけじゃないんですよね。給料が多少安くても、仕事が面白ければ続けられるでしょう。保育者同士で意思疎通がうまくできなかったり、なかなかひとつの方向に向かっていけない中で、自信をなくしたり、葛藤が大きくなったりして辞めていく人も多い。

変化の時期、変えなくちゃいけないという時期は、それに抵抗する人と変えたいという人、当然両方出てくるし、その間で葛藤が生まれます。それは仕方がないこと。仕方がないんだけども、そこを上手に克服して前に進んでいけないと、保育者のみなさんも働くのが辛くなるし、子どもと過ごす日常にも影響がでてきてしまうわけです。


それでもうまくいく、ということに気づいた

ところが3年目を迎えて、新型コロナウイルスが保育園や幼稚園の日常をも襲ったことで、局面が少し変わっていきました。指針、要領を…というより、どうやってコロナに対応するかということのほうが圧倒的に大事になっていったのです。

特に去年の4・5月頃は、多くの保育園や幼稚園でも休園をしたり、規模を縮小して保育をしていましたよね。自主的に登園自粛をした家庭もあったり、園側から自粛の協力を呼びかけたりして。

そして、いつもの半分くらいしか子どもが登園していない状況で保育をして、何が起こったか。1クラス30人に先生1人で担任しているような幼稚園だと、普段はとにかく喧嘩しないように、怪我しないようにと、さまざまな配慮や考慮ばかりに気を向けなくてはいけなかったのが、びっくりするくらい子どもに心を向けて保育ができたわけですよ。

熱心であればあるほど、「今日も中途半場にしか遊べなかったな」「遊びに没頭している子は数人しかいなかった」と、いろんな反省や徒労感が残るという感じだったのが、そうではなくなっていったんです。


ー 大事にしたいことを“きちんと”大事にしながら保育ができるようになった、ということでしょうか。

そうです。30人いたのが10人になったら、子ども一人ひとりがよーく見えてくる。子どもの数が少なくなると、先生がひっぱらなくても子どもたちはよく遊ぶことが見えるわけです。

異年齢保育も、30人もいたらできっこないと思っていたのが、10人、10人、10人になれば、必然的に異年齢になっていくんですよ。「自分のクラスの友だちだけだとちょっとしか遊べない」と、自然と子どもたちの中に、上の子が下の子に何かを教えてあげたり、下の子が上の子を真似てついて行ったりする姿がでてきて、すごくいい関係ができる。そうすると、「本当は異年齢のほうが自然なんだな」ということに保育者も気づいていきます。



ー 社会に出ると同年齢だけで暮らすことなんてないですもんね。

「この会社は、みんな29歳です」とかあり得ないでしょう。社会の中にはいろんな世代がいる。だから、保育園や幼稚園、小学校もそうですけど、そういう異年齢の関係性がない状態がおかしかったわけです。でもコロナの影響で、異年齢や少人数の良さが自然と見えてきて、保育が少し変わってきました。

例えば、「三密は避けましょう」と言うけれど、保育はある程度密にならざるを得ないでしょう。距離をとって集団遊びしましょう、なんて無理です。じゃあどうすればいいかと考えると、いろんな可動遊具を置いておくことが大事なんだということに辿りつくわけです。

園庭を多様な遊具空間にする。そうすると、あるグループはサッカーをしていて、その隣りではタイヤを積み上げている子もいるし、縄をはって何かをつくっている子たちもいる・・・というような風景になってきます。そうやって子どもたちが自然とあちこちで遊ぶようになると、過度な密にもならなくなっていきます。

他にも、行事の演目を減らしてみたり、動画配信するので家で保護者のみなさんも一緒にやってみてくださいとかね、行事や活動の在り方も切り替え、工夫して行なった園がたくさんあったかと思います。

そうすると、「それでもうまくいくじゃん」ということが分かってくるんですよね。やらなくちゃいけないと思ってやっていたけど、やらない方が、カタチを変えた方が、子どもたちが生き生きしているぞ、と気づいたんです。

園で全てやらなくてはいけないと思っていた仕事も、各家庭で分担してやってもらえることもある、その方が親も園に関わっている感じがしてよりいいなというケースも出てきています。


無理のない自然なカタチへ

ー たしかに、このコロナ禍で保護者の園への関わり方、園から各家庭へのサポートの仕方が大きく変わったように思います。

指針や要領の改定後、「子育て支援をするというのは、上から目線で正しい子育てを伝えるということとは違う」ということを繰り返し伝えてきました。ここで述べている子育て支援というのは、「子どもを一緒に育てていくことを喜び合う“共育て”の関係を築いていこう」というものだからです。

それがなかなか伝わりづらく、難しさを感じていたところに、期せずして各園で各家庭とのコミュニケーションのカタチを変える動きが起きたわけです。コロナ禍によってね。

だから、コロナはそれまでの日本にあった保育のいろいろな問題をあぶり出して可視化したな、と僕は思うんです。しかも、そこで留まるのではなく、じゃあこうしていこうと考えてやってみる。子どもにとっても、保育者にとっても「無理のない自然なカタチ」というものが追求されていくということが起きました。

子どもを主体にするということは、子どもたちがもっと自然な状態で成長していくという意味でもあるんです。だからそういう意味では、保育のいろんな難点をあぶり出して、この際変えようよという大きな変革を起こすきっかけに、コロナがなっていると思います。

だからこそ、コロナ禍で一生懸命工夫したこと、変えたことをコロナが終息したら元に戻しちゃうのではなくて、苦労して編み出したやり方はその後もっと洗練していく、そういう風にしていってほしいなと願っています。「コロナ後はコロナ前より明らかによくなった」って、みんなが思えるような保育をしていきたいですよね。


汐見先生が責任編集をされている『エデュカーレ』について

『エデュカーレ』は、「保育のことをもっと勉強したい!」「悩みについてみんなの意見を聞きたい!」「自分の思いを発信したい!」そんな人たちのための雑誌。
2020年10月に、創刊100号記念としてMOOK本を発行されました。

ゆるゆると学ぶ保育の質と指針・要領

この度、この記事を読んでくださったHoiClueの読者から抽選で10名様に、この『創刊100号記念ムック』をプレゼントいたします!

※お申し込み期限:2021年5月21日(金)12:00まで
※抽選結果は、当選された方にのみ、メールにてご連絡させていただきます。
※プレゼントは、エデュカーレを発行している臨床育児・保育研究会から発送させていただきます。予めご了承いただき、お申込みをお願いいたします。

汐見先生のその他のプロジェクト「ぐうたラボ建設」について

八ヶ岳南麓にある、保育者のためのエコカレッジ「ぐうたら村」。
今そこに、保育者や子どもの育ちに興味がある方々のために開かれている研修スペースの建設に向けたプロジェクトが動き始めてします。
▶詳細はこちら

ご興味のある方は、ぜひこちらも合わせてご覧ください。


この記事の連載

「そもそもなぜ?を議論しよう」ー 汐見稔幸さんと考える、これからの時代に大切になること

「そもそもなぜ?を議論しよう」ー 汐見稔幸さんと考える、これからの時代に大切になること

前編で、「保育所保育指針、幼稚園教育要領、認定こども園教育・保育要領の3法令が施行されてからの3年は、大きな変革がはじまった大事な時期だった」と語ってくださった、汐見稔幸さん。

後編では、園や保育者はここからどう歩んでいくとよいのか、未来へ目を向けてお話を伺います。


汐見稔幸先生へのインタビュー記事

「子どもたちは、自分探しの旅をしている」— 汐見稔幸さんが考える本当の“保育の質”とは

「子どもたちは、自分探しの旅をしている」— 汐見稔幸さんが考える本当の“保育の質”とは

2017年に「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」そして「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の3法令が改定され、いよいよ今年(2018年)4月に執行となりました。

この3法令の改定は、改めて保育者一人ひとりが、そして私たちほいくるが、自分たちの保育や子どもと向き合う姿勢、そして保育の質について考える機会でもあると思います。

そこで今回、改定にも大きく関わり、保育・幼児教育の第一人者でもある汐見稔幸さんにお話を伺うことにしました。


汐見稔幸さんが提案する、「保育の質」に繋がる5つのヒント

汐見稔幸さんが提案する、「保育の質」に繋がる5つのヒント

前編で、子どもたちは日々、心にビビビと響いてくる出会いを通して「こういうことを私もしてみたい」と気づく「自分探しの旅」をしているということ。そして、そのために、一人ひとりがその子にとっての「本物の文化」に出会っていくことが大切なのではないか、という考えをお話してくださった、汐見先生。

後編では、保育の質に繋がる「本物の文化」と出会う環境を保育の中でどのように作っていくのか、そのヒントについてお伺いしました。

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