「せかいいちうまい!」年長組がお泊まり保育でつくったごはん。:うみのこのとって食ってつながる暮らしVol.7

この連載の舞台になる「うみのこ」は、神奈川県逗子市にある認可外保育施設。逗子の山と海に囲まれた小さな古民家で、3歳〜6歳までの28人の子どもたちが暮らしています。
そんなうみのこの暮らしに欠かせないのが、食べること。
海山の恵みをいただき、畑で野菜を育て、自分たちで料理する。
生産者、料理人、食べることに欠かせない人々とつながり、本物と出会う。
どんなふうにうみのこで“食べる”ことが起きているのか、一年を通してお届けしていければと思っています。
「何する?何つくる?」から始まったお泊まり保育
ぐっと遊び込み、心も体も一回り大きくなった夏が終わり、関係性も深まりを見せる秋の始まり。うみのこでは、この時期に毎年、年長組のお泊まり保育をします。
「お泊まり保育する?」というスタッフの問いかけに、「する!!!」と待ってました!とばかりに声をあげる子どもたち。「なにする?」「ごはんはどうする?」と話し合いながら、今年のお泊まり保育は動き出しました。
2025お泊まり保育の「食」
day1:
おやつ…たい焼き(つぶあん、クリーム)、釣りで釣った魚
夕ごはん…チャーハン、焼き魚
day2:
朝ごはん…サンドウィッチ(パン、いちごジャム、とまと、チーズ、ケチャップ、レタス、ハム、ゆで卵、マヨネーズ)
買い出しからはじまる冒険
お泊まり保育前日。リュックを背負った子どもたちは、元気いっぱいに買い出しへ。
「まずはホットケーキミックスをかいにいこう!」
「オッケー!わたし、カゴもつね!」
「ここにいれて!」
「つぎは、たまごじゃない?」
リストを片手に、声を掛け合いながら買い物を進めていきます。
カゴを持っていた子が「おもたい〜!」と言うと、「もってあげるよ!」とバトンタッチをする姿もあったりして、いいチームプレー。
魚屋さんに着くと、「いらっしゃい!何にする?」と声をかけられ、「おれはこれ!」とさんまに即決する子。「どれにしようかな」と吟味しながら、アジを選ぶ子。「つりでいっぱいつれたら、このおさかなはたべられないかもしれないねー!」なんて話しながら、お次は釣具屋さんへ。
釣具屋では、イソメや針をゲットして、買ったもの(魚以外)は自分たちのリュックに入れて持ち帰りました。
日差しも強く暑かったけれど、誰も弱音を言わない姿に頼もしくなったなあと感じます。
帰ったあとは、魚の下処理。みんなもう慣れたもの。
自分たちでつくる、ごちそうの時間
お泊まり保育当日。子どもたちの気持ちは朝から大盛り上がり。
何度も今日どう過ごすのかを確認する。
いよいよたい焼きチームとチャーハンチームにわかれて、ごはん作りが始まります。
たい焼きチームは、卵と砂糖を混ぜながら「これくらいでいい?」と確認し合い、トロリとしたカスタードを完成させます。
豆乳の量を慎重に確認しながら注ぐ。
美味しいカスタードできたかな?
あんこも用意し、生地に包み込んで鉄板へ。部屋いっぱいに甘い香りが広がり、「いい匂いしてきた!」と声が弾みます。
たくさんできた、たい焼き!
一方、チャーハンチーム。
「このくらいのうすさ?」
「にんじんはこうやってきるときりやすいよ」
野菜を切りながら相談したり、アドバイスしたりする声が飛び交います。子ども10人、大人3人分のチャーハンの野菜の量はみんなが想像していたよりもたくさんで、集中して切り進めます。
卵も割ろう!殻が入っちゃっても取れば大丈夫!
「野菜を炒める順番は?かたいやつどれだったっけ?」
というスタッフの問いかけに、「にんじんからやろう!」と子どもたち。
キャベツはしなしなと硬めとどれくらいの炒め具合がいいか、決めるのも今日は自分たちです。
どれくらいの固さがいいかは、食べて確かめてみる。
鍋を押さえる人、かき混ぜる人、声をかける人。それぞれの動きが重なって、ジュウジュウと響く音がリズムを刻む。自分たちで全てをつくる料理の時間そのものが、ごちそうです。
仕上がったチャーハンを味見!(味見の量じゃない食べっぷりです笑)
海と出会う、釣りの時間
午後は、いよいよ海へ。手には前日に揃えた釣り道具。
「つりかた、おしえてやる」
「おもくなったらちょっとひいてそれでもびくんってなったらくるくるするんだよ」
「うきがぐってなったらね」
「いそめはまずハリにつける!」
夏のあいだ釣りに夢中になっていた子たちが得意げに伝授します。
でも実際にやってみると難しい。針が絡まったり、うまく投げられなかったり。相談しながら竿を伸ばし、仕掛けを準備していきます。
うまくできなかった、できたを行きつ戻りつしながら小さな手応えを積み重ねていくと…
「なにかひっかかったかも!!!!!」
期待を胸いっぱいに引き上げると、そこにあったのは草。
「くさだ!!」と期待が外れてがっくりしていたのが、次第に笑いに変わり、むしろ草が釣れたことを喜ぶ姿も最高でした。
1時間半の釣りで釣れたのは、ハゼ、ガザミ、クロダイ、メゴチ。水面から上がってくる生き物たちに「つれた!」「おもい〜!!!!」「え、カニだ!!!!!」と目を見開く子どもたち。自然と出会う、その一瞬一瞬がかけがえのない体験になっていきました。
大きなガザミをGET!
楽しみにしていた、おやつタイム
終わった後は園舎に戻って、釣った魚を捌いてガザミを茹でると、みるみるうちに殻の色が変わっていきます。
「あかくなった!」
子どもたちの歓声があがります。
自分たちで釣って、茹でたからこそ知ることができた変化。
身はぷりっぷりで旨みに溢れたガザミをみんなでいただき、幸せとおいしさが広がっていきます。
「うまい!」と感動する子どもたち。
魚は揚げて食べることにしましたが、小ぶりで4匹。
「どうみんなでたべる?」
「1つを10こにきればいいんじゃない?」
「えー、おれおびれのところはやだよ」
「こまかくてボロボロになっちゃうんじゃない?」
「おれがきってやる!」
まるで、絵本『11ぴきのねこ』を思わせるやりとりが繰り広げられていました。
どうやって切るのか会議。みんな真剣で、「本当にそれで大丈夫?」とちょっぴり不安げでもあります。
そして、朝から楽しみにしていたたい焼きも!
クリームとあんこがたっぷり、疲れた体が元気になります。
カスタードはあっという間に売り切れ。初めはあんこ派の方が多かったのに、先週みんなで練習にカスタードづくりをしたのもあってか、いつの間にかカスタード好きが増えていた。自分たちで作る経験は味覚を広げる。
五右衛門風呂に入って、チャーハンをお弁当に詰めて・・・山へ出発!
「いただきます」仲間と囲む一皿
今日みんなが泊まる山へ移動して、少し遊んでから、いよいよ夜ごはん。
魚を焼くためにまずは火おこし。
今日の夕食は、自分たちで捌いたさんまとあじと手作りチャーハン。
「せかいいちうまいチャーハンだな!」
「いきててよかったー!!」
「なんはいでもおかわりできる!」
何を食べるのかを決めたのも、買い出しをしたのも、料理をしたのも、釣りをしたのも、すべて自分たち。だからこそ、仲間と囲む食卓は、特別なものになりました。
じっくり焼いた魚も絶品!
翌朝、朝ごはんは手作りいちごジャム、手作りマヨのスクランブルエッグ、ハム、チーズ、たい焼きの余ったカスタードを好きにトッピング。
自分で決めて、自分で作るからこそ
子どもたちが自分たちで一から作りあげた「お泊まり保育のごはん」。
部屋中に広がった、カスタードの甘い香り。
ジュージューと焼ける野菜の音。
何が釣れたんだろう?!というワクワクと共に感じる、釣竿越しに伝わる命の重さ。
茹でると色が変わった、美しいガザミの赤。
暗い山の中でドキドキした気持ちを吹き飛ばす、世界一のチャーハンの美味しさ。
そこには、ただ食べるだけでは得られないものがたくさん詰まっていました。
五感でたっぷりと感じたこの時間と美味しさを、きっと子どもたちは一生忘れないだろうなと思います。
うみのこのとって食ってつながる暮らし

この連載の舞台になる「うみのこ」は、神奈川県逗子市にある認可外保育施設。逗子の山と海に囲まれた小さな古民家で、3歳〜6歳までの28人の子どもたちが暮らしています。そんなうみのこの暮らしに欠かせないのが、食べること。海山の恵みをいただき、畑で野菜を育て、自分たちで料理する。生産者、料理人、食べることに欠かせない人々とつながり、本物と出会う。どんなふうにうみのこで“食べる”ことが起きているのか、一年を通してお届けしていければと思っています。