「行ってきます」からはじまる。軽井沢風越幼稚園という、毎日が冒険になる場所。
今回訪れたのは、長野県北佐久郡軽井沢町にある 「学校法人 軽井沢風越幼稚園」。
前編「子どもがつくる、子どもの時間。」ー 軽井沢風越幼稚園 はこちら。
ゆったり たっぷり じっくり 子どもがつくる、子どもの時間を大切にする、学校法人 軽井沢風越幼稚園。その暮らしの根っこには何があるのでしょうか。園長の遠藤綾さんにお話を伺いました。
子どもがつくる、子どもの時間。
ーー 軽井沢風越幼稚園の特徴を教えてください。
校舎はありますが、基本的には寒い日も、雨の日も外へ出て、森の中で活動することを大事にしています。

園長の遠藤綾さん。インタビューも風越幼稚園の森の中で。
保育のキーワードは二つあって、「子どもがつくる」ということと、「子どもの時間」ということ。
今日見ていただいたように、子どもたち一人ひとりの様子が集まって、その日の流れが決まっていきます。集いも「何時にはじまる」ときっちり決めているわけではなくて、なんとなく少しずつ集まって、始まっていく。
集いのあとに、森へ探検に行こうと思っていたけれど、誰かがけんかをしてそのやりとりに時間を使って午前中が終わる日もあれば、大人が想像していなかった冒険に繰り出すこともある。そのくらい、その瞬間の子どもたちの感覚や気持ち、状態を大事に日々過ごしています。
なので、お弁当も自分のタイミングで食べるんです。「そろそろかな」「お腹すいてきたな」という身体の中の時間を感じながら動いていく。

お弁当を温めるために薪割りをする人の奥では、まだじっくりと遊んでいる子どもたちの姿。
「子どもがつくる」というのは、子どもたち自身が時間の流れを握っているということだけでなく、環境づくりもそうです。例えば、春には森の中で自分たちで移動して遊べる範囲と、ここから先は大人と入るよというエリアの境界線を子どもたちと相談してつくります。
グループの名前も、あらかじめ決まっているのではなく、話し合って決めていく。そうやって自分たちの環境を自分たちでつくっていく感覚が、年少から少しずつ育っていくことを大事にしています。
ちょうどよく支える
ーー「身体が知っている時間」という言葉が印象的でした。今日も、いろんな場面で「そろそろかな」と自分の身体で感じ、自分のタイミングで動いている子どもたちの姿に何度も出会いました。その様子を見る中で心に残っているのが、スタッフの皆さんの声が小さくて、大人が急かす姿がなかったということ。でもその一方で、“子どもがつくる、子どもの時間”をどうやって支えるか、大人側の難しさや葛藤もありそうだなと感じました。
そうですね。子どもがやりたいことを叶えればいい、ということでもないし、子どもが言ったことがすべて実現する状態をつくりたいわけではない。
その子のこれまでの歩みや、今いるコミュニティとの関係、これから先の願いまでを含めて、「これはどう?」と手渡したり、支えどころを探したりする。その塩梅は難しいのですが、“ちょうどよく支える”ことができるといいなと。
たとえば、今、年中さんたちがみんなであれこれ相談しながら、ホテルづくりに取り組んでいて。その時に、「どんな道具があったらいいかな」「どんな材料だったら、いま子どもたちがイメージしているものを、自分たちの手で形にできるかな」と考えています。木材ならこのくらいの太さなら釘が打てるな、とか、釘の長さはこのくらいがよさそうだな、とか、そういう具体的なことも含めて。
それから、それをどこに置いておくと一番運びやすいか、ということも大事で。一輪車で運ぶのか、みんなで「えっさえっさ」と抱えて運ぶのか。それも、そのグループの今の雰囲気や力加減と関わってくるんですよね。

ホテルをつくる中で生まれてきたパン屋さん
ごっこ遊びでも同じで、「もうちょっとこれがあると広がりそうだな」と思ったり、「あっちの子たちも似たような遊びをしているな」と気づいたり。昨日けんかがあったり、うまくいかなかったりした子たちの遊びと、別の場所で起きている遊びを、少しつなげてみたら発展するかもしれない、と考えることもあります。
そういう橋渡しをしたり、「あっちもなんだか面白そうなことやってるよ」と、さりげなく声をかけてみたり。そういうところは、保育者が支えている部分かなと思います。
そして、その時に求められる専門性の一つは、「複雑さにとどまる力」かもしれません。
答えはないし分からないんだけど、その中にとどまりながら、よく見て感じて、一歩踏み出したり引っ込めたりする。それを繰り返していくしかないのかなと。
子どもの育ちの力強さと、遊びの持つ奥深さ
ーー 最近の保育の中で、印象的だったエピソードがあれば教えてください。
これも年中さんのエピソードなのですが、ごっこ遊びの中で、以前は「強い自分」を表現することが多かった子がいて。口調が強くなったり、仲間に入るときに少し強引になってしまったり。その子なりに、遊びの中で居場所をつくろうとしていたのだと思うのですが、その結果、遊びが続かなくなることもありました。
でも最近、その子が「猫の赤ちゃんになる」ごっこ遊びを始めたんです。その役を選んだことで、ごっこ遊びの中に自然といられるようになって、この二週間ほど、ずっと猫の赤ちゃんをしています。しかもただ役になりきるだけでなく、「こういう遊びはどう?」と自分から猫の赤ちゃんができる遊びの提案もしているんですよね。

森の中では、さまざまな子どもたちの世界が広がっていく。
きっとその子にとっては、遊びに入れるようになった、という以上の意味があるのだと感じています。守られる存在になることで満たされる何かがあるのかもしれません。
心と体が必要としていることを見つけて、繰り返し遊ぶ中で、わたしを表現し、わたしになっていく。その姿に、遊びの持つ奥深さをあらためて感じています。
「行ってきます」ここは冒険する場所。
ーー 最後に、軽井沢風越幼稚園が、子どもたちにとってどんな場所でありたいと願っているのか、お聞かせください。
子どもたちにとって、いちばんは「楽しい」場所であること。そして、「明日も来たい」と思えていること。それを大切にしたいなと思っています。
それから、やっぱり、ここは“冒険する場所”なんだと思うんです。
私たち、毎朝、保護者に「行ってきます」と言うんですよ。普通は、子どもを預かる時に保護者に向かって、「行ってらっしゃい」と言いますよね。「行ってらっしゃい」にはその場所が家のような場所でありたいという願いが込められている。
ここで子どもたちは毎日、冒険に行くんです。だから「行ってきます」と言う。それはきっと、この園のあり方を象徴していることなんじゃないかなと。
子どもたちが、「今日も冒険に行ってくるね」という気持ちで朝を迎えられるような場所でありたい。そして、その冒険が、ゆったりたっぷりじっくり味わえるものであってほしい。そう願っています。

「いってきます!」
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撮影:三輪 ひかり/水岡 香
写真一部ご提供:学校法人 軽井沢風越幼稚園
三輪ひかり