わこう村で暮らす。ー 和光保育園(千葉県富津市) (前編)
今回訪れたのは、千葉県富津市にある“社会福祉法人 わこう村”が運営する「和光保育園」。
太陽に照らされる新緑、園舎の中を通り抜ける風。山に囲まれながら、のびのびと暮らす保育園、わこう村和光保育園。
「村づくりをしているんです。」
そう語ってくださった理由がわかるような空間、時間、暮らしが、そこにはありました。
わこう村和光保育園の暮らし
「今日は、遠いところありがとうございます。暑かったでしょう。」
温かな言葉と共に私たちを出迎えてくださったのは、今回お話を伺った園長の鈴木 秀弘さん。
秀弘さんに案内してもらいながら園内に入るとまず感じるのは、初めてきたのにホッと落ち着くということ。
「園舎は、四街道から譲り受けてきた築130年程の兵舎の食堂を移築して建てたものです。長い子で、一日12時間も過ごす生活の場なので、家庭の延長としての暮らしの場でありたいなと思っています。」
語ってくださった想いをたっぷりと感じる、園舎の造り。まるで田舎のおばあちゃんちに来ているような、そんな温かさを思い出す空間が広がります。
「給食室」ではなく「台所」、「給食」ではなく「お昼ごはん」と呼ぶ。一つひとつの物事を自分たちはどう捉えているのか、自分たちなりの言葉で丁寧に表現するのも、和光らしさ。
台所を抜けると大きな縁側廊下が。室内でも外でもない中間領域をたっぷりと用意し、子どもたちは好きなように空間を行き来する。風の通り道にもなっていて、とても気持ちがいい。
保育室に置いてある家具は基本的にどれも可動式で、季節や目的に合わせて環境を動かしていく。夏の暑い時期は、風が入ってくるように広く、冬場は箪笥を囲いにしてこたつを置いたりするのだそう。「目的に合わせて環境って動かしていいんだと子どもたちに暮らしながら感じてほしい」と秀弘さん。
0,1歳児の乳児棟は、大きな人たちの存在は感じながらも静かな生活環境を確保したい、との思いから別棟に建てられている。
縁側廊下とつながるように広がるのは、裏山へと続く園庭。
ままごと、山づくり、かけっこをする子がいると思えば、その横には座ってその様子を眺める子もいる。思い思いの場所で、思い思いに過ごすことが保証されているのが、和光の暮らし。和光の遊び。
私たちが伺った6月上旬は、山の枇杷が食べごろ。「一人○個まで」なんて大人の声は聞こえない。
涼しい場所を選んで、日陰でサッカー。
照りつける太陽に誘われて、誰からとなく洋服をぬぎ水と戯れ始める。
「台所から届く香りがだんだん空腹と混ざり合って、お昼ごはんがもうすぐ到来するってことを強く予感させてくるんです。そうすると、自然にと言ったらちょっと変なんですけど、いつの間にか遊びの潮が引いてごはんの潮が満ちてくるみたいなことが起き始めるんですよ。」
秀弘さんの言葉通り、お昼ごはんの号令や合図なく、それぞれに準備をはじめていく子どもたち。
縁側廊下でも、雑巾がけをしたり、台所と保育室を行ったり来たりする子が増えていき、その姿がまた他の子にごはんの時間の訪れを予感させます。
雑巾がけをする子もいれば、「よいしょよいしょ」とテーブルを運ぶ子も。
温かなごはんを食べてほしいという思いから、各保育室に一つずつ炊飯器を用意している。台所から大きな炊飯器を運ぶ子どもたち。
縁側廊下でごはん。各クラス(年齢)ごとに食べてはいるが、すぐ横に他のクラスの子がいて、みんなで食べていると感じる一体感がそこにはある。和光は大きなかぞくなんだ、と感じる瞬間。
わこう村の暮らし
自分で決める、自分たちでつくる
暮らしの中の小さなことから大きなことまで、一つひとつに意志がある。
前年度の3月に、子どもたち自身が何組になりたいか時間をたっぷりとかけて決める。今年は、もくば(0歳児)・おしゃべり(1歳児)・くだもの(2歳児)・くさ(3歳児)・おもち(4歳児)・けんきゅうじょ(5歳児)ぐみに決まった。0・1歳児の名前は、卒園児が決めてプレゼントしてくれる。
どのくらいなら食べられるだろう、どのくらい食べたいだろう、も自分で決める。
けんきゅうじょ組(5歳児)の暮らしの当番は、はじまった当初、誰がどの仕事をやるか決めずに行ったら当番が0人の日があったり、当日に誰がどの仕事をやるか決めようとしたら遊ぶ時間がなくなったりと、試行錯誤の連続だった。その中で、3日で担当が変わる当番制(取材当時)にみんなで決めたのだそう。
保育園ではなく村をつくる
保育をとじるのではなく、どうしたら保護者へ、地域へと開いていけるかを考え、法人名を「わこう村」とし、みんなでつくり続ける場であることを常に大切にしている。
有志の父親たちが集う「おやじの会」。毎年6月には砂場を掘り下げて手作りプールを造り、7月には「おやじが保育園を乗っ取る日」としてお泊まり会を企画・実施している。
わこう村にある、わこう窯も、富士見やぐら展望台も、おやじたちの手づくり。
和光保育園は園に全てを集めて完結し、地域の人たちの出番や子どもとの関わりを奪ってしまうのではなく、足らないからこそ周りの人に頼れることを大切にしている。写真は、柏の葉を近所のヤギシタさんにもらいに行ったところ。
おやじたちが造った「わいがや亭」。日中は子育て支援センター「もうひとつのお家」として活用しているが、地域のコモンズにしたいという思いから運営を独立していくために、レンタルスペースとして貸し出した利用料や、リサイクルのこども服を販売した売り上げを運営費にあてている。
じっくりとお話を伺ったインタビューは、中編・後編でお届けします。
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撮影:雨宮 みなみ
写真一部ご提供:社会福祉法人 わこう村 和光保育園
この記事の連載
「僕たちは心地よい暮らしの塩梅をつくっていく仲間」和光保育園の考える、暮らし人としての関係性と営み。(中編)
今回、取材前に園長の鈴木秀弘さんからこんなお話がありました。
「一番和光らしい時間が現れるのが10時30分頃~お昼までのあいだで、遊びの風景の中に、お昼っぽさが現れ、いつの間にか遊びの潮が引き、お昼の潮が満ちてくるような渚の時間です。子どもたちは、暮らしの流れに誘われるように自らの振る舞いを変化させていき、その振る舞い一つひとつが、また全体の暮らしの流れを創っていくんです。是非、子どもたちの暮らしの場に身を置き、その流れを感じ味わって頂ければ。」
たしかに、ここには時計の針では表すことのできない、穏やかに流れつづける時間がある。・・・たっぷりと和光の暮らし見学をさせてもらう中で感じたことを、園長の鈴木秀弘さんとお話しました。
和光保育園の暮らしから見えてきた、「命を輝かせる」つながり。(後編)
中編では、暮らしの中の子どもの姿から、どう「子ども」という存在を捉え、信じているのか、たっぷりとお話してくださった、園長の鈴木秀弘さん。
後編では、印象的だった和光保育園の大人のあり方から、さらにお話を伺っていきます。