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しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第五回)「ポットの音 そのまま大切にしたい」

齋藤美和(さいとうみわ)
掲載日:2023/09/15
しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記 (第五回)「ポットの音 そのまま大切にしたい」


朝早く起きて原稿を書いている。コーヒーを入れるために沸かしたポットの音だけがコポコポと音を立てる。「わっしょい日記」を始めて5回目。このような場があることがありがたいなあと思っている。

9月。夏を越えて、秋に向かう季節。今年の夏は暑くて、園は熱中症対策をしながらの保育に右往左往していた。いつもは園庭、室内、好きなところでのびのび遊び、まち歩きや散歩に出かけているが、この夏は「今日は難しいね」「出れても30分」などの会話が事務所内を行き交う。秋になり気候も落ち着くと信じて季節に身を委ねたい。法人内では意向調査があり、自らの進退について考える時期になる。

2023年度は大切な人がまた増えた年だった。私の夫の実家は寺院で、そのお寺で始めた精進食堂や、お香が作れる調香所、一緒に保育園でも働いていたスタッフが始めたボタニカルショップや、自家焙煎のコーヒースタンド(この山で焙煎していて子どもたちも大好きなマスターがいるお店。わっしょい日記でも書かせて頂きました)のオープン、さらには今年から高校の非常勤講師として24人の高校生に「保育・教育」の授業を持たせてもらえることになった。

保育園のコミュニティ、お寺のコミュニティ、そして高校生との出会い。どの場でも愛おしい時間があって、愛情があって、さみしさや、スパイシーな苦しさもあるけれど、傷も悩みもかさぶたも、愛おしいくらい濃密な日々を過ごしている。以前何かの折で、保育は「人を浴びる」ということに触れたが、とにかく人を浴びている。どれも大切。だけど、欲張りすぎてひとつひとつが薄くなっていないかと不安がよぎる。でもそんな時、「私薄くなっていないかな、大丈夫かな」と相談できる人もこの数年で、周りに増えた。時折、そんな人と話していると不意にグッと目から水分が出そうになったりもして、おや!と思ったりもするけれど、とにかくどの場でも真摯に素直にいきたい。「美和さんは、人を信じていくタイプで、そのまま行っていいですよ。他のところやりますよ」とマネージャーの辻さんが言ってくれたけど、私は辻さんの人一倍勉強家で繊細な部分も大切にしたいです。

実は3月の終わり、保育園のランチルームで「美和さん、目が、ほら、ピクピクしている」と目の下の痙攣を教えてくれたのは当時年長のEくんだった。

最初は無自覚だったため、なんのことかわからなかったが、帰宅後、鏡を見ていると右目下の部分が規則正しく、そして小刻みに震えていた。「私も家族も周りの誰も気づいてなかったのに、Eくんすごいな」独り言ちる。私の顔、よく見てごはん食べていたんだな。あんなにいっぱい食べながら、私の顔を見てたんだ。おかわり3回くらいしていたよな、元気かな、よく私の顔をみる隙間があったな。静かに目を閉じる。目を閉じると気持ちいい。

来週は高校の授業で私のクラスの学生たちが保育園に見学にやってくる。園の子どもたちと、保育者と、そしてクラスの学生たち。大切な人を、場を、そのまま大切に思える自分でいられるように。

ー このコラムは『しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記』の連載第5回です。

園長美和さんのわっしょい日記

園長美和さんのわっしょい日記

しぜんの国保育園の暮らしについて、園長という視点から綴られているコラム連載。“タイトルの「わっしょい」はさまざまあるようですが、語源である「和を背負う」という意味と、なんだか口に出すとうれしい気持ちになるところから名付けました。悩み揺れながら感じる日々の小さなあれこれを綴っていきたいです。”(園長美和さんより)

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