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「自分は自分でしかないんだから。」 柴田愛子さん × 社会福祉士 松下清美さん〈番外編〉

三輪ひかり
掲載日:2026/04/24
「自分は自分でしかないんだから。」 柴田愛子さん × 社会福祉士 松下清美さん〈番外編〉
りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする連載「井戸端aiko」。

第10回のおしゃべりのお相手は、社会福祉士で、子どもの虐待防止センターで相談員もされている松下清美さん。

盛り上がったおしゃべりの中で、泣く泣く本編からはカットした「ポプラ社で編集者をしていた松下清美さんが、なぜ社会福祉士になったのか」を、番外編としてお届けしたいと思います。

編集者から社会福祉士へ。

松下さん
どうして私がこういう仕事というか、対人援助をやろうかなと思ったかというと、1993年に編集をしていた「月刊音楽広場」(月刊クーヨンの前身)の仕事で、「あなたはステキです。」という特集を作ったことがきっかけなんです。

この特集を作った頃、「自分を好きになる本」とか「インナーチャイルド」という本がすごく売れていたんですよね。それで編集部で、「なんでこんなに売れるんだろうね。もしかして、みんな自分のことを好きじゃないんじゃない?」という話になった。

松下さん
それで、編集部のみんなと、それぞれが自分自身に抱いている感情を出し合ってみたんです。そうしたら、「いつも完璧にやらなきゃいけないと思ってしまう」とか、「自分のこういうところが嫌いだ」とか、想像以上にたくさん負の感情が出てきた。でも、嫌いなところばっかり見ててもしょうがないよねと、まあ、編集部のみんなで励まし合うみたいな感じになって「あなたはなんだかんだ言っても素敵だよ」がいいね、と、そういうことを伝えられるような特集を組むことにしたんです。

雑誌が発売になったら、ものすごい反響があって、たくさんの手紙が届きました。中には、電話をかけてくれる人までいて、その時、「ああ、傷ついている人がこんなにいるんだな」って思ったんです。

それから1995年、1996年と、「傷ついた子ども」をテーマにした特集も組んでいきました。この時も発行後、本当にたくさんの手紙が届いて。1996年には読者から届いた手紙だけで作った特集も組みました。

愛子さん
それはすごいわね。

松下さん
そこに書かれていたのは、自分が親や大人からされたことがずっと心に残っている、でも誰にも言えない、という声でした。もう大人になっている人たちが、「20歳になるまで自分がされていたことが虐待だと知らなかった」と書いていたりする。

それを読んで、こういうことに関わりたいなと思って、最初は、傷つけられてしまった子どもたちの側に関わりたいと思いました。

でも、自分自身も子育てをする中で、虐待する側になってしまうかもしれないと感じたことがあって出会った、子どもの虐待防止センターの「虐待は親からのSOS」という言葉に、ああ本当にそうだなと思って。それで母親の支援の方に関わっていくようになったんです。

自分は自分でしかないんだから

愛子さん
今、親になっている世代っていうのは、私から見ると、「みんな仲良くして、空気を読んで、迷惑をかけてはいけない」という中で育ってきた人たちのように見えるんだよね。

松下さん
それが染みつくような教育をされてきたんだと思う。だから、親になったら子どもを可愛いと思わなければならないし、ちゃんと育てなくちゃならない、と思わされてる。でも「子どもは時々かわいければいいのよ」って思う。

愛子さん
そういう「時々可愛い」で大丈夫なんだって思えるようにならないと、子どもとも向き合えないのかもしれないね。
でもさ、ちょっと無責任みたいに聞こえるかもしれないけど、自信を持って生きている人なんて、そうそういないんじゃないかって思うのよ。

それに、自信があるとかないとか、そんなに大事なことなのかなって。そんなことよりも、「私は案外自分が好きだ」とか、「我が子が好きだ」と思える方が、よっぽどいいじゃない。
私は、人間は育つ力を持っていると思うの。だから、松下さんも、自分に嫌いなところがあるって言うけど、その嫌いがあるから今のあなたがいるんだよね。もし嫌いがなかったら、つまらない人だったかもしれない。

松下さん
そうなんですよ。この特集を読み返しても思うんですけど、傷とか嫌いなところがあることが、いまの自分につながっている、いまの自分を私は嫌いじゃありません、て書いている人が多いんです。

愛子さん
なんだって自分の糧にすれば、それが正解!

松下さん
そこまで開き直るのはなかなか大変だけどね。でも
「傷があるのが私」
「子どもを叩いちゃったのが私」
「子どもを時々しか好きになれないのが私」
そういう自分でもいいんじゃない、って思う。

愛子さん
そうね。だって、自分は自分でしかないものね。

  

  • 子どもの虐待防止センター:ホームページはこちら
  • 子どもの虐待防止センター相談電話:03-6909-0999
  • 受付時間:月~金曜日10:00~17:00 / 土曜日10:00~15:00 ※日曜日・祭日はお休みです。

   

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撮影:水岡 香/三輪 ひかり

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第10回のおしゃべりのお相手は、社会福祉士で、子どもの虐待防止センターで相談員もされている松下清美さん。
松下さんは、元ポプラ社の編集者で愛子さんの絵本「けんかのきもち」の担当編集者をされていたという繋がりもあり、今回の対談が実現しました。

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りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする連載「井戸端aiko」。

第10回のおしゃべりのお相手は、社会福祉士で、子どもの虐待防止センターで相談員もされている松下清美さん。

前編では、おふたりに、虐待の背景にある親の孤立や、「虐待は親のSOS」という視点について話を聞きました。
後編ではさらに、安心できるつながりの大切さ、居場所を失った若い妊婦の現実、社会から見えていない親子の存在、そして保育園の役割へと話は広がっていきます。
子どもの命を守るために、本当に必要なことは何なのか。二人の対話から、見えてきたことがありました。

井戸端aiko

井戸端aiko

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする企画「井戸端aiko」。いろいろな方をゲストにお迎えし、お届けしています。

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