保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

遊びから芸術は始まる!#04『積み重ねの先に』

田中 令
掲載日:2024/09/04
遊びから芸術は始まる!#04『積み重ねの先に』
こんにちは。美術教育家の田中令です。
厳しい暑さが続いていますが、少しずつ秋の気配も感じる今日この頃。

様々なアート遊びを紹介してきた昨年を踏まえ、今年は美術表現をベースに「こどもたちに委ねた先の世界をのぞく」エピソードの紹介をしています。舞台は、私が年間を通して芸術講師として関わっている保育園や、UMUMの自主企画「UMUMこどもアトリエ」。

今回は遊びを積み重ねてきたこどもたちの姿をお届けします。

一緒につくる

この日のこどもアトリエのテーマは「せん」。クレヨン、えんぴつ、ペン、えのぐなどの描画材のほか、はさみやノリ、ホチキスなど切り貼りを楽しめる道具を準備している日です。何を描くか、何を作るかはこどもたちの自由。スタッフはこどもたちのアイデアを形にする姿を見守り、必要な時にサポートしています。

私も同じ空間にいながら、少し離れたところでYさんとRさんの様子を見ていました。顔馴染みの2人はアトリエが始まると同時に、一緒に何かを作ることにしたようです。

Rさんが作り始めたのは、果物。2枚の色画用紙を果物の形に切り、中に何かを入れて厚みを出しながらホチキスで留めていました。

出来上がった果物たちを私に見せに来てくれたので、「他の色の果物も作ってみたら?果物の色がたくさんあるって、豊かな感じがするじゃん◎」と提案しました。もちろん、この提案を採用するかもこどもたち次第です。
RさんとYさんは、提案を採用することにした様子。

オレンジはクレヨンで塗っていたのですが、その質感がまた本物の皮のようでした。Rさんのトレードマークでもある顔を描き足しているのが、またかわいい!

その作品からインスピレーションを得て、2人が次に作り始めたのは保冷バッグ。中に果物を入れられるようです。

「あ、アイスも作ってみよう!」
「お店にしようか」
「メニューも必要じゃない?」
など、2人でアイデアを出しながら楽しそうに、そして真剣に制作が進んでいきます。

そんななか現れたのは、四角い色画用紙をホチキスで組み立てた直方体。


側面に細長い紙をくっつけ、蓋を被せて、なんとリュックが出来上がりました!

Uber eatsもびっくりの大容量リュックです。

再び私に見せに来てくれたので、蓋がしっかり閉まる構造を考えて欲しいことと、紙で作られた背負い紐の部分を強化することを提案し、補強用に養生テープを渡しました。

何度も背負い具合を検証して、改良を重ねる2人。

蓋部分はそれぞれ仕様が違い、ランドセルのように本体に覆い被さるタイプと、ベルトを穴に通して閉めるタイプになっていました。

あっという間に2時間のアトリエが終了。
2人ともとても嬉しそうに、リュックを背負ったまま帰っていきました。


***

YさんとRさんは5年ほど継続的に参加してくれているのですが、2人とも、初めて参加したのは4歳の頃で、今は小学校中学年になります。なかなか保護者の方から離れられなかったり、自分の欲求を抑えられず集団行動が苦手だった幼児期を経て、「臆することなく自分を表現する」ことができるようになった子達です。

この日の2人の様子に、私はとても感動しました。感動したポイントは、大きくわけて2つ。

1つ目は、会場にある材料を使って、たくさんの工夫を形にしていること。
立体的なものや実用的なものの制作は、難しさが伴います。しかし彼女たちは半立体的な果物や、背負えたり蓋が閉まる構造のリュックを、おとなの手伝いなしで作り上げていました。これまで5年間の積み重ねが、彼女たちの技術の引き出しになっているなと感じました。

2つ目は、健やかなコミュニケーションを重ねていたこと。
2人でアイデアを出し合い、うまくいかないときは協力して、意見の違いを「それもいいね」と受け止めていたことです。これは、おとなでもなかなかできないことだと思います。

2人は4歳の頃からそうであったわけではありません。
アイデアがなかなか形にならなかったり、自分のやりたい活動を時間内にやめられなかったり。
それでも自分の「作りたい」を諦めず、形にする方法を体得したり、自分の感情と他者が求めることの折り合いの付け方を学び、成長してきました。

それは、能動的な遊びから生まれた学び。だからこそ、彼女たちの確かな力になっているのではないかなと思います。

ここまで4回にわたり、「遊びから芸術は始まる!」というシリーズで書いてきましたが、いかがだったでしょうか?
次回からはまた別の視点から、こどもたちに委ねた先の世界をのぞいていきたいと思います。お楽しみに!

この記事の連載

遊びから芸術は始まる!#01『新聞紙あそび』

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遊びから芸術は始まる!#02『ひかりあそび』

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遊びから芸術は始まる!#03『あそびは国境を越えて』

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