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しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第六回)「バッタのお腹」

齋藤美和(さいとうみわ)
掲載日:2023/10/10
しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第六回)「バッタのお腹」

「このバッタのお腹の部分が光っていてタマラナイんだよ〜」。

園庭にいると、なんだかうれしそうにりっちゃんが声をかけてくれた。私もそのタマラナイ部分が知りたくて、横並びに座ってカップに入ったバッタのお腹を見せてもらう。初めて見たバッタのお腹はなんだか白っぽくて、きらきらしている。確かに光っている。やわらかそうで、きれい。子どもの頃に見たことがあるような、初めて見るような。子どもと一緒にいると、自分には思いもよらない世界にグッと引っ張ってもらえることがたくさんある。

先日お寺で「YATOの縁日」というお祭りを開催した。小学生の民舞、お餅つきやバグパイプの演奏、オリジナルの盆踊りに、YATOっこたちの影絵。地元の美味しいものを囲みながら、大人も子どもも多感なティーンたちも集まって笑い合う。

行き交う人たちが幸せそうにしているのを感じて、私も胸がいっぱいになる。それこそ、私にとってのタマラナイ時の流れがそこかしこにあふれていた。

保育者のやなぎも子どもを連れて家族で遊びに来てくれた。食べるのが大好きなそうちゃんは、いつも見るたびに両手に駄菓子やパンを持ってうれしそうにしていた。

後日、彼女に縁日の感想を聞いた。

「子どもがどこでぶらぶら歩いていても安心していて、あちこちで子どもを見てもらえて親も楽しかった。気がついたらそうちゃんが転んでいて、持っていたスコーンを落としちゃったんだけど、そこにしーし(保育園の在園児)が駆け寄ってきてくれて。見ていたら、落としたスコーンについた砂をパンパンって払ってくれて(笑)『はい、これで食べれる。大丈夫、大丈夫』って渡してくれていたんです。その風景がすごくいいなと思って、私も嬉しかったし、そうちゃんもうれしそうだった」

その姿を思い浮かべて笑ってしまう。そしてその混ざり合う風景がそこにあったこと、それを信頼している保育者が実感して語ってくれたこと、その場のその感じを一緒に味わえたことがとてもうれしかった。

「保育者の育成」をどうしているのか。園長になるとよく質問を受ける。しぜんの国には80名の保育者がいる。技術と感性、両方が大事だとルーキーには伝えているが保育の学びや研鑽というのは尽きない。ただでさえ日々に追われる毎日の中で、どうやって構造を作るのか、マネージャーともよく話す。

ただ、なんとなく最近ちょっとこれも大事かな?と思うことがある。
保育者と一緒に風景を眺めながら「私はこんな感じが好きなんだ、いいなと思うんだ」と、横に並んで話すこと。内側から一緒に世界を見ること。りっちゃんの「タマラナイんだよ〜」の言葉が頭に浮かぶ。もっともっと会って話したい、あの人とも、この人とも、話したい。あ、でも話さなくてもいい。隣にいたい。ただそばにいるだけでも、いいな。

ー このコラムは『しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記』の連載第6回です。

このコラムの連載

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記(第一回)「ゆらゆら期の私たち」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記(第一回)「ゆらゆら期の私たち」

年度末を迎え、折り重なるように新年度に向かう4月。私たちはこの時期を「ゆらゆら期」と捉え子どもたちとの時を積み重ねる。子どもたち一人ひとりの想いや表現を慎重に捉えながら、しぜんの国保育園の暮らしが子どもたちの身体に馴染むように意識をする。この意識はそれぞれのご家族とも分かち合い、この時期を過ごす。

先日、エントランスで1歳児クラスのお父さんが「絶賛ゆらゆら期っす」と話してくれた。笑顔で話してくれているものの心配だろうな、とも思いを寄せる。子どもの心、保育の心、親心、私はその三つの心をいつも、自分の中で多面的に見つめないといけないと思う。

「自分たちはいい保育をしているんだ」と、独りよがりにならないように。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記(第二回)「とるに足らないオシロイバナの種のような」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記(第二回)「とるに足らないオシロイバナの種のような」

先日、婦人之友社と東京すくすく(東京新聞)が企画した「子育てスクスクフェス」に呼んでいただき、認定特定非営利活動法人こまちぷらすの理事長・森裕美子さんとお話をさせて頂いた。

その中で「子どもとふざけるのが好き」という話をして(そんなこと実は初めて言った)、改めて帰りの電車の中で「ああちょっと本音だったな」と思い返していた。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第三回)「コーヒーの甘い部分」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第三回)「コーヒーの甘い部分」

しぜんの国の地続きにある簗田寺の敷地内にはCONZENCOFFEEというコーヒースタンドがある。生産地ごとの気象や地理的条件に由来するスペシャルティコーヒーを飲むことができる。その場で豆の焙煎も行なっているので、豆を焙煎しているときは山の方まで香りが漂って来て「あ、小井土くん(店長)が焙煎しているな」と思いを寄せる。
先日仕事終わりの月曜日、CONZENに寄った。

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第四回)「この気持ちどこかで知っている」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第四回)「この気持ちどこかで知っている」

「思えば、あれが家族揃った最後の夏の旅行だったね」ってなるんですよ。と保育者の越丸さんと話をした。越丸さんは二人の大学生の親である。わざわざ「これが最後の家族旅行」と決めて旅行に行くことは少ないだろう。
何となく家族で毎年恒例だったものが、子どもの成長と共に薄れていく。そして気がついたら「あれが最後だったね」となる感じが、なんだかしっくり来る。さみしい感じではなく、その時の流れが誠実で、あいまいでとてもいい夏の話だなと思う。

話は変わって、先日の土曜日の話。…

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第五回)「ポットの音 そのまま大切にしたい」

しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第五回)「ポットの音 そのまま大切にしたい」

朝早く起きて原稿を書いている。コーヒーを入れるために沸かしたポットの音だけがコポコポと音を立てる。「わっしょい日記」を始めて5回目。このような場があることがありがたいなあと思っている。

9月。夏を越えて、秋に向かう季節。今年の夏は暑くて、園は熱中症対策をしながらの保育に右往左往していた。いつもは園庭、室内、好きなところでのびのび遊び、まち歩きや散歩に出かけているが、この夏は「今日は難しいね」「出れても30分」などの会話が事務所内を行き交う。秋になり気候も落ち着くと信じて季節に身を委ねたい。法人内では意向調査があり、自らの進退について考える時期になる。