からだに残る、育ちの時間:うみのこのとって食ってつながる暮らしVol.11
この連載の舞台になる「うみのこ」は、神奈川県逗子市にある認可外保育施設。逗子の山と海に囲まれた小さな古民家で、3歳〜6歳までの28人の子どもたちが暮らしています。
そんなうみのこの暮らしに欠かせないのが、食べること。
海山の恵みをいただき、畑で野菜を育て、自分たちで料理する。
生産者、料理人、食べることに欠かせない人々とつながり、本物と出会う。
どんなふうにうみのこで“食べる”ことが起きているのか、一年を通してお届けしていければと思っています。
種を蒔き、待つ時間
うみのこの子どもたちは、年に4回、SHO Farmへ遠足に行きます。
SHO Farmは、「千年続く農業」を掲げ、環境再生型農業といわれる不耕起栽培に挑戦する、横須賀にある農園です。そこに立つだけで、土の中や草花のあいだに、生き物たちの気配を感じるような場所。年長組の子どもたちがここで種まきから三浦大根を育てさせてもらって、今年で3年目になります。
9月。3ミリにも満たない、小さなちいさな種をひとつの穴に、ふたつぶずつ蒔きました。

そして1月。
夏のあいだ、うみのこの子どもたちに代わってSHO Farmのじゅんくんが草刈りや間引きをしてくれて育った、大きな大根を収穫しに行きました。
「なんで2個、植えたんだっけ?」
畑で再会したじゅんくんが、子どもたちに問いかけます。
「ひとつだと、でなかったらだいこんができないから」
「とんでっちゃうかもしれないし」
ちゃんと覚えていた、子どもたち。
太陽と、雨と、土の中の菌や微生物たちの力を借りて、9月、10月、11月と時間が流れ、小さなちいさな種は、大きくおおきく育っていました。
自然なすがたに出会う
三浦大根は、大きくて、太い。
腕で抱えるほどのものもあれば、「これは相当大きいぞ」と構えたら、思っていたよりすっと抜けて、拍子抜けするものもある。
自然のものだから、すべてが同じ形でも、同じ大きさでもありません。
真っ直ぐに、どんと伸びている大根もあれば、途中で少し曲がったり、二股に分かれたり、土の中で何かを避けるように、身体をひねったものもある。

抜き方にも、コツがあります。
「ギュギュッて横にすると、折れちゃうよ」
「空に向かって、真上に抜こう」
じゅんくんの声を聞きながら、子どもたちは大根のまわりを少し掘り、葉の根元を両手でしっかり持って力を込めます。
なかなか抜けないと、「手伝うよ」と声がかかり、「せーの!」と何人かで力を合わせる。ずぼっ、と抜けた瞬間、歓声と笑い声が畑いっぱいに広がりました。

うみのこスタッフ・桃ちゃんの手作り絵本『三浦大根の大ちゃん』には、こんな一節があります。
「抜くのも大変だし、洗うのも機械じゃできない。育てるのも、そのあとも、全部大変だから、僕のこと育てる農家さんが、減っちゃったんだよな」
それでも、三浦半島原産の三浦大根には、その大変さを超えるおいしさがある。どうにか農家さんがつくり続けることができるよう、私たちにできることはないのでしょうか。
忘れても、育ちとして残るもの
収穫した大根は、洗って、切って、お昼には混ぜごはんとおでんになりました。

自分たちで火を起こし、味を見ながら、「これくらいかな?」と調えていく。
おでんのタネ
・三浦大根
・SHO Farmの鶏さんたちの卵
・コンニャクイモから作った手作りこんにゃく
・葉山の漁師 晶さんのひじき入りさつま揚げ
・もち巾着
ごはん
・三浦大根の葉と皮のまぜごはん
「おいしい!」「おかわり!」の声が響く、嬉しいごはんの時間になりました。

おでんの汁まで飲み切る子どもたち
心も体も満たされたあと、SHO Farmの晶子さんとじゅんくんに質問する時間を持ちました。
「抜かれる野菜の気持ちって、どう思いますか?」
じゅんくんが、少し考えてから話し始めます。
「野菜が“食べ頃だよ”って言ってる時があるんだよね。肌の感じとか、輝きが違う。今日の三浦大根は、そう言ってた気がしたな。」
たしかに、今日食べた三浦大根は、驚くほどおいしかった。
その言葉は、頭で理解するというより、子どもたちのからだの奥に、すとんと落ちて響いたように感じました。
最後に、晶子さんにも聞いてみます。子どもたちが一年、SHO Farmに通うことを、どう思っているのか。
「すごくいいことだと思います。私自身、子どもの頃の原体験が、今になって生きているなって感じることが最近すごくあって。
正直、忘れちゃっていいと思うんです。“ここに来た”っていう記憶自体は、なくなってもいい。でも、体験していないのと同じ、ではないと思っていて。忘れちゃったから意味がない、ということではないんですよね。
自然に接したことがある、ということは、きっと間違いなく、いい体験としてその子の中に残っていくと思うんです。」

今日抜いた三浦大根の形も、おひさまや土の匂いも、湯気の立つおでんの味も、やがて細かい記憶としては、薄れていくかもしれない。
それでも、土に触れた感触や、「どうしてだろう」と立ち止まった経験、おいしいとみんなで喜びあった時間は、からだのどこかに、静かに残っていく。
ふたつぶ蒔いた種は、畑だけでなく、子どもたちの中でも、見えないところで育ち続けています。
うみのこのとって食ってつながる暮らし
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