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第1回 職場に、ハラスメントが潜んでいる…?【新 幼児と保育×ほいくるアンケート】

新 幼児と保育
掲載日:2019/10/11
第1回  職場に、ハラスメントが潜んでいる…?【新 幼児と保育×ほいくるアンケート】

通称「ハラスメント防止法」が可決され、大企業は2020年4月、中小企業は2022年4月までに防止策を講じることが義務となりました。
保育園、幼稚園も例外ではありません。

ほいくるで実施した皆さんからのアンケート結果を踏まえ、全国各地で企業や保育者向けにハラスメント防止研修を行う専門家に、現状の問題点や、防止の手立てをうかがいます。

この連載は『新 幼児と保育』2019年10/11月号“保育現場に潜むハラスメント”記事とのコラボ企画で、4回にわたってお届けします。

この記事の出典  「新 幼児と保育」について

新 幼児と保育(小学館)

保育園・幼稚園・認定こども園などの先生向けに、保育をより充実するためのアイデアを提案する保育専門誌です。


お話を聞いた人

松好 登紀子(まつよし ときこ)さん

社会保険労務士。グローバル・ビズ・サポート株式会社講師。
外資系企業にて人事部部長として人事全般を経験し、マネジメント、ハラスメント防止などの研修を日本全国の企業・自治体にて行う。


そもそも「ハラスメント」とは?

ハラスメント=harassmentは、嫌がらせ、いじめを意味します。
優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動による嫌がらせ=パワーハラスメント、相手の意に反する性的な言動による嫌がらせ=セクシャルハラスメントなどがあります。
いずれも、相手の尊厳を不当に傷つける言動です。

職場でのハラスメントはなぜ問題か?

ハラスメントは、未然に防止することが極めて重要です。起きてしまった場合には、被害者はもちろんのこと、下に挙げたように、加害者や同僚、組織に与える影響が大きいからです。

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ハラスメントによる主な影響

【被害者への影響】
・個人の尊厳が傷つけられる ・働く意欲の低下 ・能力発揮の阻害・メンタルヘルス不調 ・出勤不能、休職・退職

【周囲への影響】
・職場環境の悪化 ・労働生産性の低下

【加害者への影響】
・信頼の失墜 ・懲戒処分 ・刑事責任 ・損害賠償責任 ・キャリア喪失

【組織への影響】
・社会的信用の低下 ・生産性/効率の低下 ・人材の流出 ・損害賠償責任


保育者間で起こりがちなハラスメントとは?

「これって、がまんしなくちゃいけないの…?」
上司や同僚の対応でそう感じたこと、職場で見かけたハラスメント…。
ほいくるユーザーの保育者のみなさんからのアンケーから、その体験談をご紹介します。

パワハラ

「職場での優越的な関係に基づき、業務に必要かつ相当な範囲を超えた言動により、精神的・身体的苦痛を与えること」をいいます。
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【みんなの体験談】

・園長から「みなさんは自主的に残ってくださって仕事をしている」と言われて、残業代が一切出ない。毎日2~3時間のサービス残業をしている。
(正社員 女性)

・年次休暇を取りたくて園長先生に相談すると、必ず嫌な顔をされたり、機嫌悪そうに返事をされたりする。また、「休みが欲しいからと、全部とれると思わないでほしい」と言われた。
(契約社員 女性)

・自分より年下の保育士に「パートは雑務だけやって保育しないで」と言われた。雇用形態がパートだが保育士歴は自分のほうが長い。仕事ができない正社員に言われたくない。
(パート・アルバイト 女性)

・本部から「超過勤務(残業) 前に定時でタイムカードを打刻するように」と通達があった。人手不足のため、やむを得ない超過勤務で、無駄な居残りはしていないので納得がいかないです。
(学年リーダー・クラスリーダー 女性)

・未満児担任同士でエプロンを揃えてきたりするが、自分には伝えず仲間はずれにされた。
(常勤の臨時職員 女性)

・「新人は言われたことには必ず『はい』という。それ以外答えたらダメなんだよ」「新人には人権はないよ」と言われた。
(正社員 女性)

職場としての保育園や幼稚園は、比較的小さな組織の中で立場の違う職員が密にまざりあって働いています。サービス残業など、理不尽だと感じる指示でも、上の人のいうことを黙って受け入れてしまうまじめな人が多いと感じます。

シフト制を敷いていて、短時間勤務で働く人も多く、意思疎通をはかる時間が十分にとれない中でストレスをためていってしまうケースも多いようです。

セクハラ

職場において、相手の意に反する性的言動を行うこと。
男性から女性に対する言動、女性から男性や、同性間のものも含みます。
アンケート②_3

【みんなの体験談】

・飲みの席で園長からのセクハラがある。後ろを通るときに腰に手を当ててくる。隣にすわると耳元で話してくる。
(主任 女性) 

・「結婚して子どもを産まないといい保育ができない」と言われた。
(正社員 女性)

・園長や主任は、同僚の男性保育士に「これだから男の先生は......」などと性差別的なことをいう。
(正社員 女性)

保育園・幼稚園では女性から男性へのハラスメントに関する相談もあります。例えば女性たちがおおっぴらに授乳の話をするのを聞かされることに不快感を覚える男性はいます。

また、「彼氏いるの?」などと女性が女性に尋ねることも慎重になるべきです。プライベートな話題をすることで親密になれることもありますが、まだ関係づくりができていない場合はリスクが大きいでしょう。

マタハラ

アンケート②_④

【みんなの体験談】

・自分が妊娠中に、クラスの補助に入ったパートの先生に走らされたり、年長の子がおなかを蹴るそぶりを見せても素知らぬ顔をされた。
(正社員 女性)


・産休をとるにあたって、園長夫人にご迷惑をおかけしますといったら「そうだね」と言われた。育休明けには転勤話が出て、物理的に無理なので退職しました。
(正社員 女性)


・同僚が「嘱託なので妊娠したら辞めるように」と言われたのを聞いた。
(契約社員 女性)

アンケートでは、妊娠や育児休暇に伴う嫌がらせ=マタニティーハラスメントを受けているという回答が多く見られました。

職場にゆとりのない状況では、妊娠や育児などで休業したり、早く帰ったりする人に対して不満を持つケースもあります。助け合い、感謝を伝え合う職場環境をみんなでつくるとともに、経営側には適正な人員配置が求められます。

<ハラスメントのない園にするために…>
コミュニケーションこそがハラスメント防止のカギになる

日々仕事に追われる中で、上司と部下、先輩と後輩、同僚同士で顔と顔を合わせて対話する機会が十分につくれていますか。対話の回数や時間が減ると、お互いのことを理解するのが難しくなります。理解し得ない相手に対しては、知らず知らずのうちに相手を傷つけるということが起こっている可能性があります。信頼関係は主にコミュニケーションによって築かれます。ハラスメントは人間関係の問題であることが多いのです。

「あの人はなぜ私にそんなことをいうの」「なぜそんなことをするの」と嫌な思いをしたときに、相手を否定したり、避けたりしてしまいがちです。自分の中で「なぜ」がわからず、勝手に相手は自分に悪意があるのだろうと想像して、相手を悪者にしてしまいます。

そんなときこそ、コミュニケーションの出番です。双方向のコミュニケーション「誠実に伝える+相手の立場になって聞く」を丁寧にくり返すことで、相手のことがわかってくると安心します。信頼関係をつくる第一歩ですね。


※アンケート回答者の「正社員」には、正職員も含みます。

文/佐藤 暢子  イラスト/上島 愛子

 



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人と関わる、保育の仕事。
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世の中には「ハラスメント」という言葉もありますが、保育の現場のリアルはどうなのでしょう?

ということで、今回は、ズバリ!職場の「人間関係」に関するアンケートを通して、職場関係事情を読み解いていきたいと思います。


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まず「自己診断シート」で、チェックしてみませんか?

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