汐見稔幸さんが提案する、「保育の質」に繋がる5つのヒント
3)今日は昨日の続き。明日は今日の続き。

最近の保育の流れとして、子どもを尊重しようというものがあるでしょう。
でも僕は、その流れを見ていて、「子どもを尊重すること」と、「子どもたちの遊びに保育者が関わらない」ということは違うんじゃないかと思うんですよね。
ーどういうことですか?
遊びが“やりっぱなし”になっているのでは、と感じるんです。
僕は、子ども達が本物の文化のなかで、自分探しの旅ができるようにするためにも、これからの保育は「やりっぱなし」「いつの間にか解散」というのはやめた方が良いと思っていて。
朝は「今日は何やるんだ」と子どもたちが計画したり、考えたりする時間をつくる。
夕方には、「今日けんちゃん、あそこでなに作ったの?」とかね、必ずみんなのやってきたことを共有するミーティングの時間をつくる。
そんな風にしていけるといいんじゃないかと考えています。
例えばね、ミーティングをすると…
ひなちゃん:「赤いお花がないか探したんだけど、見つからなかったの。」
保育者:「なんで赤いお花がほしいの?」
ひなちゃん:「赤いお花をいっぱい集めて使って、こんなの作りたいの!」
たいちゃん:「◯◯公園にあったよ」
ともくん:「じゃあ明日そこに取りに行ってみようよ」
というように、ビビビときた子がその遊びや活動に加わってくることが起きてくるんですよ。保育の中に繋がりができてくる。

今日は昨日の続き。明日は今日の続き、なんですよ。
だからこそ、「今日はなにするの?」「今日は何が面白かったの?」とみんなで共有する時間を、ぜひ作ってほしいなと思うんです。
4)「ミーティング」のススメ
みんなで集まって、子どもたちがやりたいことや考えを自分の言葉で話す時間を持つのが大切な理由って、他にもあってね。
例えば、トンカチの使い方とかでもそうだけど、人間って、最初は物をうまく使えなくても、何度も繰り返しやっていく中で「あ、できた!」って技を習得して、発達していくでしょう。
—はい。

でも実は、操作としてやったことって感覚的で、どうして使えるようになったのかっていうことを、本人は理解しきれてはいないということが多々あるんですよ。
それをね、「どうやって作ったの?」って他者から問われることで、やったことを振り返って順番を考えたり、なんでこれがこうなったのかっていう因果関係を考えたりするようになっていくんです。
—たしかに私自身も、他者に説明することで、自分がやったことを考えて、掴みなおすことってよくあります。
そう、それが大事で。
最初はうまく言語化して伝えられないんだけど、何度も繰り返すことでトンカチを使いこなせるようになったのと同じように、少しずつ、「トンカチを使うコツは、これで…」とか、「この作品はここをこだわって作ったんだよ」とか伝えられるようになっていくんだよね。
この、「考えて言語化する」という働きは、身体を使う時の脳とは完全に違う回路を使ってやっていることで、そのふたつが繋がった経験が、その子にとって本当の資質・能力になっていく、とぼくは考えています。
行動する、立ち止まる、考える。
行動する、立ち止まる、考える。
ミーティングは、そういう習慣を子どもたちのなかにつくるきっかけになるんじゃないかと思うんですよ。
ーなるほど。
立ち止まって考える時間が、「あ、わたしこういうことが好きだな」、「ぼく、こんなことしてみたい」と、子どもたちが自分自身で「自分探しの旅」を深めていくことにも繋がっていきそうですね。

5)より有意義な「自分探しの旅」へ

そうだね。
我々は子どもたちを誘い出すだけで、何をどうするか掴んでいくのは、子どもたち自身です。
だから、こんな面白い世界もある、あんな面白い世界もあるってことを、子どもたちがいろんなところで発見出来るように整えることを、保育のベースに持っていたいなと思います。
あと、もうひとつだけ言っていいとしたらね、「応援してあげる保育」も、ぜひやってほしい。
—応援してあげる保育、ですか?
子どもたちって経験もスキルも、少ないからすぐ諦めちゃうっていうことも起きやすいでしょう?
—たしかに。
だからね、「はなちゃん、ちょっとこれを使ってやてっみるのはどう?」とか、「あ、けんちゃん、これやろうとしてるんだ。それだったら、たろうくん上手だったよね」とちょっと会わせてみるとか。
そういう応援の仕方も保育のひとつとして、持っていてほしいなと思うんです。

子どもが何かに取り組み始めたときに、よーく観察して、もしすぐ諦めてしまったらどうしてなのかって考え続けて、そこを少し応援してあげる。
そんな丁寧さやキメの細やかさも、保育の質なんじゃないかなと思います。
子どもたちは、自分探しの旅をしている。
そう思うと自然と関わり方や見え方が変わってくるでしょう?
(前編はこちら)
「子どもたちは、自分探しの旅をしている」— 汐見稔幸さんが考える本当の“保育の質”とは
取材・執筆:三輪ひかり / 取材・編集:雨宮みなみ
あわせて読みたい書籍のご紹介

書籍:さあ、子どもたちの「未来」を話しませんか
著:汐見稔幸 / イラスト:おおえだけいこ
出版:小学館
この記事の連載
「子どもたちは、自分探しの旅をしている」— 汐見稔幸さんが考える本当の“保育の質”とは
この3法令の改定は、改めて保育者一人ひとりが、そして私たちほいくるが、自分たちの保育や子どもと向き合う姿勢、そして保育の質について考える機会でもあると思います。
そこで今回、改定にも大きく関わり、保育・幼児教育の第一人者でもある汐見稔幸さんにお話を伺うことにしました。
汐見稔幸先生へのインタビュー記事
「保育者や環境が変わると、子どもが変わる。」指針・要録改定から3年。汐見先生の感じた変化と今。
改定時にもインタビューをさせていただいた、保育・幼児教育の第一人者でもある汐見稔幸さんに、この3年間での保育現場の変化についてお話を伺うことにしました。
「そもそもなぜ?を議論しよう」ー 汐見稔幸さんと考える、これからの時代に大切になること
後編では、園や保育者はここからどう歩んでいくとよいのか、未来へ目を向けてお話を伺います。