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「人間の秘めた力を、子どもを通して教えられてきた」ーおもちゃデザイナー・和久洋三さん―子どもを聞く、見つめる、感じる。Vol.2【後編】

竹原 雅子
掲載日:2021/12/14
「人間の秘めた力を、子どもを通して教えられてきた」ーおもちゃデザイナー・和久洋三さん―子どもを聞く、見つめる、感じる。Vol.2【後編】

今回お話を聞いたのは、おもちゃデザイナー・和久洋三さん。

前編では、おもちゃのデザインを生涯の仕事として選んだ理由や、和久さんの子どもへの眼差しに変化をもたらしたある男の子とのエピソードなどを語ってくださいました。

後編で展開していったお話は、“子ども”を知るために、その世界に近づくために和久さんが大切にしていること。

それは無我夢中になれる環境、そしてひたすら「待つ」ことなのだそうです。

子どもの世界に近づくために

やりたいことに無我夢中になれる“集中力”

ー和久さんがご自身の著書で「子どもは無我夢中になると時間を忘れて没頭する」と話されていたのが、印象に残っています。
先程(前編)のお話にもあったように、和久さんご自身もそういう仕事との向き合い方をしていて、子どもたちに通じるものがあるんじゃないかなって思いました。

こないだもね、ある幼稚園の年長になったばかりの子が葉っぱのついた柿を描いていた。
3時間描いたんだけど、まだできないんです。それで翌日、また3時間。
1枚の絵を6時間かけて仕上げたんです。
それくらい、子どもはやりたいことだったら夢中でやるんですよね。

自分がハッと感じる、インスピレーション。
僕の場合、これだ!って思った時に作品が生まれるんだけど、子どもを見ていてもね、やっぱり集中するかしないかで生まれてくる世界が全然違う。
いい作品になりますよ、集中すると。

ー「集中する」というのは、大人からすると、自分の中で意識してそこに向かっていく行為のような気がするんですが、そうじゃなくて、自然と湧き上がってくるものだと。

無理して集中しよう、させようとしたって、できない。だって面白いから集中するんです。

それよりもやりたいことをやらせる。そうすれば集中する快感を味わうことができますから。
それが身につくと、今度は集中しないとつまらないんだってことがわかってくるんです。

そうしたらしめたもんですよ、何事にも正面から向き合っておもしろさを見つける感覚が身についていくから。
やっぱり小さい頃に「集中の快感」を、味わえることが大事ですね。

僕は、若い頃から創作活動に対する姿勢は変わっていないんだけど、子どもの見方はね、どんどん変わってきました。
人間の秘めた力を、子どもを通して教えられてきた。
やりたいことをやっていくと、人間ってどれだけ集中して素晴らしい能力を発揮するのか、本当に感じています。

だけどね、今は忙しすぎる、子どもも大人も。
あれしなくちゃいけない、これしなくちゃいけない、あれしなさい、これしなさいの中でね、夢中になって時間を忘れるなんてことが、できないんですよね。
もったいない。自分の中にある力を発揮できないのは、残念でしょうがないです。

ただ子どもを信じて待つだけで

ー子どもがやりたいことに集中できる環境。和久さんはどんなふうにつくっているんですか?

子どもに任せることですよね、子どもを受け入れる。

こないだ、ある保育園で子どもたちと絵を描いたんです。
最初、淡い線でいい絵を描いていたんですよ、それをね、急にガッガッガって黒い線で力強く描き出した。

せっかくの淡い絵が壊れちゃって、「あぁぁ…」と思ったけどグッと我慢、僕は隣の部屋に移動して見ていたんです。
しばらくして戻ったらね、子どもの絵から真っ黒い線が消えてたんですよ。
元の色合いでね、全体を描き直していた。



ー子どもの中に、一度黒で塗ってみたけれども、やっぱり淡い色がいいなぁって感じる過程があったんですね。

これではバランスが取れない、調和が取れないっていうことが感覚的にわかったんだろうね。そう感じる能力が、彼にあったんです。

「黒色はやめたほうがいい」と思うのは、私の価値観なんだ。
本人が気づいて塗り変えるのと、言われてやるのとじゃ、吸収する度合いが違うでしょう。

だからね、信じて待ってあげるっていうこと。それがどれだけ大事か、です。


ー子ども自身の納得感が、きっと違うんじゃないかと思います。和久さんは最大でどのくらい待たれるんですか?

たとえば僕が幼稚園や保育園に出張する創作活動だと、始まって20分〜30分ぐらい、真っ白い紙の前でなんにもしない子はいるんです。
周りの子は描いてるし…さて、どうしよう。
先生に「あの子はいつも描かないの?」って聞くと、「ええ、描かないのでそのままにしておいてください」という。

それでしばらくその子を見ているとね、友だちの絵をさぐっているんですよ。そのうちに、なにかを感じたのか、描き出す子もいます。

一方で、この子はしばらくしても描かなそうだな、という子もいる。
これは僕の勝手ではあるんだけど、そういう子には「描かなくてもいいよ。絵の具をぴょんぴょんって出して色遊びをしてごらん。この絵の具、きれいだよ」なんて声をかけたりね。
その言葉に安心して、描き始める子もいるんです。

やっぱり僕はね、楽しいって思わせてやりたいんだ。
自分の世界を表現するっていうことは、人間の本能的な喜びでしょう。
それを全部認めてくれる、受け入れてくれる人がここにいる。
何をやってもいいんだとわかったら、安心して、ただ色を混ぜる、塗っていくだけでも楽しむんです。
子どもたちが楽しいな、楽しいなって言っているときはね、僕も本当に感動しますよ。



子どもへの“受信機”を働かせるためには

ー 和久さんの著書の中に「大人(親)には、子どもへの受信機を発達させてほしい」という言葉がありました。子どもへの受信機、どんなふうにすれば働くのでしょうか。

子どもに対して謙虚になっていると、自然と受信機は働くんです。
でもまず、子どもの素晴らしさをわかっていないと、謙虚にはなれないですよね。
じゃぁその素晴らしさをどうやって知るのか…。
待って見てりゃいいんです。すると、子どもが自らやりだす。
大人はそれを見ていたら、すごいなぁって思いますよ、余裕を持って見ていられたらね。

まず、子どもを見なくちゃだめですね。
自分が発信機ばっかり使っていると、受信機が働かなくなっちゃう。
そのためには大人からの「こうさせよう、ああさせよう」を、やめることです。
そうすると受信機が働きだしますよ。

僕もこういう事がわかるまでに、随分と時間がかかりました。
頑なに持っている子どもへの常識を拭い去るのは、大変です。
でも子どもに教えられて、こういう思いを持つようになってきたんです。


ーそこに至るまでには、それまで持っていた子ども観や保育観をリセットしなくてはならないこともありそうです。葛藤があったり、時間がかかったりする人もいるかもしれないですね。

それはね、葛藤ではないんですよ。

だって子どものことを、新しい世界を、知っていくんだもん。
すごい喜びなんですよ、嬉しいことだらけです。

和久洋三さん
おもちゃデザイナー
童具デザイナー/ 童具館館長 / 和久洋三のわくわく創造アトリエ代表。
1942年 東京生まれ。東京芸術大学美術学部工芸科工業デザイン卒業後、 同大学大学院修了。保育園での保育体験、大学講師等を経て、 創造性を伸ばす童具づくりに専念する。以降、「童具館」 や全国の「わくわく創造アトリエ」 で新しい創造共育活動を展開するかたわら、 幼児教育についての講演・講座活動にあたる。
おもな著書に「 子どもの目が輝くとき」、「遊びの創造共育法・全7巻」 などがある。
童具館HP
【童具館公式】和久洋三のYouTubeチャンネル

写真提供/童具館


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この記事の連載

「信じるようになったら、子どもの力が素直に出てくるようになった。」ーおもちゃデザイナー・和久洋三さん―子どもを聞く、見つめる、感じる。Vol.2【前編】

「信じるようになったら、子どもの力が素直に出てくるようになった。」ーおもちゃデザイナー・和久洋三さん―子どもを聞く、見つめる、感じる。Vol.2【前編】

今回お話してくださったのはおもちゃデザイナー・和久洋三さん。
まずうかがったのは、この仕事についたきっかけ。
子どもにとっておもちゃとは?そもそも子どもって、どんな存在?
深く広く大きなテーマ、子どもと正面から向き合うためにその“原点”を追い求めてきたそうです。

たっぷりと語ってくださったお話、前編をお届けします。

和久洋三さんの記事

「遊びの中の関係性に注目すると世界が変わる」 おもちゃデザイナー 和久洋三さんの考える、おもちゃと遊び

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笑顔がとってもチャーミングな和久洋三さん。

「生き生きと育とうとしている子どもたちが自分の能力を充分に発揮できる環境を用意してあげたい」という願いから、子どもたちの創造性を大切にした童具(おもちゃ)づくりを始めて、45年が経ったといいます。

幼児教育にも精通していらっしゃる和久さんに、おもちゃのこと、子どものことについてたっぷりお話をお伺いしました。

「子どもの力って、大人が思うよりずっと凄い」おもちゃデザイナー 和久洋三さんが見つけた子どもの本当の姿

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童具(おもちゃ)を作ることに留まらず、実際に子どもたちと関わることや、子どもが創造的に遊び、表現できる場作りも積極的に行っている、童具デザイナーの和久洋三さん。

そんな和久さんから見える、「子どもの本当の姿」とは一体どんなものなのか…。

大切なことを考えるきっかけとなるお話を、たっぷり伺うことができました。