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「子どもたちは、自分探しの旅をしている」— 汐見稔幸さんが考える本当の“保育の質”とは

三輪ひかり
掲載日:2018/04/18
「子どもたちは、自分探しの旅をしている」— 汐見稔幸さんが考える本当の“保育の質”とは


2017年に「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」そして「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の3法令が改定され、いよいよ今年(2018年)4月に執行となりました。

この3法令の改定は、改めて保育者一人ひとりが、そして私たちほいくるが、自分たちの保育や子どもと向き合う姿勢、そして保育の質について考える機会でもあると思います。

そこで今回、改定にも大きく関わり、保育・幼児教育の第一人者でもある汐見稔幸さんにお話を伺うことにしました。

保育の質ってなんだろう?

—いよいよ昨年改定された「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」が施行になりますね。 

そうですね。今回の同時改定の一つの大きなテーマは、日本の保育の質を上げるということなんですけど、“保育の質ってなんなのか”って悩んだり戸惑ったりする保育者も多いんじゃないかなと思います。

汐見先生の写真
*汐見稔幸(しおみ としゆき)
1947年 大阪府生まれ。東京大学名誉教授、白梅学園大学学長、日本保育学会会長。
2017年告示保育所保育指針改訂の検討を行った厚生労働省社会保障審議会児童部会保育専門員会の委員長を務める。
専門は教育学、教育人間学、育児学。育児学や保育学を総合的な人間学と考えていて、ここに少しでも学問の光を注ぎたいと願っている。保育者たちと臨床育児・保育研究会を立ち上げ定例の研究会を続けている一方、三人の子どもの育児にかかわった体験から父親の育児参加を呼びかける活動もしている。保育者と保護者の交流誌エデュカーレ編集長。


僕は、そもそも保育っていうのは、子どもたちが持っている可能性を彼らの中から存分に引き出して、人間として豊かに育てていくという営みだと考えています。

だから、“保育の質が高い”というのは、子どもたちの持っている可能性をどれだけ上手に引き出しているか、ということに尽きるんじゃないかと思うわけです。

—子どもたちの可能性を引き出す、ですか。

そう。ただ、小学校や中学校なんかと違って、「試験で何点取れたか」とか、「何段飛べるようになったか」とか、結果で可能性を引き出せたかが分かるとは限らないんだよね。
むしろ、そういうカタチで出てくるわけじゃないって言ってもいいかもしれない。

じゃあ、その子が持っている可能性が存分に引き出されているかどうかを何で判断するのかっていうと、僕は、「子どもたちがいい顔をしているか」「その子の持っている自然な優しさや温かさが随所に出ているか」だと思うんです。

子どもたちが遊んでいる様子



—子どもたちの姿で、子どもたちの可能性を引き出せているかを判断をするということですか?

そう。教育や保育の成果は、その場その場では計りかねないものなのに、我々は勝手に、これは将来こう繋がるとか結論づけて、保育の質を捉えてしまいがちです。

でも、幼い頃に体験したことや、受けた教育が活きるのは、もしかしたら50年後ということもあるかもしれないし、それがどう活きていくのかは正直分からないよね。

だからこそ、ただその場その場がね、間違いなくその子にとって充実していたり、何かに熱中してイキイキと目が輝く瞬間を送れていたりするか、気負いや無理がなく、その子のままで生活できているかということを、保育者は大切にしていけるといいんじゃないかなと思うんです。

—なるほど。そういうふうに考えると、「保育の質」の見え方が変わってきますね。

そうでしょう。
それでその時にね、できればそういう経験や体験の多さだけではなく、深さに注目してほしいなと思うわけです。

イラスト



ぼくたちは、「自分探しの旅」をしている

汐見先生の写真


“深さ”ということを、僕は、「本物の文化に出会う」って表現しているんだけど。

—本物の文化に出会う、ですか?

例えば、ある仕事に出会った時に、「こういう仕事したかったの」とか、ある活動をしている人と出会って「こういうの、私もしてみたい」とか、そういう風に心にビビビと響いてくる出会いってあるでしょう。

僕は、それを、「その人にとっての本物の文化」だと呼んでいるんだけど。そういうものに、子どもたちにもたくさん出会ってほしいなと思っています。

そして、「あっ!」と思えるモノやコトに出会ったら、まずはやってみてほしい。その子らしく、一生懸命にね。
そうすると、「ここから更にこうやっていくと面白そう」というように、段々その世界の面白さを深く理解していくようになっていく。

幼い頃から、そういう体験をどれだけ多く、そして、深くするのか。その子の人生の幅とか可能性って、そこから見えてくる気がするんです。

子どもが遊んでいる様子


人間は、子どもも大人も関係なく、自分が何を目指して生きているのかを実はよくわかっていなくて、「わたしは本当はこういうことをしたいんじゃないか」という“自分探しの旅”を人生の中でし続けているんだと思っています。

だから子どもたちには、その子にとっての本物の文化と出会って、「あ、自分はこういうことやったら一生面白く生きられるんじゃないか」とか「こんなものどうしたら作れるんだろう、気になる」とかね。

出会った世界と響き合って、自分がやりたいことを見つける自分探しの旅を、安心して幼いうちからしてほしい。

>>本物の文化に出会う「環境づくり」と保育現場の「葛藤」