子どもたちの心のままにまちを歩いてみたら〜こどもの“やってみたい”を やってみよう/しぜんの国保育園の実践より〜
子どもたちから生まれる、あんなこと、こんなこと「やってみたい!」という気持ち。
大人はどんなふうに一緒に楽しめるでしょう…?
子どもたちの「今日は何をしよう?」から生まれる保育を大切にしている、東京都町田市・しぜんの国保育園。
その実践の様子を紹介いただきながら、子どもの「やってみたい」の受け止めかた、楽しみかたのヒントを見つけていけたらと思います。
第1回はしぜんの国保育園の保育士・宮原さんの記録より、「子どもたちの心のままに まちを歩いてみたら」。
しぜんの国保育園(東京都町田市)
しぜんの国保育園 small village (スモール・ヴィレッジ)
町田市に1979年設立。「すべてこども中心」という理念を掲げ、特定の教育メソッドに拠ることなく一人ひとりの子どもたちに寄り添い、自然豊かな環境での保育を実践。「ものがたりメニュー」を中心とした食育の試みや、創造力をかきたてる保育など新たな取組みを行う。クラスの枠組みを超えた異年齢保育の時間、クラス、ワークショップという3つの時間を柱とした活動を特徴とする。
https://sizen-no-kuni.net
しぜんの国保育園では、午前中は3、4、5歳児の異年齢のチームで日々を暮らしています。
この実践はいくらチームの出来事です。
子どもたち、「こっちの道に行ってみたい」と…
4、5月、しぜんの国ではこの時期を「ゆらゆら期」として捉えています。子どもたちを無理やり型に押し込むことはしません。子どもたち一人一人の表現を受け止めて、子どもたちを「まとめる」ことに重きを置くのではなく、「みんなでいるとなんだかうれしい」「こんなこと、やってみたい」と思える場になるように心がけていきます。そのプロセスの中で、大切にしているのが「まち歩き」。子どもたちと一緒に街を歩きます。自分たちのフィールドがどんな場所なのか、人、物、環境、どんな関係性が育まれていくのか、自分たちの身体を使って知っていくのです。
この日、目当ての公園を目指していくらチームで歩いていたときのこと。「こっちの道に行ってみたい」という子どもたちの声で始まった、目的のない「まち歩き」。
この経験をくぐり抜け、はじめてのことに挑戦することへの「どうなるんだろう」という期待感、「迷わないかな」という不安を抱きながら、先に進む高揚感を味わいました。子どもたちと一緒だからこそ、前例のないものを全力で楽しめる、そんな気持ちを私自身も感じました。
保育者の気持ちを 子どもたちに伝えてみることにした
私もはじめてのことに「迷ったらどうしよう」「行ったことのない道は怖いな」と足踏みをする気持ちもありました。そこで、その気持ちを子どもたちに話してみようと思いました。
事前に、セッション(※)でまち歩きについて取り上げると「本当は行ってみたい道があったんだ」「家を見に行きたい」「知らないところまで行きたい」とでてくる子どもの思い。
そこで、私の不安な気持ちも伝えてみると、「分かる」「地図を持っていけば大丈夫」「ルールも守れば怖くない」と、子どもたちも気持ちを伝えてくれました。大人も子どもも思いを交錯させながら、やっていこうと改めて思ったセッションでした。
※子どもたちと気持ちを交わし合う対話の時間を、しぜんの国では「セッション」と呼んでいます
私たちの足跡が、街のあちらこちらに
セッションで、子どもたちの「やってみたい」気持ちも高まり、いざまち歩きへ。順番に出会った分かれ道に「こっちだ!」と進んでいきます。仲間の決めた道に「よし!」と向かうみんな。セッションでの話し合いを通して、お互いの気持ちを受け止め合い、お互いを信じる関係性が作り上げられていました。
ある日は、子どもの指差す方向へ進んでいると同じ道を40分かけて2周していたり、5分ごとにいい日陰を見つけて“ちょっと休憩”をしていたりすることもありました。「また同じ道だね!」「涼しいところに行こう!」と、目の前で起きた出来事をマイナスに捉えるのではなく、顔を見合わせて思いを分かち合う姿も見られました。
子どもが主役になり進んでいたからこそ、「歩かされている」感ではなく「自ら歩む」「自分なりの目的を持って歩む」姿が感じられたのだと思います。
いつもより子どもたちの視線、目線も高く、雲の形や虫、家の模様などの発見もいっぱい。選択した先でであったものを仲間と分かち合い、一緒に喜びを感じながら、自分たちの足跡を街に残して行きました。
その瞬間でしか会えない、匂い、音、風。自分で道を決めることで「こっちへ進む」ことに重みを感じる。意識することで「こっちを曲がると公園がある」「〇〇に行きたいならこっち」などとフィールドの理解にも繋がったように思います。
子どもの時間軸で過ごしたら 日々がなめらかになった
その日から、「まち歩きへ行こう」と子どもたちから提案されることが増えました。大人が決めた街歩きはただの「移動」。
子どもたち発信の「まち歩き」を重ねていると、子どもたちで「今日は公園みつけよう」「今日は前行ったお店を見に行こう」と相談している姿も見られるようになって行きます。「子どもの時間軸」で過ごしていたからこそ「ちょっと疲れたからもう帰らない?」という提案も子どもたちからも出てきて、一日がなめらかに過ぎて行くのを感じました。
それぞれの思いを受け入れ、受け止められていくこと。そんな関係性の積み重ね。子どもの力で園外へ冒険しに行くことでチームの繋がりが強くなったように感じます。
一番年下の3歳児の「疲れた。」との声で、5歳児の子が日陰を探しに動く姿も見かけました。一人一人が仲間の意思を大切にしている雰囲気が生まれたように感じます。
このゆらゆら期の時期、保育の中で大変と言われる時期かもしれません。けれども、私は緩やかに関係性が混ざっていくこの時期が好きです。
実践・記録/宮原華子(しぜんの国保育園)
編集/齋藤美和(しぜんの国保育園)
しぜんの国保育園の記事
「環境から保育を始めよう」—しぜんの国保育園(東京都 町田市)
都内にあるとは思えない豊かな自然のなかで、子どもも大人も自分の「好き(得意)」や「やってみたい」という思いを大切にしていました。
「自分たちで考え、対話することを止めない。」しぜんの国保育園 齋藤紘良さん〜コロナ禍での保育実践と思考vol.2〜
お話をしてくださったのは、過去にほいくるで園の取材をさせていただいた社会福祉法人東香会理事長の齋藤紘良さんです。