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私たちの子ども時代の話。ー 柴田愛子さん×絵本作家 長野ヒデ子さん〈番外編〉

三輪ひかり
掲載日:2022/11/15
私たちの子ども時代の話。ー 柴田愛子さん×絵本作家 長野ヒデ子さん〈番外編〉

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする連載「井戸端aiko」。
第四回目のおしゃべりのお相手は、絵本作家の長野ヒデ子さん。

盛り上がったおしゃべりの中で、泣く泣く本編からはカットした「愛子さんと長野さんのこぼれ話」を、番外編としてお届けしたいと思います。



子どもの友だちは子どもだけじゃなくて、大人でも友だちになれる

愛子さん:
長野さんはどういう子だったの?やっぱり子どものときから、絵を描くのが好きだった?


長野さん:
絵は描いていたけど、絵だけが特別に好きだったというより、とにかく遊ぶのが好きだった。

子どもの頃住んでいた家のはす向かいに、「アオイさん」っていう人が住んでいたんだけどね、子どもがいない家だったの。そこによく遊びに行ってたのよ。だって、子どもがいない、大人だけが暮らしている家ってちょっと魅力的じゃない。でも、アオイさんは胸が悪くてね、親には「あの家には行くな」と言われてたから、親には内緒で遊びに行っていたわけ。
それが原因かはわからないんだけど、私、小学校3年生のときにレントゲンを撮ったら胸に影があって、一年近く学校を休むことになったのよね。

愛子さん:
あら、そうだったの。

長野さん:
でもそうなったら、今度はおおっぴらにアオイさんちに遊びに行けることになったのよ。
それで、いろいろと遊んでいたときに、「子どもの友だちは子どもだけじゃなくて、大人でも友だちになれるんだ」って思ってさ。それでね、年齢は関係ないと思ったのよ。

愛子さん:
長野さんのお母さんはどんな人だったの?

長野さん:
うちの母はあっぱらぱあ。

愛子さん:
あっぱらぱあ!長野さんちょっと片鱗があるじゃない(笑)。

長野さん:
急に変な歌を大きな声で歌うし、近所の子どもたちにも「ヒデ子ちゃんのおばちゃんと遊ぶのはいい」とか言われちゃって。子どもの時は、普通のお母さんがいいなと思ってたの。でも、愛子さんが言う通り、私自身も娘のアサコに「普通のお母さんがいい」って言われちゃってる(笑)。


大好きって想いだけじゃない

愛子さん:
私も普通のお母さんがよかった。
長野さんのお母さんとは真逆で、うちのお母さんはずっと凛としている人だったの。小言も言わない。私たち、子どものことも一人の人間として尊重してくれる。

長野さん:
えらいね。

愛子さん:
えらいのよ。でも、だからいろんなことが敵わないのよね。
私が学校に行くのがしぶしぶでも、母はPTAの副会長かなにかやっていたから、毎日のように別々に通っていたの。私は学校で喋れない子だったのに。

長野さん:
喋れない子?えー、信じられない。

愛子さん:
そうでしょう。小学校1・2年生のときは何も喋らなかったの。6年間で手をあげたことも3回しかないんだから。

長野さん:
えー、うそーーーー!

愛子さん:
本当。今となると私、自分がサナギだと思うの。でも家ではよく喋るし弁も立つのよ。きょうだいが5人もいて、自己主張しないとやっていけなかったから。

愛子さん:
それとね、母はべたべたしていい人ではなくて、ちょっと憧れる人だったの。そして母の言うことは結構正しいのよ。
たとえばね、中学生のときに、「私は、私立の高校に行きたいと思っています。でもどこの高校がいいのかわからないんです。お母さんはどう思います?」って母に相談したら、「学校というのは成績で評価するところですよね。あなたがどの学校に適しているかわかっているのは誰だと思いますか?」って問い返されたの。「それは、学校の先生」って答えたら、「じゃあ、その先生に相談しなさい」って。一事が万事、そういう感じなのよ。

「お母さんピアノがやりたいんです」って相談したときも、「あらそう、この道をまっすぐ行って左に曲がったところにピアノを教えているお宅があるから、いってらっしゃい」って海苔の缶を持たされたりさ。小学校4年生だったんだけど。

長野さん:
一人で行ったの?えらいねぇ。私の母が言うことは、全部正しくなかったわよ。でたらめで信じがたいことも本気でするし、変な母でしたよ!でも、変がいいのよね。

愛子さん:
だからね、なんか苦しいときもあった。「お前の母さんがこう言ったんだってな」と同級生に待ち伏せされていじめにあったりして、私がそれを引き受けなくちゃいけなかった。その時、普通のお母さんが、何も言わないお母さんがよかったって思ってたけどね。そう、うまくいかないわよね。

長野さん:
お母さんが大好きな人って、大好きって想いだけではないもんね。こんなところは嫌いだとか、ああいうお母さんには絶対なりたくないとかね、思ったりするよ。でもそれは悪いことじゃなくて、自然なことなんじゃない。




「井戸端aiko」おしゃべりのお相手は…

長野 ヒデ子さん

1941年、愛媛県生まれ。
絵本作家。絵本創作に紙芝居、イラストレーションなどの創作の仕事やエッセイや翻訳も行う。紙芝居文化推進協議会会長。
代表的な作品に『とうさんかあさん』(石風社/絵本日本賞文部大臣賞受賞)『おかあさんがおかあさんになった日』(童心社/サンケイ児童出版文化賞受賞)、『せとうちたいこさん・デパートいきタイ』シリーズ(童心社/日本絵本賞受賞)。『ころころじゃぽーん』(童心社)をはじめ、紙芝居作品も多数ある。エッセイ集『ふしぎとうれしい』(石風社)、『絵本のまにまに』。

柴田 愛子さん

1948年、東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。
1982年、「子どもの心に添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。保育のかたわら、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。テレビ、ラジオなどのメディアにも出演。
子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。
著書 
「子育てを楽しむ本」「親と子のいい関係」りんごの木、「こどものみかた」福音館、「それって保育の常識ですか?」鈴木出版、「今日からしつけをやめてみた」主婦の友社、「とことんあそんで でっかく育て」世界文化社、「保育のコミュ力」ひかりのくに、「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」小学館、絵本「けんかのきもち」絵本大賞受賞、「わたしのくつ」その他多数。


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撮影:雨宮 みなみ



この記事の連載

「子ども心は、誰もが持っている感性だと思う。」柴田愛子さん×絵本作家 長野ヒデ子さん〈前編〉

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第四回目のおしゃべりのお相手は、『せとうちたいこさん』シリーズをはじめ、子どもから大人にまで親しまれているたくさんの絵本の生みの親である絵本作家・長野ヒデ子さん。

実は愛子さんと長野さん、ともにつくった絵本もあるのです。

「子どもと子どもの間の心の機微は、人間の豊かさの原点。」柴田愛子さん×絵本作家 長野ヒデ子さん〈後編〉

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第四回目のおしゃべりのお相手は、絵本作家の長野ヒデ子さん。

前編は、愛子さんと長野さんの出会いや、絵本作家である長野さんのモノの捉え方・考え方などへと、おしゃべりが広がっていきました。
後編では、愛子さんと長野さん2人でつくった絵本の制作エピソードから、紙芝居の話にまでどんどん深まっていきます。