「乱暴な行動と本心」〜造形あそびとこどもたち Vol.11〜
今回注目する姿は、 周りの友達や保育者に攻撃的なふるまいをする子について。
2023年度からスタートした、連載コラム「造形あそびとこどもたち」。
造形の時間を通して出会った子どもたちの姿から、その奥にある子どもの世界を覗いていきます。
今回出会ったのは…
乱暴な行動と本心
ある保育園の5歳クラスで、絵を描いて遊んでいた時のことです。
こどもたちはそれぞれ好きな絵を描いて、それをつなげて道にしたり街にしたりして遊んでいたのですが、ケイスケくんは「つまんなそう。ぼくやーらない。」と言って参加しませんでした。そして、しばらくすると、「ほら、先生の壊れちゃったよ〜。ははは〜。」と、僕が導入の時に作った見本を壊したのでした。
僕は、「ケイスケくん。それは、先生も悲しいよ。他人の作ったものを壊したり、いじわるなこと言ったりするのは、やめよう。」と静かに言いました。そして、言いながら、ケイスケくんの乱暴なふるまいの本心を考えていました。
なぜ、ケイスケくんは、こんなふうに周りに攻撃的なのだろう?
絵を描くのが嫌なのかな?
それとも、遊び以前に何か嫌なことがあったのかな?
睡眠はたりているかな?
お腹はすいてないかな?
お家のようすはどうだろう?
色々と巡らせながら、まずは、最初に浮かんだ「絵を描くのが嫌なのかな?」という問いを素直に聞いてみました。
「ケイスケくん、今日みたいな遊び好きじゃない?」
「うん。ぼく、絵描くの好きじゃないから。」
「そっか。そしたらお絵描きしないで好きな遊びしてていいよ。」
「え、いいの?」
「もちろん。あとは、ひでちゃんもいるからさ。お絵描きじゃなくて、工作で一緒に作るのもありだよ?のりものとか、どうぶつとか・・」
そう言うと、
「ぼく、ひこうきつくりたい。でもどうすればいいかわからないよ。」
自分の引き出しだけでは作り方が浮かばないようだったので、さらに提案しました。
「じゃあ、ひでちゃん、今日の材料で簡単に作れる飛行機の作り方あるから、一緒にやってみる?」
「うん。やりたい。」
こうして飛行機作りを始めました。
飛行機の作り方は、画用紙を一回ずつ折って、ひろげて土台を作り、そこに好きな形に切った画用紙を貼ると翼になるという簡単なもの(チョキチョキひこうき)でした。
はじめに僕が、フリーハンドで画用紙をランダムに切ると、ケイスケくんは、いきなりはさみで切らずに、まず画用紙に線を描きました。
なんの線だろう?
そう思いながらみていると、今度は、その線の隣に矢印を描きました。
なんの矢印だろう?
また考えていると、ケイスケくんが、得意そうに教えてくれました。
「ほら!ここをきるってまちがえないように、やじるし、かいたよ!」
その瞬間に、いかにケイスケくんが作ることに慎重になっているか、そして失敗をしないように意識しているかが見えてきたのでした。
そこで、「なるほどね。」とケイスケくんのひらめきを受け止めつつ、「まあさ、工作は時々まがったり、はみでたりするのも、それはそれでいいと思うよ〜。」と言いました。
僕のこの一言で、ケイスケくんがどうなるということはありませんが、少しでもケイスケくんの“ねばならない”という意識が軽くなるといいなぁと思いながら伝えました。
こんなやりとりをしながら、ケイスケくんは自分でどんどん作っていき、ひこうきが完成しました。
「お〜!できた〜!」嬉しそうに、飛行機をかかげて、うっとりするケイスケくん。
すると、「そうだ!」と言って、小さい画用紙に、最初は「嫌だ」と言っていた絵を描き始めました。そしてしばらくすると、「できたー!イェイイェイイェイ!」と言いながら、その絵をピョンピョンジャンプさせて、飛行機にのせました。描いたのは、飛行機のパイロットでした。
ケイスケくんの絵は、他の子の絵よりも、少し拙い線でした。
その絵をみて、最初の乱暴なふるまいの理由が見えたように思いました。
きっとケイスケくんは、自信がなかったのでしょう。自分の絵に。そして、その自信のなさが、弱気ではなく、「攻撃」という形で現れていたのでしょう。それが、少し自信を取り戻したようでした。
よかったねぇ、ケイスケくん。
その嬉しそうな姿に、僕も心の中で喜んでいると、さらに「ひでちゃんも、人つくったら?ぼくみたいに!ほら!」と、今度は僕にも勧めてきました。
「ぼくみたいに」。
なんて素敵なんだろう。
ケイスケくんの溢れる自信はとまりません。今度は、自分のひこうきを誇らしそうに、隣にいた友達にみせました。しかし、「・・・」ソウくんは自分の絵に夢中になっていて、ケイスケくんの言葉に反応しませんでした。すると、ソウくんが真剣に作っている姿をみてケイスケくんが言いました。
「ソウくんもかっこいいよ〜!」
ソウくんをほめたのでした。しかも、「も」がついてるんです。
その「も」に込められている思いは、
ぼくもかっこいい。
ケイスケくんの自信を取り戻す姿に感動した、造形活動の場面でした。
こどもが、周りの友達に否定的なことを言ったり、攻撃的な振る舞いをした時、その行動自体を注意することは、大切なことだと思います。
しかし、なぜその子がその行動をとったのか。
その気持ちにまで寄り添うと、不安だったり、自信がなかったり、そうした思いが乱暴な行動という形で表れていることが少なくありません。
ですから、こどもたちの乱暴な行動をする時というのは、「注意をする」という表面的な関わりだけでなく、なぜその子がそんな振る舞いをするのかを考えながら、その子の不安や自信のなさがやわらぐような、そして、ほっと安心するような関わりや遊びの展開をサポートしてあげられたらと思います。
明日もこどもたちと益々楽しい1日になりますように。