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「自分たちで考え、対話することを止めない。」しぜんの国保育園 齋藤紘良さん_コロナ禍での保育実践と思考vol.2

三輪ひかり
掲載日:2021/03/18
「自分たちで考え、対話することを止めない。」しぜんの国保育園 齋藤紘良さん_コロナ禍での保育実践と思考vol.2

新型コロナウイルスにより、多くの保育園や幼稚園が休園したり、各家庭に登園自粛のお願いをしたりするような形で新年度がスタートした、2020年。その頃には、まだ「夏には収束するよね」、「秋にはもう元どおりの生活だろう」…と多くの人が思っていたのでしょうが、蓋を開けてみると最初の自粛期間があってからもうすぐ一年が経つ今もなお、私たちの暮らしの中に新型コロナウイルス感染症があります。

今まで経験したことのないような不測の事態の連続に、保育者のみなさん、そして子どもたちも、不安を感じながら、手探りで毎日を過ごしていることと思います。また、子どもたちの心身の健康や、これからまだ続くであろうコロナ禍での生活のことを考えると、何が正解なのか、どうすることが良かったのか、どうしていくのが良いのか、答えがわからないまま、現在も試行錯誤している園は多いのではないでしょうか。

そこでほいくるでは、約一年の間にそれぞれの園が向きあってきたコロナ禍での保育の実践、子どもたちとの日々や保育者の想いをみんなで共有し合えたらと考えました。

まずは、過去にほいくるで園の取材をさせていただいたことのある3園にお声がけをさせてもらい、園の様子や思いをお伺いしました。

2園目は、しぜんの国保育園をはじめ、6施設の運営を行う社会福祉法人東香会。お話をしてくださったのは、理事長の齋藤紘良さんです。


社会福祉法人東香会理事長・齋藤紘良さん

しぜんの国保育園small villageを取材した記事

https://hoiclue.jp/800005214.html



自分たちで考えることを止めない。

ちょうど1年前からですよね。2月後半頃から、小学校が休校になったり卒業式が中止になったりという話題が上がってきて、「これはまずいぞ」という気持ちが徐々に全国的に高まっていったのを覚えています。その時はまだ感染がここまで拡がるとは誰も予想していなかった。

ただ、僕らは早い段階から危機感を持っていました。何に危機感を持っていたかというと、「みんなで一緒に“考える”ということができなくなってしまうのではないか」ということです。というのも、国や行政から「こうしてください」「これはしないでください」という通達がどんどん下りてくる。その判断がいいか悪いかということよりも、自分たちでは考えられなくなる、その流れがよくないなと思ったんです。


ー 自分たちで考えることができなくなる。

そうです。それで、情報共有のツールをなるべく早く改善しようと、それまでは手紙やメール等で一斉配信していたものを、保育者や各家庭と個別にチャットができるようなツールを導入して一人ひとりとコミュニケーションが取りやすくなるようにしたり、職員間でのオンラインツールなどを積極的にはじめました。

その時に参考にさせてもらったのが、民衆の声を拾い問題をすぐに改善するということに成功していた台湾のデジタル大臣たちの動きで。彼らの行動の根底にあるのは、「誰かひとりでどうにかするのではなくて、いろんな人たちがそこに議論を重ねる」ということだったんですよね。最終的に判断する人がいたとしても、問題を改善するプロセスに様々な人が関わる。そうすることによって、みんなにとって自分ごとになって、仮に対策が失敗したとしても「じゃあどうしようか」と、その問題を次へと展開させるスピードがすごく早いんです。

一人の人が決め、それに失敗するとその人が責任をとって辞めて、また新しい人がその役につく…というのが、今の日本のやり方ですけど、それじゃあ歩みが遅いと思いましたし、様々な方と議論を重ねていくということがすごく重要だと思って、その方向へ東香会は大きくシフトチェンジしていきました。

そこが、コロナ禍によって起きた一番の大きな変化でもあるし、コロナのおかげでグッと前に進んだ部分だと思います。


出すこと、聞くこと。

コロナ禍でもう一つ強く考えたのは、保育者たちのことを誰が守るのかということ。このコロナ禍でも行政から平然と原則開園を求められる認可保育園の状況を見て、保育者たちは、保育従事者である前に一人の人間なのに“義務”として最前線に立たされている。もちろん、子ども、家庭、経済などのために原則開園の必要性は理解しておりますが、保育者も人間だということが後回しにされているような国や行政からの通達はそのまま受け入れてはいけないと思い、行政や保育団体にこちらの想いを伝えるメッセージを送ったり、自分たちできちんと考え判断することが大切になりました。コロナ禍で子どもの日常を守るのは保育者ならば、その保育者を守るのは僕ら法人しかなかったので、できる限りの保育者へのケアをおこなうように法人内で協議しました。「原則開園」を義務化するならば、保育者を守るのは国だと今でも思っています。


ー 保育者のみなさんも初めての事態に戸惑いや不安もあったはず。でも、それでも園を開き、子どもたちを迎え入れ、子どもたちの毎日を守ろうとし続けてきたんですよね。当たり前のことのように思われて、なかなか議論にあがらない部分だと思うけれど、忘れてはいけないことだと改めて思いました。

保育者たちには、「パーソナルな気持ちを事務所で出していいよ」ということを語りかけ続けました。そして、もしそのバランスが崩れて気持ちが落ちても、それは当たり前だよって。


ー 一人ひとりが尊重された中で、チームがつくられていく。とても素晴らしいことだなと思うのですが、ポジティブな感情だけでなく、扱いづらい感情も出てきたりして、難しい時間も過ごされたんじゃないかと思いました。自分のことも大切にするけど、周りのことも大切にしようよって、すごく難しいことだと思うので。

そうですね、大変でした。そこで一つ決めたのは、僕ら集団の長が責任を負うのもやめようということ。僕(理事長)や施設長たちも解決はできない。でも、いつでも対話しようよって。それで職員たちも、徐々に落ち着いたと思います。一方的に伝えても解決はしてくれないんだなって(笑)。

でも、お互いに聞き合う場をつくることは、みんな強く意識していたし、「それを前提としなければ必ず関係性に綻びが出るよ」、そのくらいの気持ちを持って、そこは共通理解として大事にしていこうというメッセージは伝えていましたね。


ー 一緒に考えよう、対話しようという時、“言う”というハードルは超えられるけど、“聞く”というスタンスで在ることって難しいですよね。

そうそう。出して終わりになっちゃうと、それはそれで居心地が良くない場所になっていくから、出したあとにそれをどう料理していくのかということまで大事にしました。

それは保育の中でもそうで、上町しぜんの国保育園だったら「ミーティング」、他のしぜんの国園だと「セッション」という形で、子どもたちとも一緒に話し合っています。

今回、自分たちも対話を何度も重ねてきたからこそ、今までだと「子どもたちが気持ちを出せる場所をつくるって、子どもたちが言っていることをなんとなく聞いて、取り入れればいいってことでしょ?」というくらいの理解だったのが、「本当のあなたの気持ちってなんだろう」というところまで聞き入っていく場をつくるんだ、ということに気づいた職員もいて。いいきっかけになったんだなと思います。


子どもたちと保育士のセッションの様子(提供:社会福祉法人東香会 渋谷東しぜんの国こども園) 



自分たちも分からない。

ー 保護者とのコミュニケーションで、工夫したこともあったのでしょうか。

東京都渋谷区にある渋谷東しぜんの国こども園は、2ヶ月間休園した期間があったのですが、保護者とも子どもとも全く会えない状況だったので、毎日担当者を決めて動画を配信していました。「毎日3食子どもに料理をすることに疲れちゃった」という声もあったので、園でお弁当をつくってそれを園の軒先で配布したり、カフェも併設しているので、ドリンクを取りにきてもらえるような日をつくったり。卒園児にも声をかけて顔を見せにきてもらえる日もつくりました。保護者からの動画も集めてみんなでシェアしたりしましたね。毎週土曜日はヨガ教室やって。それはいまでも続いています。


園で作り、家庭に配布したお弁当(提供:社会福祉法人東香会 渋谷東しぜんの国こども園)

あと、保護者とも一緒に考えることを大切にしました。渋谷園の年長児が東京都町田市のお寺に泊まりに行く「合宿」という活動があるんですが、どうやったらやれるのかというのを保護者の方とZoomで検討する会議をしたりもして。「自分たちも分からないので、「やります」とか「やりません」という判断を僕たちだけでするのではなく、一緒に考えたいです」と伝えましたね。


ー 「自分たちもわからない」というスタンスをきちんと取ることって、勇気がいるなと思うんです。保護者の中には、園が決めたことに従いますよと、こちらは子どもを預けている立場なんだから、園の方で決めてほしいという人がいてもおかしくない。それこそ、国からの指示を園が受け、園からの指示を家庭が受けるみたいな構造に、このコロナ禍はなりやすかったと感じています。

そう思います。僕らは、保護者とも議論を重ねていくほうが最終的にお互いの信頼度が増していくだろうということも思い、そのスタンスを決めたんですけど、指示してもらわないと困るという方たちもいらっしゃいました。でも、だからこそ僕らは僕らで未知の体験をしているんだということは、包み隠さず出していこうと思いましたね。わからないから、みんなで考えていきたいし、教えてくれる方がいたらぜひ教えてくださいと。


ー そういうコミュニケーションを取っていくことで、関係性にも変化はあったのでしょうか?

渋谷園の園長が、保護者の方から方針に理解できないというご意見をいただいたことがあったんですけど、後日、その方がお子さんのお迎えにいらした時に、「この前おっしゃっていたこと改めて考えたのですが、自分では理解しきれなかったので、もう一度教えて欲しいです」と伝えたり、「こんな手紙を配布しようと思っているのですが、どう思われますか?」と、自分から声をかけていたんです。そうしたら、その方も一緒に考えてくださって。その風景を見て、こういう風に少しずつ保護者とも仲間意識を築いていくことができるんだなと感じました。

日常を失って気づいた、大切なこと。

ー このコロナ禍で、いろんな変化があったと思います。その中で、大切にしたいと再認識したことがあれば教えてください。

休園を明け、保育園にきた子どもたちのキラキラした目を見た時に、保育園という場所が彼らにとってとても大切な場所なんだ、と改めて感じました。それは大人が何かを計画しているとか、整備しているということではなくて、子どもたちにとって園という環境自体が面白い場所であり、心地よい日常を過ごせる場所である、ということを再確認しました。


(提供:社会福祉法人東香会 渋谷東しぜんの国こども園 クレジット:白井祐介)

あとは、日常の暮らしというものへの有り難みを再確認できたかなぁ。出会いとか、食するとか、眠くなるとか、そういう基本的なことへの目の向け方が変わった気がしますね。それは保育でもそうなんですけど、個々人でもおなじだと思っていて、僕自身も体内にいれるものに向き合う時間を過ごしてきたし、そうやって大人自身が生活を変えていくことで、子どもへも大きな影響があったなぁと感じています。

ネガティブな話をするとしたら、やっぱりマスクをしながら保育するというのは大きな変化でした。保育学者の中には、「マスクをしていても、子どもに表情が伝わらないということはありません。大丈夫です」と発表されている方もいらっしゃいますけど、結果や影響なんて、子どもたちが大人になるまで分からないものだし、保育現場ではそんなことないと思っています。

それは、マスクをしている大人(保育者)を見て、子どもが相手の表情が分かるか分からないかということもありますが、マスクをしている大人が自分の表情についてあまり考えなくなるというのが危険だなと思うんです。喜びを感じながら保育しているとか、不安を抱えながら保育をしているとかって、子どもたちに伝わることじゃないですか。

保育中のマスクはした方がいいのか、しない方がいいのかという議論は、答えは出ないと思います。だって、まだ答えを出すまでの時間を僕らは持っていないですから。でも、「実際みんなどう思っているの?」と検討していくことが、とても重要なんじゃないかと思っています。


ー 紘良さんのお話を伺っていると、大人一人ひとりが起きていることについて考え、みんなで議論をし、自分たちなりの答えや今できるカタチを見つけてこられたんだろうなと感じます。そうすることで、守ることができた子どもの姿や日常がきっとたくさんあったんだろうなあ。

子どもたちの生活を乱すのは極力やめよう、ということは大事にしてきましたね。大人にとっては、たかが一日、一週間、一ヶ月、一年という期間だったとしても、子どもたちにとっては成長の一環を担っている時間ですから。その大切な日々を、彼らにとって良きものにするということは絶えず考え続けたいし、コロナ禍以前から最善を尽くしてきたことなので、そこはこれからも変えずにいきたいねと、職員と話をしてきました。


(提供:社会福祉法人東香会 渋谷東しぜんの国こども園 クレジット:白井祐介)

ー 最後に。まだ続くであろうこの状況下で、これからも大事にしたいこと、取り組みたいことがあれば教えてください。

コロナを機に、保護者の方たちと共振できる想いが増えたと感じました。それは、世界中の方たちとも同じことが言えるかもしれません。コロナという一つの大きな共通の経験を持つことができたからこそ、例えば、スペインの保育者たちと話すことになったとしたら、コロナという共通の話ができると思うんです。つまり、今まで同じ環境を共にしてきたことのない人や、共通の話題がなくて語り合えなかった人ともつながれるきっかけになるんじゃないかなと。だからこそ、より環境の異なる人と話をしたり、つながっていくということをコロナ禍以降には進めていきたいなと思っています。


インタビュー実施日:2021年2月12日


企画・編集:ほいくる編集部
取材・文:三輪 ひかり



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