保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「子どもたちには人生を楽しんでほしい」ー元気キッズ チルズ(埼玉県朝霞市)

三輪ひかり
掲載日:2024/08/02
「子どもたちには人生を楽しんでほしい」ー元気キッズ チルズ(埼玉県朝霞市)
今回訪れたのは、埼玉県朝霞市にある児童発達支援センター「元気キッズ チルズ」。
株式会社SHUHARIが運営する元気キッズグループの発達支援施設の一つで、地域の児童発達支援センターの役割も担っています。

“どんなGENKIもうけとめよう”ということをコンセプトに、アクティブな元気だけではなく、見た目には静かでも心に灯っている気持ちなども“元気”と総称してそれぞれの個性を大事にしていて、子どもが元気であるために、保護者の“元気”や、子どもと保護者を支える職員自身の“元気”も大事にしているのだそう。
その背景には、どんな想いや取り組みがあるのでしょうか。

施設の見学とインタビューを通して、たっぷりとお届けします。

元気キッズ チルズの役割

「おはようございまーす!」と明るくお迎えしてくださったのは、施設長の平野由美子さん。


元気キッズ チルズ施設長 平野由美子さん

さいしょに、元気キッズ チルズが地域のなかで担っている役割や発達支援の取り組みについて、丁寧に説明してくださいました。


ー チルズさんは、地域の児童発達支援センターとして「中核的な」役割を担っているとお聞きしました。具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?

昨年の10月から、朝霞市の児童発達支援センターの中核的役割を担っています。それまでも2022年6月の開所以降、朝霞市初の児童発達支援センターとして支援を行ってきましたが、行政から改めて業務委託を元気キッズチルズにご指名いただきました。

具体的な取り組みとしては、1つは近隣の朝霞市にある放課後等デイサービスや、児童発達支援、保育園、幼稚園、学童などが繋がるための情報収集やその共有を行っています。例えば「ここの施設はこういうことをやっているんだね、だからこんなところが特徴だね。」という情報を集約し、それを施設やご家族に共有しています。

お子さんの個性や発達の度合いはその子それぞれです。だからどのお子さんも、今通っている施設だけがその子に合っているとは限らないと思うんですよね。一つの施設で囲うのではなく、各施設がお互いのことをなんとなく把握していて、そのうえでお子さんにとって良いことや良い環境を分かり合えたら…ということで、横の繋がりを積極的に作っているんです。

また、保育園や学童に関しては、発達課題を持つお子さんへの対応に困っている施設も多いと聞くので、定期的な巡回(実際の施設やお子さんを見て、どのようにお子さんと関わったらいいのかアドバイスさせていただくもの)を望んでいるかアンケートをとり、希望がある園に巡回に行ったりもしています。

朝霞市のホームページにも障害児等療育支援事業の窓口として掲載されているので、「うちの子、気になるけれど誰に相談したら良いんだろう?」という保護者の方から相談をお受けすることもあります。


ー 発達支援施設としては、どんなことをされているのでしょう?

元気キッズでは様々な児童発達支援施設を運営していますが、大きく分けると保育園や幼稚園のようにお子さまをお預かりし生活の中でできることを増やす「保育型」と、すでに保育園や幼稚園などに通いながら集団生活をよりよく過ごすための支援を行う「PSC型」(Pre School Curriculum ペア指導型・保育所等訪問支援)があります。ここチルズは主に「保育型」を行っています。

朝から通所して、朝のあつまりのようなことをしたり日中の活動をしたりしてから昼食。午後にも少し活動し、保護者のお迎えというような流れで、保育園や幼稚園とそう遠くない生活の流れだと思います。
診断名がついているお子さんもいれば、保育園や幼稚園に通いながら週に1度ぐらいで通所しているお子さんもいて、言語聴覚士、作業療法士、心理士等の専門家と連携し、それぞれに合った療育をしています。

できることや、どんなときに苦手さを感じるのか、などを把握したうえでその子自身の「できた!」を積み重ね、苦手なことにも「ちょっとやってみようかな」とやる気になれるよう背中を押したり、人との良好な関係性を築きながら自分らしく生きていくためのアプローチをしたり。
子どもたちには人生を楽しんでほしいと思っているので、自分の個性との付き合い方を見つけたり、幼児期に「人のことがすき」と思えるようになってほしいなと思っています。

**

「実際に施設や子どもたちの様子を見てもらったほうがわかりやすいと思いますので、案内しますね。」と、じっくり施設内を案内してくださいました。

元気キッズ チルズの生活や環境

施設内は、園庭をぐるりと囲むように廊下が続いています。

日が差し込むあたたかさと、整理されたシンプルな空間、そしてどこからともなく聞こえる保育者と子どものやりとりの声が相まって、穏やかな空気が流れています。

廊下の先にある、天井の高いホールは、たくさんの窓から差し込む日の光をうけて開放的。
自分で動くことが難しい医療ケア児が楽しめるような玩具や遊具があり、看護師や保育者とともにゆっくり体を動かしてリハビリをしたり、一人ひとりの体調や気持ちに合わせて過ごしたりできる場所になっているそうです。

この日は二人の子がホールでそれぞれ過ごしていました。

クラスは、個々の特性にあわせて5つに分かれており、小集団で過ごしたり、個にあわせたサポートができる環境が作られています。


医療的ケアが必要な子どもたちも過ごすことができるようベットなどの設備がある。


細かい部分の理解が難しかったり苦手な体の動きが多い子どもたちが、ほかの子どもたちと小集団で過ごしている。


食事中のようす。子どもたちの発達や食べるペースに合わせて座る位置などを考慮している。保育者も一緒に食事をし「これ美味しいね」など和気あいあいとした雰囲気。

クラスとは別に、個室のような部屋が4つ。
保護者や専門家と面談をしたり、個別での支援の時間などに使っているのだそうです。


ちょうどこの日は言語聴覚士(ST)の先生がいらっしゃったので、室内をすこし見学させていただくことに。支援のなかで使われているものの一部を紹介してもらいました。


最後に必ず音がなるので「はじまり」と「おわり」が理解しやすく、集中して遊ぶことが難しいお子さんも繰り返し楽しんでいる。


高さ、色の違いなどをどんな風に認知しているのか、子どもの遊ぶ姿を見ながら知ることができる。


遊びながら自然と「つまむ」動作をできる。認知の側面では合わせることが苦手な子も「カチ」と入る感覚の気持ち良さを感じることができ、楽しみやすい。


本物だと認知しやすい子のために、より本物に近いものを見つけたり作ったりしてごっこ遊びのやり取りなどを楽しめるようにしている。子どもの成長に合わせて、ごっこ遊びで使うもののリアル感を変えているのだそう。

施設の真ん中に位置する園庭は地面がクッション性のあるやわらかい素材になっていて、転んだ時の痛みが軽減されるので、痛みに敏感な子も遊びやすい作りになっています。


さまざまな子どもの体の動きを考慮し、階段がない遊具が取り入れられている。


それぞれの特性にあわせて楽しめる2種類のブランコ。奥には砂場。


環境設定にまつわる工夫

玩具が見えていることで気が散ってしまう子もいるので、活動や子どもたちの様子に合わせて玩具が見える、見えない、どちらの環境も作れるようにしている。

パーティションで空間に仕切りを作ることで、視覚に必要以上の情報を入れず、落ち着いて活動に取り組めるよう配慮されている。


気分や状況により(脳に刺激を必要として)頭を壁に打ち付ける子のために用意されたマット。いつでも壁に立てかけられるようにしている。

身体を支える工夫

上半身の筋力が弱く姿勢が崩れてしまう子のために、おしりの位置がズレにくいよう椅子に敷かれた滑り止めマット。

足が浮いてしまうと座るバランスを保ちづらくなるので、足が浮かず無理なく座っていられるように配慮された足置き。足に少し刺激がある方が落ち着いて過ごせる、という感覚の子にも。

(ダウン症のお子さんなど)全身の筋力が弱い子でも、椅子に座りやすいように配慮された支えを作っている。


視覚的な工夫

水分補給をした後、コップを片付ける位置が分かるようにテーブルにテープが貼られている。

その日に楽しめる玩具が可視化されているボード。

手を洗う際、その加減を分かりやすくするためのバイキンの形をした紙石鹸。(こすると、バイキンの石鹸が泡になって消える)

運動機能の発達に繋がる遊び

空き容器に、塩とクレヨンを入れたもの。手に持ち振る動きをすると、塩に色がつく。

キャップの開け閉めができる手作りの玩具。容器に重みがあるので、開け閉めがしやすくなっている。

施設内のいろいろな場所で、「この子にとってはこんな風にしてみるのがいいのでは…?」という一人ひとりへの想いが詰まった、保育者と発達の専門家の両方がいるからこその工夫に触れました。

じっくりとお話を伺ったインタビューは、後編でお届けします。

***

撮影:雨宮 みなみ

この記事の連載

「自由は自由じゃないこともある」元気キッズチルズの子ども理解と眼差し。

「自由は自由じゃないこともある」元気キッズチルズの子ども理解と眼差し。

埼玉県朝霞市にある保育型 発達支援センター「元気キッズ チルズ」。

前編では、元気キッズ チルズの生活や環境の工夫を中心にお届けしました。

後編では、元気キッズ チルズの保育はどんな想いから成り立っているのか、施設長の平野由美子さんと保育士の丸山菜月さんのお話をお届けします。