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第6回 「失敗」に学びあり〜中瀬泰子先生(おおぎ第二保育園園長)の場合〜

新 幼児と保育
掲載日:2020/05/26
第6回 「失敗」に学びあり〜中瀬泰子先生(おおぎ第二保育園園長)の場合〜

保育が本格的にスタートする春、ドキドキしているのは子どもだけじゃないかも…。
保育者もまた新しい環境、新しい園児との出会いに、ドキドキしていることでしょう。
特に新人保育者のみなさんにとっては、なおさらでは、と思います。

そこでこの連載『「失敗」に学びあり』では、先輩保育者たちからの「失敗を恐れないで」という熱いメッセージをお届けしていきます。

第六回目は、おおぎ第二保育園園長・中瀬泰子先生のおはなしをご紹介します。

この記事は『新 幼児と保育』(2018年 4/5月号)に掲載された記事『「失敗」に学びあり』を、6回連載でお届けしていきます。


厳しい園長とめげない同僚

お話:中瀬泰子先生(埼玉・入間市 おおぎ第二保育園園長)

子どもの通っていた園の園長から声をかけられ保育士になる。赤ちゃんの保育に深い関心を持ち、現在の法人に移り園長となる。2年後の1982年におおぎ第二保育園を立上げ、現在に至る。当時の写真。


知人が保育園を設立すると同時に、保育園にかかわったのは29歳くらいだと思います。

あるとき、保護者を招いて「舌切り雀」の劇のリハーサルをしたことがありました。
そのころは劇の配役は、子ども同士で話し合って役割を決めるということはなく、先生が決めていたのです。私が舌切り雀のお婆さんに配役した子は、園長が思っていた子と違っていました。
それで、リハーサル当日、その子が舞台で失敗したのか何か覚えていませんが、いきなり園長がその子を舞台から下ろして、私に「この子はムリだから代えなさい」といったのです。
私は納得がいかず、その子をまた舞台に上げました。それでも園長はまた下ろし、子どもが泣いてしまいました。それを見ていた保護者は唖然としていました。そんなことがありました。

今、私も園長になって、ふりかえると、その園長の思いがわかり、悪いことしたなあって思っています。同時に子どもを思ってやったつもりが、泣かすことになってしまって…。自分からやりたいといった役でもないのに、ふたりの大人に上げられたり下ろされたり、今さらながらその子にも悪いことしたなぁと思います。

***

失敗といえば、同僚で愉快な人がいました。

その先生のクラスではオタマジャクシを飼っていたのです。
ある日登園してきたら、部屋中、アマガエルが跳び回っていました。先生は生き物が得意じゃなくて、どうしたらいいかわからなくて立ちすくんでいました。そこへ園長がやってきて、「何をしているんですか。早く子どもが来ちゃうからつかまえなさい」って。
私と同僚とでつかまえるのですが、その先生はカエルが苦手で泣いて逃げ出しちゃったんです。
すると園長が「保育士でカエルが嫌いとは何事か!」と同僚を部屋に放り込むように戻して、扉を閉めてしまったのです。当時の園長は、厳しかったから…。
でもその先生もオタマジャクシに手が出て、足も出て、その先を予測ができなかったのでしょうか。早く登園した子どもは、カエルが逃げてる!って大喜びでしたけど。

また、そのころ室内装飾を毎月替えていたのです。
その先生はユニークな人で、部屋中、水族館にしようと思ったようです。昆布や魚を天井からつり下げて、その魚にしたのが、昔、魚屋さんから魚を買うと入れてくれた水色のビニール袋だったんです。
それを彼女は集めていたようで…前から水族館をやろうと思い描いていたのでしょうね…。袋に空気を入れてしばって、魚にして天井からいっぱいつり下げて水族館にしたのです。それは見事だったんです。だけど園長が点検に来て、がらっと扉を開けたら、なんと魚の臭いが部屋中、充満していたのです。
園長は「子どもの部屋にこのくさい臭いはなんですか」と怒りました。子どもを喜ばせようとしたことが裏目に出ちゃったのね。今思えば、部屋を水族館にしようなんて夢があって、すてきな発想ですが。

それから、昔は運動会で先生たちの仮装行列というのがありました。
その先生はサザエさんに扮したのです。髪を太いカーラーで巻いて、割烹着を着て下駄を履いてサザエさんになりきっていました。でも行進直前にカーラーの巻きが弱くて髪が垂れ、オバケみたいになってしまって…。それを園長に注意され、ちょっと体を引っぱられたら、割烹着が破れちゃった。
だけどもう行進が始まる。出なきゃいいのに、そのまんま出て、本人は見えないからよかったのですが、なんだかわからない格好のまま園庭を1周して…それでまた園長に怒られて…。
でもサザエさんって誰にもわからなかったけれど、それで人気が出ちゃって。本当にサザエさんみたいな人でした。

その人は不思議と子どもに人気がありました。
怒っている園長に対して恨み言をひと言もいうではなく。まわりにこぼすこともなく、動じないというか、おおらかな人柄で…。私はそうした若いころのいろいろなエピソードを園の保育士に話すことがあります。
失敗や間違いで必要以上に落ち込むことはありません。愉快な思い出をいっぱいふりまくなんて、いい保育士じゃない!?



聞き書き/宮川 勉
イラスト/ホリナルミ

この記事の出典  『新 幼児と保育』について

 新 幼児と保育(小学館)
保育園・幼稚園・認定こども園などの先生向けに、保育をより充実させるためのアイデアを提案する保育専門誌です。

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