保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「環境から保育を始めよう」—しぜんの国保育園(東京都 町田市)

三輪ひかり
掲載日:2017/04/20
「環境から保育を始めよう」—しぜんの国保育園(東京都 町田市)


今回訪れたのは、東京都町田市にある“社会福祉法人東香会”が運営する「しぜんの国保育園」。

都内にあるとは思えない豊かな自然のなかで、子どもも大人も自分の「好き(得意)」や「やってみたい」という思いを大切にしていました。



保育のようす

園の玄関の写真
保育園とは思えない、お洒落で優しい雰囲気に溢れた園舎



園の中の様子
中に入ると、地域の方にオープンしているスペースがあります

園にお伺いしたこの日、年長クラスの子どもたちが、「き(木)のこえがきこえる」という子どもの声から始まった『音のワークショップ』をしていました。



園児が輪になっている様子
まずは、今日何をするかみんなで相談



山にお出かけしている様子
裏山に、音探しへ行くことに



木の枝を拾って抱えている様子
自然の声を聞いて、「これだ!」と思えるものを手に取る



お花を拾った様子
「みて!ぼたんのはなだよ」



拾った枝で作っている様子
拾ってきた自然物で、声の聞こえた木(枝)を着飾ろう



廃材と組み合わせている様子
この木には、どんな布が合う?



作品を作っている様子
白い布と白いひもを選んで、木に着せる



子どもたちの真剣に取り組む姿を見ていると、どこからかいい匂いが。
ホールに様子を見に行ってみると…

お昼の給食の写真
今日の給食は、絵本「からすのパンやさん」がモチーフ!



給食のパンを選ぶ用紙の写真
子どもたちは自分で食べたいパンを決めて、



パンを受け取りに行く様子
パンを買いにいきます



みんなで給食を食べている様子
先生曰く、子どもたちはいつも以上によく食べていたそう


遊びのなかでも、暮らしのなかでも「わたし(ぼく)は、こうする」という一人ひとりの気持ちが尊重されていると感じる瞬間がたくさんあった、しぜんの国保育園。


子どもも、そして大人も、無理することなくありのままの自然体でいる姿がとても印象的でした。

みんながそのように過ごせるのには、何か理由があるのでしょうか?
園長先生にお話をお伺いしました。



齋藤先生の写真

お話をお伺いしたのは、自然体で子どもと関わる姿が印象的だった、園長の齋藤 紘良さん。



「しぜんの国保育園」の特徴はどんなところ?

森で探索してる子どもの様子


しぜんの国の特徴のひとつは、「環境」ですね。
駅から遠いということは、保育園の運営や職員の通勤時間などを考えたらデメリットになるかもしれませんが、自然に恵まれたこの環境は、何にも代えがたいものだと思っています。

そして、この環境を余すことなく使うこと。
これも特徴かもしれません。


子どもにとっていいな、豊かだなと思う環境があっても、それを充分に使えない園もあるだろうし、使わないという選択肢を取る園もあるかもしれない。

でもしぜんの国では、大人の考えや持っているものを、子どもたちに与えたり施すのではなく、彼ら自身が環境や僕たち大人と自由に関わることができる権利を大事にしてあげたいと思っています。


だって、話していいよ、遊んでいいよと言わなくても、子どもたちは話したければ話すし、遊びたければ遊ぶでしょ。

その本質を基盤にする中で、環境から保育を考えるようになっていったし、その環境を余すことなく使うということを、大事にするようになっていきました。


最近印象に残っている「しぜんの国保育園」らしいエピソードは?

窓から外を見ている様子


この前、廊下から大きな声を出して盛り上がっている子どもたちの声が聞こえてきて。
近くで午睡をしているクラスもありその声がだいぶ大きかったので、「ちょっとボリューム下げたら?」って話しかけようかなと思って、見に行ったんです。

そしたらその子たち、外の景色を見て「めちゃめちゃキレイだ」って、喜んでいて!
あぁ、この子達のこの価値観素晴らしいなぁと思いました。


こういう子どもたち一人ひとりの姿や思いみたいなものを大事にしてあげたいという気持ちと、じゃあ集団としてはどう行動していくのかという部分のバランスは考えれば考えるほど悩むことではありますが、幼少期は、6歳までは、自分がわぁーっと思った瞬間に素直に声が出せるという経験を、たくさん積んでいってほしいと改めて思う瞬間でもありました。


保育でおもしろいと感じるところは?

保育の様子の資料の写真


保育の中で起こる様々なことが広がって繋がっていく「全体図」がおもしろいなぁと思っています。

たとえば、この前「音キャッチ」という音のワークショップ中にコーヒーのキャンドルをつけたんですけど、ある子が「チョコのにおいだ!」と言いだして、「チョコたべたい」、「食べたいよねー、じゃあ作っちゃえば?」みたいな話に広がっていたんです。

そしたら、本当に何人かの子がチョコレート作りに挑戦し始めたんですよ。

まずチョコレートは何からできているのか調べるところから始まって、何度も見よう見まねで作ってみるんですけど、なかなかおいしく作れなくて…。

でも何週間も何ヶ月もチョコ作りを続ける子どもたちの姿が、少しずつ周りに広がり繋がりを生み出して、お菓子屋さんを経営している保護者の方がお話をしてくれたり、近くの小学校の5年生がチョコ作りに成功したということを教えてくれる人も出てきて、小学生にインタビューをしに行くことになったんです。

そこでたくさんヒントを得て、最初はカカオ90%で作っていたんですけど、カカオ60%が最もおいしいチョコが作れるという結論まで自分たちで導いていました。
先週、僕も改良を加えて作ったチョコをもらって食べたんだけど、すごく美味しかったです。

きっと大人から「チョコ作りましょう」と投げかけて作っていたら、きっとこんなに素晴らしい広がりは見せなかっただろうなぁ。


保育において大切にしていることは?

子どもの枝を使った作品の写真


ひとりで保育をするのではなくて、色んな人の声を、目を、手を反映していくこと。
そして、ひとりの子を色々な人がそれぞれの目で見て関わることを大切にしています。

色々な人の目線があれば、その子に選択肢がうまれるでしょ。
こういう時はこの人といたい、この場合はこの人についていけばいいというように。

クラス運営で先生が一人で子どもたちを向き合うということをすれば、その人の目線でしか子どもたちを見られないし、その先生のカラーが色濃くなっちゃうと、子どもたちはその先生に合わせようとするようになっていきます。
もちろん合わせる力も時として大切だとは思うんですけど、合わないときの悲劇が絶対にでてくる。

僕自身、小学生の時どうしても合わない先生がいたんですが、その時図工の先生や音楽の先生がいたとことがとても救いだったんですよね。
なるべくそういう環境を保育園でも作ってあげたいなぁと思っています。


子どもとの関わりで大切にしていることは?

齋藤先生の写真


自分の言葉で、自分の思いを子どもに伝えていくことです。

「それしたらいけません」、「園の決まりです」とかそういう保育の定型文的な言い方は極力しないで、例えばしてほしくないなということがあれば、「ぼくはそういうことはして欲しくない。」という伝え方をするようにしています。

多分こういう関わりかたを大事にしたいと思うようになったのは、自分の今までの経験が関わっていると思うんですが、特に海外に行った時の経験が大きく影響していると思います。

最初、言葉がたどたどしくてうまくコミュニケーションが取れなかった時に、自分の作った音楽を聴かせたら、途端にコミュニケーションの質が変わったということがあったんですよ。言葉が拙くてもきちんと聞いてくれたし、ちゃんと応えてくれた。
自分の内面を見せることによって、言葉はただの道具でしかなくて、それ以上のところで繋がれるんだということを知ったし、その繋がろうとしてくれる感じがすごく嬉しかったんです。

子どもたちも言葉のボキャブラリーは少ないけど、伝えたいことはたくさんあって、それに対してまっすぐ向き合ってくれることは、嬉しいことだと思うんですよね。赤ちゃんだってそう。

だから感情でも感覚でも、なるべくパーソナルな部分をしっかり開いて、子どもたちとフラットに関わっていくことを大切にしたいなと思うんです。


しぜんの国保育園の「夢」は?


村を作りたいということが、夢ですね。


スモールビレッジは小さな村でいいと思うんです、ビッグじゃなくていい。
このサイズ感で、もっと多様な人々が当たり前のようにいる場所にしていきたいです。

たとえば、老人がその辺でちょろちょろして子どもに話かけているとか、若者が赤ちゃんと一緒にゆっくり過ごしているとか、多様な人たちが自然とフラフラしている所にしたい。


でもこの村に入るには条件があって…。
それは、「子どもを尊重する」ということ。

子どもを真ん中にした社会をこの村の中で実現したい。
そして僕自身もそんな村の中をフラフラしていたいなぁと思うんです(笑)。


◆基本情報
名称:しぜんの国保育園
運営:社会福祉法人東香会
住所:〒194-0035 東京都町田市忠生2丁目5-3

https://toukoukai.org/ 





取材・文・写真 三輪ひかり