保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「想像の深さ」〜造形あそびとこどもたち Vol.9〜

矢生秀仁
掲載日:2023/12/08
「想像の深さ」〜造形あそびとこどもたち Vol.9〜
今月も皆さんと一緒に造形活動の子どもたちの姿から、こども観について深めていければと思います。

今回注目したいのは、子どもたちの想像力の「深さ」です。

2023年度からスタートした、連載コラム「造形あそびとこどもたち」。
造形の時間を通して出会った子どもたちの姿から、その奥にある子どもの世界を覗いていきます。

今回出会ったのは…


想像の深さ

想像力というと「想像が豊か」などと表現されることが多いですよね。
しかし、子どもたちの遊びの姿を見ていると、「想像が豊か」という以上に「想像が深い」という表現がしっくりくるように思っています。 というのは、子どもたちというのは、大人が驚くほど、自分たちの想像の世界にぐぐっと入り込むことができるからです。

今回は、僕が日々の実践で、子どもたちの想像の深さを実感させてもらう中から、三つのエピソードを紹介したいと思います。


一つ目は、あるこども園で、お絵描きのワークショップをやっていた時のことです。 
何人かの子たちが 画用紙にたくさんクレヨンで青を塗ってプールを作りました。そこで、僕も自分の分身のペープサートで、「ひでちゃんもプール一緒に入れてくださいな。ザブーン。」と遊びに入らせてもらおうと思ったら、その瞬間、ユキちゃんが言いました。

「ひでちゃん、服着たままじゃ濡れちゃうよ。」 

一瞬、「ん?」と考えて、ハッと気づきました。僕が作ったペープサートは、服を着ていたのです。その服を着ているまま 水の中に入ったら、服が濡れちゃうところまで想像したのですね。「あ、 ほんとだね。ありがとう。」と言って、急いで海水パンツバージョンを作り直しました。

そうして(ペープサートが)プールに入っていたらまたユウちゃんが、来ました。

「はい。これ、せんたっきとせんざいだよ。さっきのぬれちゃったやつ、これでせんたくしとくからね。」

と言って洗濯機と洗剤の絵を描いてきました。ユウちゃんの頭の中では、濡れた服をそのあとどうするかまで浮かんでいたのですね。こんな風に想像世界に入り込むユウちゃんの深さにハッとしたのでした。


また、別の保育園でのこと。
この園には、僕が作家として描かせてもらった壁画があり、その壁画をテーマにして通年でワークショップをさせてもらっていました。そこで、壁画に描いた洞窟の「洞窟探検」をテーマに造形遊びをした時のことです。 

探検にいく準備として、紙コップに好きな色の折り紙を貼ってヘッドライトを作ったのですが、みんな思い思いの色でヘッドライトを作る中、シンくんは、頭の前と後、両方にライトをつけて見せにきてくれました。

「ぼくもライトできたよ!」

「おお、前後ダブルでつけたんだね。後ろは、どうしてつけたの?」と聞くと、シンくん。「そんなこともわからないの?」とでも言いたそうな顔で、

「ぼくたちが これから ぼうけんに いくのは まっくらな どうくつなんだよ!うしろも てらしておかないと あぶないでしょ!」

と即答。
彼の想像している洞窟の中は、入り口の光が届かないほどに深く、真っ暗闇を想像しているのでした。それがわかると、僕はどれだけ入り口手前にいたのだろうと。半ば悔しくなるくらいに、シンくんの想像の深さに感動したのでした。


三つ目は、色紙や空き箱で街づくりをして遊んだ時のことです。
ワークショップが終了して、帰り際、ある男の子が作った動物園を見せてもらい、「どうもありがとう」と言って、僕がその場を離れようとしたら言われました。

「しっかり もん しめといてね。よるに にげだしちゃうと いけないから。」

彼は、自分の作った動物たちが、動物園の門をしっかり閉めておかないと、自分たちが家に帰った後、夜にこの箱の中から逃げ出してしまうかもしれない。そんなふうに想像を巡らせたのでしょう。
「ごめんごめん」そういって、丁寧に門をしめ、帰りました。


いかがでしょうか。
きっと、皆さんも日頃、子どもたちの想像力に感動する場面がたくさんあることと思います。


子どもたちと造形活動をしていると、ついつい「どんな工夫をしたか」とか、「どんなふうに上手に作れたか」とか、 目先の完成度や方法に意識がいきがちです。ですが、 幼児期の子どもたちの本当の魅力は、そこではありません。

大人の僕たちが悔しくなるくらい、豊かで、そして深く、想像世界に入り込んでいく子どもたちの姿。 造形活動の中で大切にしたいですよね。


明日も子どもたちと益々楽しい1日になりますように。