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豪雨が起こした「まさか」の災害~第1回 わずかな高低差が浸水のリスクに~

新 幼児と保育
掲載日:2020/08/04
豪雨が起こした「まさか」の災害~第1回 わずかな高低差が浸水のリスクに~

近年、地球温暖化の影響もあり、ゲリラ豪雨や台風などにより日本全国で水害が多発しています。2015年の鬼怒川決壊では、水害には縁遠いと思われていた地域にも浸水被害が及びました。そんな地域のひとつ、茨城県常総市を鶴見大学短期大学部の天野珠路先生が訪問し、お話を聞きます。

第1回は「わずかな高低差が浸水のリスクに」。
常総市公立水海道第三保育所の稲見好枝所長に、「まさか」の園舎浸水についてうかがいました。

(この記事は、『新幼児と保育』2019年8/9月号に掲載されたものです)

レポートする人

天野珠路(あまのたまじ)先生

鶴見大学短期大学部教授。元厚生労働省保育指導専門官。映画『3.11その時、保育園は』(2011年岩波映像)監修。著書に『写真で紹介 園の避難訓練ガイド』(2017年かもがわ出版)、『3・4・5歳児の指導計画保育園編【改訂版】』(小学館)などがある。『新 幼児と保育』誌上で「災害への備え2020」連載中。

取材協力 稲見好枝先生 
茨城県常総市公立水海道第三保育所所長。


豪雨多発の日本で子どもを守る

わが国には大小たくさんの河川があり、日本国中網の目のように流れ、河口には大きな町が広がっています。人々は昔から川の水を利用し、水の恵みを生かしてきました。

しかし、一方で、川の氾濫や土砂災害などの災害も起こりやすく、水害対策がさまざまに講じられてきたといえます。日本はその地形により、川の長さは短いが流れが速い、降った雨が一気に流れ出るといった特徴があり、「治水」は重要な公共事業でもありました。

近年、地球温暖化の影響もあり、ゲリラ豪雨や台風などにより日本全国で水害が多発しています。堤防の決壊により町や家々が浸水し、豪雨による土石流なども起こっています。2018年の西日本豪雨では多くの方が亡くなられ、その後の台風や大雨の被害も大きいものがあります。

今回、取材にうかがった茨城県常総市では、2015年9月に水害(関東・東北豪雨)に見舞われました。常総市は鬼怒川と小貝川の間に挟まり発展した町で、町の中心は水海道地区です。川の町、水海道は鬼怒川の堤防決壊により道路は水路に変わり、川から遠いところまで広範囲にわたり浸水しました。わずかな傾斜であっても水は低いほう低いほうへと流れたのです。市役所や保育所なども水につかり復旧まで時間を要しました。

浸水し、最後まで水につかっていた、水海道第三保育所の沐浴室。


引き渡し直後に堤防決壊

公立水海道第三保育所は水海道地区の町中にあり、鬼怒川からは距離があります。
大雨が続く中、9月10日は通常どおり7時に保育を開始、71人が登所しました。当時主任だった稲見好枝所長は
「大雨特別警報が出たことは、市からの連絡で知りました。9時45分に市からの連絡で一斉降所が決まり、保護者への連絡に追われました」
と語ります。

市外で働く家庭が多く、すべての児童の引き渡しが終わったのは12時30分でした。
「避難所運営に提供するために、粉ミルクなどの物資を準備して市役所へ向かったのが15時前後です」

じつはその間に十数キロ先では鬼怒川の堤防が決壊していました。

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構成/清水洋美 
写真提供/常総市水海道第三保育所

 

 この記事の出典  『新 幼児と保育』について

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