「子どもたちの豊かな土壌を耕す場でありたい」ー もあなキッズ自然楽校 (神奈川県)
神奈川県の豊かな里山緑道の自然を舞台に、子どもたちの「生きる力」を育む保育園を運営する、NPO法人もあなキッズ自然楽校。
前編では、もあなキッズ自然楽校が取り組む「100年先を見つめる保育園プロジェクト」について、代表の関山隆一さんにお話を伺いました。
後編では、もあなキッズ自然楽校が運営する保育園がよく遊びにでかけるという緑道を歩きながら、保育についてたっぷりと語っていただきました。
都会にある自然環境の中で保育をする
今、僕たちが歩いているのは、この辺りにある2つの自然公園を繋いでいる緑道なんです。もともと雑木林だったところを都市化した時に、まちづくりの一環として作られたそうで、これが周囲13キロもある。ここのビオトープにはザリガニやヤゴなども結構いるんですよ。
都市公園がすごくいいのは、実のなるものから花が咲くものまで、さまざまな木々が植えられていること。今は金木犀の花が香っていますけど、春にはたんぽぽやつくしがたくさん咲いたりもして。「今日はピクニック広場で遊ぼう」と決めていたのにそこにたどり着く前にお昼の時間になっちゃう、なんてこともよくあります。
そういう子どもたちの姿を見ていると、大自然の中でなくても季節に合わせて豊かな資源に出合えるということを、改めて実感します。保育者たちも、「ここにこんなものがあったよ」「どんぐりが落ち始めました」とか互いにシェアしながら保育をしています。
ー ホームページに「森のようちえん」とあって、「どうやってこの都会で?」と思っていたのですが、この緑道にきて納得しました。
毎日来ていても、毎日違う発見があるんですよね。子どもたちは外へでかけると、お昼になってもなかなか帰りたがらないほどで、3〜5歳児は週に2回、外でお昼ごはんを食べているんです。そうすると遊びがぐっと深まるし、子どもたちの行動範囲も広がります。
外でお昼ごはんを食べる日は、食べる時間もバラバラなんですよ。お母さんが朝作ってくれたおにぎりのことしか頭になくて、着いてすぐ食べ始める子もいれば、逆に、「今日はこれをする!」とやりたいことが決まっていて、13時すぎにようやく食べる子もいたりします。
あと、電車に乗ってプレーパークにもよく出かけます。都会っていいですよね、電車に乗れば行きたいと思ったところにすぐ行ける。
何か特別な体験をするよりも大切な日常
ー 子どもたちと過ごす日々の中で、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
ついこの間、5歳児の子どもたちが幼虫を見つけて観察していたんだけど、保育者の一人がそれに気づかないでその虫を踏んじゃったことがあったんです。保育者はすぐ「本当にごめん!」と謝ったけど、子どもたち怒るかなー・・・と思ったら、誰一人それを咎めなかった。なんだよーとか、なにするんだよーとかも言わないんですよ。そのあと、死んでしまった幼虫をみんなで埋めてお墓もつくって。
子どもたちで助け合うシーンは日常の中でもよくあるんです。坂を登る時に手を貸したり、困っている人に対して声をかけたり。でも、虫への気遣いと保育者を咎めない人間味溢れる姿に、改めて子どもたちすごいなぁって。
「子どもの居場所をつくろう」という思いから、2007年に小学生の放課後の学童クラブと保育園をスタートして、そこからずっと子どもに感動しっぱなしです。特に、保育園の子どもたちには、「こんなに人間って成長するんだな」って。というのも、子どもに関わる仕事をしようと決めて、保育園を始める前に親子向けの自然体験のイベントを開催したりしていたんですけど、たまにあるイベントごとと、毎日子どもの生活の場としてある保育とでは、子どもの姿は全然違うんですよね。
ーどんな違いを感じるのでしょう?
特に、成長するという面で違いを感じますね。保育はその日限りではないから、子どもが自分でハードル設計したことに対して、できないまま、ということがないじゃないですか。
ー 必要な時間はその子によって違うので、今日できるようになる子もいれば、一週間後、一ヶ月後、一年後にできるようになったりすることもあるけれど、“その子にとって必要な時間”がたっぷりと保証されていますもんね。
そうなんです。そういう子どもの姿から、何か特別な体験をするよりも日常がすごく大切だと思うようになりました。
楽しいと思ってやっていれば、子どもたちはそれに憧れる
ー 日々、子どもたちと関わる上で大切にしていることはありますか?
僕、「してあげる」という言葉が嫌いで。読み聞かせをしてあげるとか、子どもに〇〇をしてあげるとか、そういう関わり方はしないようにしています。
うちの園は、お楽しみ会という催しがあるんですけど、それをやるかやらないかは毎年大人によるんですよ。毎年必ずやるものでも、子どものためにやってあげるものでもない。僕は、そのお楽しみ会の中でバンドをやったりするんだけど、それも自分がやりたいから。子どもたちに聞かせてあげようという気持ちではなくて、自分が楽しいと思っていることに対して、子どもたちに伝染していく感じ。ぼくがブルーハーツ歌ったら、子どもたちがずっと「リンダリンダー!」って言ってるんですよ。
でも、そういうことですよね。かっこいいじゃなくても、面白いとか、惹きつけられるものに子どもって感染する。たとえば、ブレイクダンスができてヘッドスピンをするスタッフがいるんですけど、それをかっこいいと思う子どもが自分たちもくるくるまわる、とか。
ああいうふうになりたい、と思う大人であればいいと思う。それは、してあげる関係じゃなくて、その人(大人)がその人らしく、楽しいと思っていれば、子どもたちはそれに伝染したり、憧れたりする。僕は、子どもたちにとってそういう存在でありたい。だから、常に自然体でいる。子どもになにかをしてあげようっていうのは、やっぱりおこがましいですから。
ー最後に。これから先、もあなキッズの保育園は、子どもたちにとってどんな場であり続けたいですか?
ありきたりですけど、いつでも帰ってこれる場所でありたいですね。それは、保育園だけの話じゃなくて、この公園や緑道も含めて。僕、公園っていいなと思うのは、市の管轄だから半恒久的で、10年とか20年経っても残っているだろうというところ。だから、子どもたちはいつでも、帰ってきたいときにここに来て、また同じ景色を見られる。
あとは、ここで過ごす日々が、子どもたちの土壌になっていると信じています。0歳から6年間こういう暮らしをしているから、豊かな土壌ができていると思うんですよ。だから、仮に小学校や中学校がその子にとってのトンネルの時代になったとしても、「あなたは大丈夫」とその子や保護者の方に伝えたいし、伝えています。
その先に自分がいいなと思える環境や、自分が期待される機会だったり、誰かと協同して何かを成す機会だったりが必ずある。その機会まで蓄積できるだけの土壌を、一人ひとりがたっぷりと培うことのできる場でありたいなと思っています。
撮影:雨宮みなみ
この記事の連載
「100年先を見つめる保育園プロジェクト」と共に考える、地球環境や地域に優しい“持続可能”な保育園。
日本における環境問題を解決に導き、100年後の子ども達が健やかな環境の中で生きていけることを目的とした「100年先を見つめる保育園プロジェクト」を2020年よりスタートしました。