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幼児期デッサンのすすめ〜観察を深める描画〜

田中 令
掲載日:2024/01/11
幼児期デッサンのすすめ〜観察を深める描画〜
あけましておめでとうございます◎
昨年は、「感覚であそぶ」アートを紹介してきました。色彩、線、質感などなど、感覚を思いっきり使って楽しんでいただけたら嬉しいです。

そして・・・
今回は、少しアカデミックなアート「デッサン」に挑戦します!

「デッサン」とは

デッサンはフランス語。直訳では「素描」「下絵」となりますが、現代では絵全般を指すこともあるようです。
日本では、鉛筆や木炭で本物そっくりに描き込まれた絵、美大生が受験で描く絵をイメージする方が多いのではないでしょうか。
さらに、「ものの本質を捉える能力」という、哲学的な意味を持つ言葉でもあります。この意味から発展し、デッサンは美術家にとって、絵を描く基本とも考えられています。

このように、たくさんの意味をもつデッサンですが、今回はこどもたち版にアレンジし「実物をよーーーーーく観察し、感じたことを全て描く絵」とします!

使うもの

・画用紙(A4程度/人数より多めに用意してください)
・クレヨン or 色鉛筆 or 鉛筆(下で詳しく説明します)
・モチーフ(下で詳しく説明します)
・コピー用紙(モチーフの数分)

準備

<描画材の特徴>

下記の特徴を参考に、こどもたちの様子に合わせて選んでみてください。

・クレヨン
圧が弱い子におすすめ。

・色鉛筆
細かい描写がしやすく、色で捉える子、絵が小さくなりがちな子におすすめ。色数が多いと、より楽しめます。

・鉛筆
色どりを白〜黒のトーンに置き換える、モノクロの絵になるので上級者向き!

<モチーフの選び方>

モチーフとは、絵の題材、描かれるもののこと。
初挑戦の場合は、シンプルだけど色彩が豊かで、形におもしろさがある自然物がおすすめ。
また、1人1人が触ったり、近距離で観察できるよう、こどもたちの人数分用意できるものがよいです。具体的には季節の果物、葉っぱや木の実などが準備しやすいかなと思います。
複数回目の場合は、お部屋にあるおもちゃや、鬼のお面などの季節の飾り、直線的なものや細部描写が複雑になるモチーフにも、ぜひ挑戦してみてください。
こどもたちが自ら描きたいものを選べると、やる気もアップします!

遊び方

1.  観察タイム!
最初はしっかりモチーフを見る時間。長い!と感じるかもしれませんが、5分以上は観察タイムを設けてください。

どんな色をしてるかな?
どんな形をしてるかな?
似てる形はまる?さんかく?しかく?
同じくらいの重さのものはあるかな?
どんなにおいがする?

触ったり嗅いだり、近くから見たり遠くから見たり。五感を使って、じっくりたっぷりインプットしてください。

2.  モチーフをセッティング
1人1つモチーフがある場合は、自分の近くに好きな向きで置きます。
複数人でシェアする場合は、グループの中心に置きます。この時、白いコピー用紙の上にモチーフを置くと、影がきれいに見えます。

3.  デッサンスタート!
大事なことは「見えたものはぜーーーんぶ描くこと」。観察タイムで見えたこと、感じたことをどんどん描こう!
途中でわからなくなったら、何度でも観察タイムを挟んでください。(モチーフをグループでシェアする場合は、動かさないようにしましょう)
こころゆくまで描いたら、完成です◎

まだまだ描きたい!と言う子は、違うモチーフに挑戦しましょう。

大人の寄り添いについて

その1:絵の完成度より、発見が大事!

写実的に描くとなると、つい気になってしまうのが絵の完成度。
「本物に似ているかな」「もっとたくさん描き込んでほしいな」「りんごは赤で塗って欲しいな」いろんな思いが出てきてしまいますが・・・それらを全て手放しましょう!繰り返しになりますが、一番大切なのは「よーく観察すること」です。

こどもたちがモチーフから何を感じるか、大人は全力で耳を傾けてください。
きっとわたしたち大人が感じ取れない、新しい発見や、みずみずしいイメージが出てくるはずです。

その2:評価ではなく質問を!一緒に探求しよう。

その1と少し重なりますが、「うまいか/へたか」は一度手放しましょう。
ついついこどもたちを認めたくて「じょうずだねー!」と言ってしまうのですが、それもぐっと我慢!写実的な絵を描くことが目的ではないので、絵がうまくなるためのアドバイスも一旦不要です。(それも「大人自身が良いと思う絵」「大人がみたモチーフの発見」でしかないのです)

今回は、大人も一緒に探求を楽しむ姿勢で「何が見えた?」「どうなってる?」「何色が見えた?」と質問を重ねたり、こどもたちの絵に現れる発見を一緒に感じ取ってみてください。
「うまいね」と言われなくても、大人が一緒に探求する姿勢はきっと、こどもたちの喜びになります。

その3:手が止まってしまう子のフォローポイント

こどもたちに任せると言っても、手が止まってしまう子はいますよね。
そんな時、おすすめの寄り添い方をいくつか紹介します。

(1) まずは言葉で表現してみよう!
絵に描けなくてもいいので、モチーフについて発見したことを聞いてみてください。
言葉でも出にくい子には「what」より、「which」で聞くと、答えを出しやすくなります。
「私は〜と思ったんだけど、あなたはどう?」と、先生の発見をきっかけに聞いてみるのも良いと思います。

(2) 選択肢を具体的にしてみよう!
(1)の発見を表現するために、選択肢を提案します。
色がそっくりな色鉛筆はどれ?
まるさんかくしかく、どのかたちが近いと思う?
ここはどんな形の模様かな?
見たこと感じたことを紙の上に表わすために、色・かたち、それぞれそっくりさんを探します。

(3) 発見をたくさんしている絵=素敵な絵
「発見を全部描く」というのは、こどもたちにとっても大変でめんどくさいもの。
でも、ここで妥協してはもったいない!
たくさんの発見が描いてある絵はとっても素敵だよ、と伝えてみてください。
こどもたちのやる気に着火〜!

こちらはどんぐりを描く子。
大人の想定を、はるかに超えた発見をしています。


***

デッサンは私にとっても、とても思い出深い表現です。
おそらく多くの美大生がそうであるように、受験生時代にかなりの枚数を描きました。数年間にわたり枚数を重ねることで、写実的な絵の技術は向上し、いわゆる「うまい絵」が描けるようになっていきました。(途中、何度も挫折を味わいましたが^^;)
でも、それだけではありません。
デッサンから得た一番の学びは「見る力」で、それは今でも自分にとって大切なものです。

人は、たとえ視界に入っていたとしても、認知できるものしか見ることができません。わたしたちは意識しないでいると、たくさんのことを見逃してしまうのです。逆に言えば、この世界には、見ようとすれば見えてくるものがたくさんあるのです。

こどもたちは、この世界を大人以上に豊かな感性で認知していると思います。社会のルール、こうあるべき、常識や効率...そういったものを持ち始めた大人が自然に見えなくなってしまったものを、純粋な眼差しで見ています。(だから、こどもたちの表現はおもしろい!)
だからこそ、観察を深め、たくさんの発見をもたらしてくれる「デッサン」を、ぜひこどもたちと一緒に楽しんでみてください。

自分の見ている世界、こどもたちひとりひとりが見ている世界の違いが現れ、とーーーってもおもしろいと思います!

★実際に、今回の活動を保育園で行ったようすを考察とあわせてnoteに書いています。よかったら参考にしてみてください。
note:幼児期のデッサンのススメ