“熱々”どんぐりと“土みたいな”どんぐり茶—失敗もごちそうになる山の一日: うみのこのとって食ってつながる暮らしVol.9
この連載の舞台になる「うみのこ」は、神奈川県逗子市にある認可外保育施設。逗子の山と海に囲まれた小さな古民家で、3歳〜6歳までの29人の子どもたちが暮らしています。
そんなうみのこの暮らしに欠かせないのが、食べること。
海山の恵みをいただき、畑で野菜を育て、自分たちで料理する。
生産者、料理人、食べることに欠かせない人々とつながり、本物と出会う。
どんなふうにうみのこで“食べる”ことが起きているのか、一年を通してお届けしていければと思っています。
昨日の遊びが、今日の冒険をつくる
今日は年中組の保護者会の日。
うみのこでは保護者が保育に参加できる機会を多く設けていますが、この日も、数人の保護者が子どもたちと一緒に過ごしていました。
お父さんお母さんがいる嬉しさから、いつも以上にソワソワしている子どもたち。
スタッフのおおとまが「みんな集まってー!今日のこと話すよー!」と何度声をかけても、なかなか集まりません。
ところが、「昨日作ったネイチャービンゴ、みんなに紹介するよ!」という一言で空気が変わります。さっきまで知らん顔だった子どもたちが、待っていましたと言わんばかりに駆け寄ってきて、おおとまが説明するより先に話し始めたのです。

まーくん:「これは、まーくんがかきました!」
イハ:「いはくんもだよ!このせん、かいた!」
ヒビト:「ヒビトもやったよ。」
まーくん:「ゴキブリもいますー!」
イハ:「あと、めちゃむずかしいのはシマヘビ!」
みんな:「「ええー!」」
驚きと笑いが一気に広がり、輪がぎゅっとひとつになる。 うみのこにいると、「やってみたい」「おもしろそう」が持つ大きな力をいつも感じます。
気持ちが向いた子どもたちにおおとまが語りかけます。
「今日はこのビンゴをやるのと、もうひとつやりたいことがあってね。昨日、竹でコップを作った子たちが、その竹コップでお茶を飲みたいって言ってたでしょう?だから、ビンゴで見つけたどんぐりで“どんぐり茶”をつくってみようと思うの。前にどんぐり食べたらおいしかったの覚えてる?だから、どんぐり食べながらどんぐり茶を飲むのはどう?」
「いいねー!」
子どもたちの声が弾み、今日のミッションが決定!
「みんな前にどんぐり、どこで拾ったか覚えてる?」
「だいいちこふん!」「だいにこふん!」
即座に地名が出てくるあたり、子どもたちの頭の中に山の“遊びの地図”がしっかり描かれているのがよくわかります。
昨日の手仕事が今日の挑戦や次の遊びを生み出す“起点”になる。
そうして、この日の山歩きがはじまりました。

子どもたちが作った「ネイチャービンゴ」

声が響きあい、つながる山の探検
ビンゴカードを受け取ると、子どもたちは自然と山へ向かう体になり、入り口の落ち葉を踏んだ瞬間から、声があちこちで弾けだします。
「おちばあったよ!」
「これ、ぼうけんのやじるしじゃない?」
どんどん前へ進む子。 地面に目を凝らし、一つひとつ確かめながら歩く子。
それぞれのペース、それぞれの歩き方。

でも、どんぐりを見つけたときの大きな声がみんなをひとつにします。
「どんぐりあった!ゲット!」
「ここにもおちてる!」
拾い上げた瞬間の表情は、小さな達成そのもの。
離れた場所からも「みつけたー!」という声が飛んできて、山の広がりの中で、一つの目的が子どもたちをつないでいきました。
どんぐりを拾いながら、その違いへと自然に話題が広がります。
「これってたべられるやつ?」
「たべるとおいしいスダジイは、ほそながいんだよ。」
自分の手のひらの中にあるどんぐりは食べられるかな?・・・知識と体験が繋がって、その子のもの(知恵)になっていくのを、目の前の子どもたちの姿から感じる瞬間でした。

竹コップが、あっという間に“どんぐり入れ”に変身。
そんな中、どんぐりを拾いながら、早速その場で皮をむき、口に入れてみる子も。
「・・・そのままでもおいしい!」
その一言から、周りのみんなも次々とどんぐりを口にしていきます。自然の豊かさと美味しさが子どもたちに広がっていきました。

火のそばで味わう“山のおやつ”
たくさんのどんぐりを拾って、ロケットストーブの前に集まると、早速火つけが始まります。
「すぎのこあつめよう!」
子どもたちは、どうすれば火が効率よくつくか、よく知っています。

バチバチッ。
皮が弾けるような音を立てながら、炒られていくどんぐり。
もう食べられるかな、もうちょっとかな・・・もう食べられそう!
「熱いから気をつけてね」と声をかけながら手渡しますが、熱いより“食べたい”が勝つ子どもたち。「あつい、あつい!」と言いながらも、手を止めることなく皮をむき、どんぐりを口に運びます。

「おいしい!」
「おいしいね!」
思わず顔を見合わせたくなる美味しさです。
「香ばしい」「栗みたい!」と、その輪の中に大人も自然に混ざり込んでいるのが、うみのこらしい、美味しい時間。

山を降りる時間が近づき、お茶をどうするかの相談が始まります。
じっくり煎る時間はない。でも、やってみたい気持ちは十分。
「そのままヤカンに入れてみよう!」
勢いで決まるやり方も、やってみないとわからない学びの源。
どんぐりを入れたヤカンをみんなで囲み、順番に味見する。

「あじしないー!」
「つちみたいなあじー!!」
期待した味ではなかったようで、思わず笑いがこぼれます。
でもすぐに、「またリベンジだね!」という声がひろがる。

やってみたからこそ、次のやり方が生まれる。
失敗にもがっかりにも、次の挑戦の種がちゃんとある。
山で拾ったもの、見つけたもの、味わったもの。
どれもが子どもたちの今日をつくり、明日への“やってみたい”に繋がっていきました。

この経験を経て、お休みの日に家族でどんぐり拾いに行った子が、「どんぐりごはんにしてたべたらおいしかった」と教えてくれて、うみのこでもやってみよう!となり、竹炊飯器で“どんぐりごはん”を炊きました。
※安全面の配慮に関して(小学館)
- 見分けが難しく危険な植物もあるため、あいまいなものは安易に食べないようにしましょう。
- 慣れていない場合などには、必ず植物に詳しい方と一緒に行くようにしましょう。
うみのこのとって食ってつながる暮らし
この連載の舞台になる「うみのこ」は、神奈川県逗子市にある認可外保育施設。逗子の山と海に囲まれた小さな古民家で、3歳〜6歳までの28人の子どもたちが暮らしています。そんなうみのこの暮らしに欠かせないのが、食べること。海山の恵みをいただき、畑で野菜を育て、自分たちで料理する。生産者、料理人、食べることに欠かせない人々とつながり、本物と出会う。どんなふうにうみのこで“食べる”ことが起きているのか、一年を通してお届けしていければと思っています。
うみのこ