時間がつくる味、時間が育てる子ども:うみのこのとって食ってつながる暮らしVol.12
この連載の舞台になる「うみのこ」は、神奈川県逗子市にある認可外保育施設。逗子の山と海に囲まれた小さな古民家で、3歳〜6歳までの28人の子どもたちが暮らしています。
そんなうみのこの暮らしに欠かせないのが、食べること。
海山の恵みをいただき、畑で野菜を育て、自分たちで料理する。
生産者、料理人、食べることに欠かせない人々とつながり、本物と出会う。
どんなふうにうみのこで“食べる”ことが起きているのか、一年を通してお届けしていければと思っています。
タコレストランまでの長い道のり
「まだオレのリュックにはいるよ。もっといれて、もてるから!」
おうちの人を招待する「タコレストラン」前日の朝、年長タコ組はいつもより早く登園し、買い出しに出かけました。空っぽにしてきたリュックにみんなで手分けして、30人分の食材を詰め込んでいく。
けれど、この日を迎えるまでには、もっと長い時間がありました。

町のビストロ OHANAYAさんへ。
はじまりは、町のビストロ「OHANAYA」にマスターの料理を食べに行ったことでした。マスターのプロの味とおもてなしに触れ、「自分たちもこんなレストランを開いてみたい」と、心が動いた子どもたち。
そこから、「タコレストラン」で何をつくるのか、何度もなんども話し合いを重ねました。
「とんかつはどう?」
「グラタンがいい!」
「にくうどんがいいんじゃない?」
すぐには決まらず、試作も重ね、どんな組み合わせだとおいしいか、どんなメニューだとお父さんお母さんが喜ぶのかをたくさん考えて、「うどんとカツ煮セット」をつくることに。
食育スタッフのさわちゃんは言います。
「年少で包丁やピーラーに触れ、年中で和食の基礎を学び、季節の料理を一通りつくれるようになった。そして3年目。自分たちがつくりたいものを、自由につくれるようになる。その集大成が、このタコレストランなんです。子どもたちには、“自分たちは、なんでもつくれるんだ”という自信を持って、うみのこを卒園してほしい。」
3年間の積み重ねの先に、この一日があります。

子どもたちと「おいしい」をつくり出す、食育スタッフのさわちゃん。
プロとつくる、料理の時間
タコレストラン前日、買い出しを終えた子どもたちは、うどん生地をつくります。
踏んで、畳んで、また踏んで。なるべく同じ太さになるように、麺を切る。
うどんづくりは、もうお手のものな子どもたち。

生地を均等に伸ばすのは、大人でも難しい作業。

集中して切り進める姿は、もう立派なシェフ!
(うみのこのうどんづくりに触れたコラムはこちら)
午後は、OHANAYAのマスターも駆けつけて、かえし作り。
「何入れるか覚えてる?」というマスターの声に、「みりん! おさけ! しょうゆ! こんぶ!」と迷いなく答えます。

800の目盛りに合わせていれることができるように、見守るみんなも真剣。
アルコールを飛ばし、醤油を入れ、火を止めてから昆布を入れる。
「昆布は火をつけたままだと溶けちゃうからね。」
マスターは、子どもたちを子ども扱いせずに、プロの技をしっかりと伝えてくれます。
「今日と明日で味が変わるから、今日の味を覚えておいてまた明日、味を見よう。」と時間をかける大切さも教えてくれました。
「いらっしゃいませ!」と「いただきます!」
そして当日。
「ドキドキするけど、ワクワクもする!」
みんなで気持ちを聞きあったあと、今日は2チームに分かれて作業をスタートします。
うどんチームは畑で大根を収穫し、野菜を切り、かつ煮チームは玉ねぎを切り、丁寧に肉の下準備を済ませ、カツを揚げていきます。

大量の野菜を黙々と切り進める、うどんチーム。

うどんの具材には、唐木作の森で自分たちで採ったキクラゲも。

「フォークで刺すことで、お肉を柔らかくするよ」とマスター。

小麦粉、たまご、小麦粉、たまご、最後にパン粉にうめて、ぐっぐっぐっ。
タコ組の担当、ももちゃんは言います。
「3年間で包丁使いが本当に上手になった。料理への集中力もすごい。プロの背中を見て、子どもたちは育ったんだなと感じます。」
2日かけて進めてきた料理の準備がひととおり済むと、最後はおもてなしの仕上げです。
ランチョンマットをつくり、テーブルに庭の花を飾り、「いらっしゃいませ」と声をそろえて練習する子どもたち。

飲み物は、庭のレモングラスでつくったハーブティー。

開店前、そわそわ、でもうれしそうな子どもたち。
そして本番。
「いらっしゃいませー!」
「おせきにあんないします!」
「こちら、おうどんです!」

しっかりと器を持つ手、気持ちが伝わる瞳。

今日のメニュー:うどんとカツ煮セット
ドキドキしながらも、お客さんとしてきてくれたお父さんお母さんをおもてなしし、一緒にうどんとカツ煮を「いただきます!」
「今まで食べたうどんとトンカツの中で一番おいしい!」
「これどうやって作ったの?!ママには作れないよ〜」
そんなお父さんお母さんの声に、満足そうな子どもたち。
味の奥にある時間まで、きっと届いていました。

嬉しくておいしい、幸せな食卓。

自分たちのレストランだから、後片付けも自分たちで。
振り返りの時間。
「うどんふむのがたのしかった!」
「しおは、あじのきめてなんだよ!」
「マスターがおしえてくれたから、もうトンカツつくれる!」
3年間重ねてきた経験が、「もうつくれる」という言葉になってあらわれます。
レストラン開店前、マスターはこんなふうに話してくれました。
「“一生覚えている体験”って、なかなかないじゃないですか。自分が店をやっている理由でもあるんですけど、食事って、そういうものを目指せると思うんです。
そしてまさに、このタコレストランは、きっとこの先も覚えているだろうな、って思える時間だと思うんです。その中にいられることが、僕にとってはものすごくうれしいこと。毎回感動するし、日々のモチベーションにもなっています。
子どもたちには、ひとつでいいから、何か残ればいい。記憶じゃなくてもいいんです。匂いとか、熱かったとか、そういう感覚でもいい。何かが残れば、それだけでいいかなと思っています。」

大成功だった、タコレストラン!
料理は、時間で味が変わる。返しは一日置くと、角がとれる。弱火でゆっくり火を入れると、やわらぐ。子どももきっと、同じなのだと思います。
山で野草を摘んで食べた日も、はちみつをしぼった日も、うどんを踏んだ日も。
特別なことをしようとしてきたわけではなく、ただ、とって、つくって、食べてきた。その繰り返しの先に、この一日がありました。
うみのこの「とって、つくって、つながる暮らし」は、これからも続いていきます。
うみのこのとって食ってつながる暮らし
この連載の舞台になる「うみのこ」は、神奈川県逗子市にある認可外保育施設。逗子の山と海に囲まれた小さな古民家で、3歳〜6歳までの28人の子どもたちが暮らしています。そんなうみのこの暮らしに欠かせないのが、食べること。海山の恵みをいただき、畑で野菜を育て、自分たちで料理する。生産者、料理人、食べることに欠かせない人々とつながり、本物と出会う。どんなふうにうみのこで“食べる”ことが起きているのか、一年を通してお届けしていければと思っています。
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うみのこ