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図鑑ってどう見たり使ったりするのがいい?ー 図鑑編集者に教わる、図鑑の楽しみ方。

三輪ひかり
掲載日:2024/07/16
図鑑ってどう見たり使ったりするのがいい?ー 図鑑編集者に教わる、図鑑の楽しみ方。

子どもたちにとって身近な本の一つである「図鑑」を制作する、小学館図鑑編集部の廣野さんへのインタビュー。前編では、図鑑がどのように作られているのかお話いただきました。 後編では、ほいくる編集部が疑問に思っていた「子どもと図鑑」について質問にお答えいただきました!

図鑑ってどう使う?どう調べる?

ー 「この昆虫や植物ってなんだろう?」と子どもが疑問に思った時に、じゃあ図鑑で調べてみようという場面が保育の中でよくあります。でも、いざ図鑑を手に取ったら、結局目当ての昆虫に行き着かない…実際どれが正解なのかわからない…ということも結構あって。図鑑を見るポイントやこういうふうに調べるといいよという方法があれば、ぜひ教えてください。

図鑑は情報量も多いですし、探すのが難しいですよね。でも実は最初の見開きのページなどに調べ方のヒントが書いてあるんですよ。例えば昆虫に関する図鑑だと、羽があるかないかなど体の特徴で分類がしてあるので、それに沿って調べたい昆虫が載っていそうなページをまず絞ることができるんです。

それでも、そこから目当ての昆虫を探すのは難しい。正直言うと僕も自分がつくった『イモムシケムシ』に載っている幼虫でも、同定(種を確定すること)できないものがいたりしますよ。本当に微妙な細かいところの違いしかない種もいたりするので。

でも、本のいいところってめくることができることだと思うんです。人間の目って結構優れているので、こうやってめくっていって近しい形のところでページをとめることができるんですよ。 そこからは1ページずつさらにめくっていって、「これかも」というのを見つけていくのがいいのかなと思いますね。

ー 子どもが「見つけた!これだ!」と指差しながら見せてくれた昆虫に「インドネシアにのみ生息」とキャプションが載っているなんてこともよくあったりするんです(笑)。でも、「これじゃないよ」とするより「これだったらいいね」としたいなと思うんですよね。正解を見つけるということよりも、子どもが「見つけられた!わかった!」と発見した時の喜びや、次に繋がる好奇心みたいなものが大事かなと。

それでいいと思います。大体この辺りの仲間というのが当たっていれば、それでよしとして全然いいと僕も思いますね。

でも、お子さんの観察眼って本当に鋭くて、大人はもうざっくりとしか頭に入っていないような細かな模様や特徴なんかも判別していると思うんですよね。 というのも、いろんな読者の方からお手紙をいただくことがあるんですけど、以前、奄美大島に住んでいる男の子から、「北海道〜屋久島にしかいないと書かれていたゴマフボクトウの成虫が奄美大島にいました」とお手紙をいただいたことがあって。改めて調べ直したら、たしかに奄美大島に生息することがわかった、という出来事がありました。そのお子さんには、「ありがとうございます。次の重版で、奄美大島までに変更します」とお返事をだしました。

いつ図鑑を手に取るのがいい?

ー 子どもたちと過ごしていると、調べたいことや興味があることがある時に図鑑を手に取るだけでなく、日頃から絵本と同じように読んだり、眺めたりする姿がよく見られます。そんな子どもたちの姿から、実物との出会いが先でも、図鑑での出会いが先でも、どちらのタイミングにもそれぞれの良さがあるんだなと感じています。

そうですね。好きなものが何かはっきりしているお子さんは、大人から働きかけなくてもいいと思うんです。例えば、昆虫が好きなお子さんがいて、虫探しをしては昆虫図鑑を眺めてという姿があったりすると思うんですけど、どこかで虫のことだけを知っていてもダメというタイミングがくるんですよね。というのも、虫を見つけるためには、どの植物を食べているのかとかどういう場所に好んで生息しているのかを知る必要があって、そうすると今度は植物や木の図鑑を見ようと自然と広がっていく。

あとは、ひょっとしたら恐竜好きのお子さんのなかには恐竜図鑑ばかりいろんな出版社が出しているものを全部買うというお子さんもいるかもしれませんが、それはそれでいいと思うんですよね。監修者の先生によって意見が異なったりもするので、どちらかが間違っているということではなくて、「そういう説もあるんだ。どっちなんだろう?」と考えていくのも面白いと思います。

特に一つのことにまだ興味や関心がないというお子さんに関しては、『くらべる図鑑』のようにジャンルを横断したようなものもオススメです。手に取っていただいて、例えば 「クジラってこんなに大きいんだ。他にはどんな種類のクジラがいるのかな」と思ったら動物図鑑を見てみるのがいいのかなと思います。


ー 図鑑を与える側の大人に心がけてほしいことはありますか?

図鑑の楽しみ方は人それぞれ。お気に入りの図鑑があってそれがボロボロになるまで読むのもいいし、めくったところや目についたものを読むのも、調べるのに使うのも、読み方はなんでもいいと思うので、その子の好きなように楽しませてあげてほしいなと思います。

あとは、虫が嫌いでも「私は虫が嫌いだから、読んじゃダメ!」と言っちゃダメです。お子さんが「見て見て!」と図鑑を一緒に見ようと誘ってくることもあると思うんですけど、その時に「やだ、見たくない」とは言わないでほしいですね。それで、子どもも虫が嫌いになったり、興味を失ったりすることもあると思うので。

「好きなことは好きでいい」

ー 最後に、図鑑を手にとる子どもたちにメッセージがあればお聞かせください。

「好きなことは好き」を貫いてほしいなと思います。好きなことは好きなままでいいし、 人と違ってもいいし、周りに合わせなくてもいい。

生きていくといろんなことがあると思います。色々大変なこともあると思う。でも、好きなものは好きで居続けると、もしかしたらそれを同じように好きな友だちができるかもしれないし、それが職業になることもあるし、趣味としてやっていても人生が豊かになる気がするんです。

だから、自信を持って好きなことを好きなままで生きてほしいなと思います。

プロフィール
廣野篤(ひろのあつし)
小学館 第三児童学習局 図鑑 室長。1996年入社。制作局(印刷・製本など、製造の手配など)を経て、2002年「図鑑」に異動。『くらべる図鑑』『もっとくらべる図鑑』のほか、『分解する図鑑』『乗りもの』『飼育と観察』『地球』『イモムシとケムシ』『鉄道』などの図鑑も編集。自分自身で写真や動画の撮影をすることもあり、天気がよければ出社せずに、フィールドにいます。

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撮影:雨宮 みなみ

この記事の連載

「図鑑のつくりかた」を小学館図鑑編集者に聞いてみました!

「図鑑のつくりかた」を小学館図鑑編集者に聞いてみました!

子どもたちにとって、身近な本の一つである「図鑑」。
保育をする中でも、子どもたち一人ひとりの「知りたい」や「好き」を支える、大切なアイテムだと思います。

今回はそんな図鑑を制作する小学館図鑑編集部の廣野さんにたっぷりとお話をお伺いします!