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「100年先を見つめる保育園プロジェクト」と共に考える、地球環境や地域に優しい“持続可能”な保育園。

三輪ひかり
掲載日:2022/12/16
「100年先を見つめる保育園プロジェクト」と共に考える、地球環境や地域に優しい“持続可能”な保育園。
神奈川県の豊かな里山緑道の自然を舞台に、子どもたちの「生きる力」を育む保育園を運営する、NPO法人もあなキッズ自然楽校。
日本における環境問題を解決に導き、100年後の子ども達が健やかな環境の中で生きていけることを目的とした「100年先を見つめる保育園プロジェクト」を2020年よりスタートしました。

「この仕事をする前は、ニュージーランドの国立公園でガイドの仕事とアウトドア用品メーカーのパタゴニアで仕事をしていました。そこからなぜ教育業界に?とよく聞かれるんですけど、環境のことと子どものことは繋がっているとずっと思っていたんですよね。環境が悪化することを止めるのは大事、でも、それと同時に次の世代に今ある環境を引き継ぐということを考えることがとっても必要で。」と代表の関山隆一さんは言います。


地球環境や地域に優しい“持続可能な保育のモデル”とは?
子どもと共に、限りある資源を未来へ繋げていくとは?
「100年先を見つめる保育園プロジェクト」への想いや活動について、関山さんにお話を伺いました。

*NPO法人 もあなキッズ自然楽校
近年の青少年を取り巻く社会問題に危機感を感じ、子どもたちの健全な育成環境を取り戻すため、「自然体験活動」を軸とした学校外教室を提供する「放課後の居場所づくり」事業をスタート。その後「森のようちえん」スタイルを取り入れた保育の充実に関わり、平成21年にNPO法人格を取得。認可外保育施設、横浜保育室、学童保育の設立や運営等を通して、「生きる力」を身につけられる子どもたちや指導者の育成を行っている。
http://moanakids.org/


100年先を見つめる保育園プロジェクトとは?

関山さん:
「100年先を見つめる保育園プロジェクト」は、ここ十数年のあいだに僕たちもあなキッズ自然楽校が地球環境に対してアクションし蓄積してきたことを、8つのキーワードに整理したものです。全国の幼稚園や保育園、こども園に、プロジェクトの8つのキーワードのうちのどれか一つにでも賛同いただくことで、日本における環境問題を解決に導き、100年後の子ども達が健やかな環境の中で生きていけることを目的としています。

というのも、前職のパタゴニア社に勤めていた頃から20年以上環境啓発の活動をしてきましたが、正直全くもって地球の環境はよくなっていない。むしろ、どんどん悪くなっています。
でもその中で、世の中が少しずつですが「変わらないと」という流れになってきているのも感じていて、このタイミングで自分たちがやってきたことをまとめてみようと思ったんです。


めーぷる保育園HPより

たとえば、私たちの園は、園舎や家具、木のおもちゃに国産材を使用しています。
宮城県にあるくりこまくんえんさんは殺虫剤や防腐防虫剤を使用していない材をペレット木材(山から木を伐りだし、製材過程で発生した、ゴミとして捨てられた端材や木屑を利用したもの)として取り扱っていたので、2011年から使わせてもらってきました。


もあなキッズ代表の関山さん

くりこまさんは、独自のブランド木材を想いを持ちながら作られていて、すごく応援しています。応援として、僕たちができることは消費をすること。そこのものを買う、ということが最初の一歩になると考えています。

ー 消費をすることが、最初の一歩。

そうです。消費する人がいるから、生産することができる。この椅子や木のおもちゃは、福島県の南会津から購入しているんですけど、南会津へ行ったときに、節がひとつも入っていない材じゃないと売れないから、節材がほとんど焼却されることを知ったんです。別に節が入ってたって使えますから。床や椅子を見てもらうと、ほら、全部節があるでしょ。

幼児教育で使われている教材や家具の産地って見たことありますか?


ー ちゃんと確認したことなかったです。

実は、メイドイン中国、インドネシア、マレーシアのものが結構多いんですよね。それはどういうことかというと、安い材を東南アジアからひっぱって作っているということなんです。つまり、その材を確保するために熱帯雨林の木が伐られ、そこで暮らす動物たちの住処を奪っているということ。森林が伐採されて、動物たちの居場所がどんどん少なくなってきていることを知っている人は多いと思いますが、それと自分たち(の保育や生活)が繋がっているということを意識している保育者の方は、実は少ないんじゃないかなと思います。

あと、幼児教育の家具ってどれも高いんですよね。東南アジアの安い材を日本に輸送して、それを倉庫にいれて、そこからまた物流し小売店が売るという作業なので、そこに関わる全ての会社に利益が入るようにするため、売値がどんどん上がるわけです。
じゃあ・・・と思ってつながりができた木工会社さんに、「このカタログにあるものを作れますか?」と聞いてみたら、「直取引だからそれ以下の値段で作れるよ」と言うんですよ。以降、うちの園のものは木工会社さんに直接依頼し、全てオリジナルで作ることにしました。


オリジナルでつくっている机と椅子


ー 今では、国産でも特に神奈川県産の材を積極的に使われているそうですね。

一番最初に創設しためーぷるキッズという園を移転するときに、神奈川県の林業促進の補助金を利用して、県産材を60%使いました。それ以降、茅ヶ崎と小田原の園は県産材に全て切り替えていっていますし、小田原と大磯の園の暖房器具はペレットストーブなんですけど、それも最初はくりこまさんのペレットを使っていましたが、距離があるとその分運搬コストがかかるので、神奈川県内でペレットを作っている工場を探して、そこから供給してもらうようになりました。

食事に関しても同じく、神奈川県産の100%無農薬野菜を使用しています。もちろん、国産や無農薬だとコストはかさみますが、子どもの一食は大事なので、必要なものだと考えています。直接契約しているので、小売を挟まない分は安く済んでいますしね。


ー 農家さんと関山さんが関係をつくって、直接契約をされているということですか?

県内の無農薬の野菜を出荷してくれる業者さんがいて、そこと契約をしています。というのも、食材を買いに行く時間がなかなか作れないのと、うちの園はそれぞれ規模が小さいので、園ごとに買うと食材が余ってしまうんです。全園の野菜を一括で買うことでロスをなくせて、すごく助かっています。

こういう業者さんの存在は、小さな農家さんにとってもいいですよね。コロナで他の飲食店などへの卸がストップしてしまったときも、唯一受け入れをし続けていたのが、うちだったそうで、「給食のおかげで乗り切れた」と言っていました。


ー たしかに、農家さんは給食を提供するような園や学校と契約できると、ある程度の量を安定供給できますね。

そうなんですよ。だから、こういう動きをしてくれる業者さんや、園や学校と直接契約できるような農家さんがこれからいろんな地域で増えていくといいなと思っていますし、園からも地元の農家さんに声をかけてもらえるといいんじゃないかなと思います。全ての野菜を無農薬にいきなりチェンジするのは難しいにしても一部を変えてみたり、形が悪かったり、少し虫に食われたりしているだけで捨てられてしまう野菜をレスキューしたりするなど、小さく始められることもあるんじゃないかな。

子どもたちは、感覚的に学んでる

ー 子どもたちには、「これは地元の野菜だよ」「国産の木材で、これってこういうふうに出来上がったんだよ」という話などはしたりするんですか?

乳幼児期は感性の時代を生きているので、言葉で伝えるのではなく、食べたり、触れたりする中で、一人ひとりが感覚的に学んでいると考えています。


かまぼこ板のアップサイクルで作られた「かまぼこつみき」

ただ、そういうことを日々積み重ねる中で、「これってなに?」「どうやってできているの?」という疑問や問いが子どもたちの中に生まれてくることもあるので、そうしたらそこからさらに探究できるようにしてはいます。たとえば最近だと、卒園後にもあなキッズが運営する学童に通う子で、「服はなにでできているの?」と気になった子がいたので、どんな材料があるのかカードゲームをつくって、遊びながら学んだりしました。

ー 職員のみなさんにはどう共有しているのでしょうか?どのように職員の方も一緒になって考えたり、取り組んだりしているのか気になりました。

この間は、全園のスタッフに対して気候変動の研修を行いました。去年は3年目以下の新人のスタッフを対象に宿泊研修をして、その中でも環境に対するセッションをしたりもしましたね。自主的に環境ゆるトークみたいなことをやっている職員もいますよ。
あとは、うちの法人では、スタッフが任意の部活動をやっているんです。僕は、本の学習会や畑の部活動に参加をしていますし、他にもキャンプ部とか山部とかあって。


キャンプ部の様子

ー スタッフの部活動!好きなことや興味があることから経験を通して学べるのは、すごくいいですね。

研修というフォーマルな場もあれば、部活動やゆるトークみたいにインフォーマルな場もある。両方を意識的につくるようにしています。


一人ひとりができること

ー 100年先の未来を見つめたときに、まず、一人ひとりが、一園一園ができることはなんなのでしょうか。

一番すぐできるのは、電力を自然再生エネルギーのものに変えること。うちみたいにビルインの園だと、オーナーさんの許可を取らなくちゃいけない場合もあると思いますが、自立している保育園・幼稚園、こども園は、100%自分たちの意志で契約する電力会社を変えられるので、今すぐにでもできることだと思います。そしてこれは、園に限らず個人宅でもできることですね。

自然再生エネルギーの必要性が高まっていかない限り、企業が自然再生エネルギーのプランをつくっていこうという流れにはなっていかない。最初にも言いましたが、私たちが消費することが企業にも考えてもらうきっかけに繋がっていくと思います。


ー 全国の幼稚園・保育園、こども園さんが、自分たちが使っているものを一つひとつ見直して変えていくと、結構大きなインパクトになるかもしれないですね。


KEENのシューズボックスのアップサイクル。保育備品の収納に使っているそう

本当、そう思いますよ。ティッシュペーパーやコピー紙を再生紙に変える。地元の材を使ったり、地元の農家さんと取引をしてみる。木工屋さん行ったときに「これは節が入っちゃっているからもうだめだ」とか、農家さんが「これ、穴があいているから商品にならない」とか言っていたら、「それを買います、買わせてください」って。そういうことから始めてみる。

あとは、うちのスタッフでもあったりするんですが、100円ショップやネット通販でなんでも済ませようとしない。「安いから買おう」「手っ取り早いから買おう」という思考ではなく、何をどう消費するのかを精査できる“鑑識眼”は必要かなと思います。近くに100円ショップがあればなんでも揃うし、ネット通販は何も考えないですぐポチッと押せるけど、そうじゃなくて「ちょっと待てよ」と考えられる思考が大切かなと。


ー 「100年先を見つめる保育園プロジェクト」は、ここからどう活動を進めていかれるんですか?

まずは自分たちが一つひとつ行動すること。広め方としてはいろんな方法があると思うんですけど、ビジネスライクなプロジェクトにしてしまうのはいやだなと思っているので、僕たちの活動を見た人たち自身が沸き立つように行動したり広げていったりすることが本質的かなと思っています。


ー 関山さんご自身も、「これってどうなんだろう」「こうできないかな」と考え、動いて、いろんな人と繋がって、今のカタチがあるんですもんね。行動する人の納得感やそうしたいという想いがないと意味がないなと話を伺いながら感じました。

そうそう。マインドが変わるってことが大事。

みなさんから「私たちもこういうことしました」という知らせがあったら、それはすごく嬉しいですし、ありがたいことに、「私たちも手伝えることないですか?」というお声もいただくようになりました。多分、このプロジェクトがわーっと一気に広がるということはないと思うんです。でも、大切なことって染み入るように広まっていくんだと思うんです。


撮影:雨宮みなみ

この記事の連載

「子どもたちの豊かな土壌を耕す場でありたい」ー もあなキッズ自然楽校 (神奈川県)

「子どもたちの豊かな土壌を耕す場でありたい」ー もあなキッズ自然楽校 (神奈川県)

神奈川県の豊かな里山緑道の自然を舞台に、子どもたちの「生きる力」を育む保育園を運営する、NPO法人もあなキッズ自然楽校。
前編では、もあなキッズ自然楽校が取り組む「100年先を見つめる保育園プロジェクト」について、代表の関山隆一さんにお話を伺いました。

後編では、もあなキッズ自然楽校が運営する保育園がよく遊びにでかけるという緑道を歩きながら、保育についてたっぷりと語っていただきました。