<実践園取材レポート> 武蔵野東第一・第二幼稚園(東京・武蔵野市)〜インクルーシブ保育を支える環境・仕組みとは? 〜
障がいなどの有無にかかわらず、子どもたちが同じ場でともに育ち合い、学び合うインクルーシブ保育・教育。
その推進のために、法整備や環境整備が進められています。すでに長年実践しているふたつの園を訪問して、それぞれの園の保育・教育を支える環境や仕組みを教えてもらいました。
今回は、東京都武蔵野市、武蔵野東第一・第二幼稚園の様子をレポートします。
(『新 幼児と保育』(2021年10/11月号)に掲載された記事をお届けしています。)
異なる個性の交流を通して成長が促される保育
お話を聞いたのは…
武蔵野東第一・第二幼稚園(東京・武蔵野市)
特別支援教育コーディネーター 河井優子先生
基本情報
園児数 |
553人 |
---|---|
年少 | 147人 |
年中 | 203人 |
年長 | 203人 |
※上記のうち、自閉症スペクトラム障がい児
・年少 … 9人
・年中 … 24人
・年長 … 26人
ほかにも市発達支援センターからの支援認定児などが60人。
職員数 | |
---|---|
園長 | 1人 |
副園長 | 2人 |
教諭 | 45人 |
養護教諭 |
3人 |
音楽、体操などの専任教諭 |
7人 |
特別養護学校教諭資格を持つ教員が2人いる。
少人数クラスという安定の場から
「インクルーシブ教育」という概念がまだなかった57年前の開園以来、武蔵野東第一・第二幼稚園では「混合教育」という名のもと、自閉症スペクトラム障がい児(以下「自閉症児」)と健常児が同じ環境で学んできました。自閉症児にとっては、健常児から刺激を受けることで成長が促されるメリットがあります。健常児は、自分とは違う個性を受け入れ、一緒に歩む姿勢が育まれます。
「少人数クラス」は、入園前に医師によって自閉症スペクトラム障がいと診断された子どものためのクラスです。同時に該当の年齢の通常クラスにも居場所があり、両方のクラスの部屋にロッカーや靴箱もあります。
通常クラスでほとんどの時間を過ごす自閉症児もいます。それぞれの子どもの目標に合わせ、先生たちが相談し交流する時間の調整をしています。いつでも戻れる少人数クラスを足場としながら、困ったときには手助けしてくれる友達がたくさんいる場所の心地よさも知って、集団で過ごす楽しさも感じてもらいたいと思います。
みんなで生活する楽しさを
少人数クラスの子どもたちは、年長組になると交流先の通常クラスに行って出欠表に丸印をつけたり、交流先の通常クラスの子が出欠の確認に少人数クラスに来たりというようなことが毎日行われています。丸印を描くのが苦手な子どもがいたら、得意な子が一緒にペンを持って手伝う姿もあります。
毎朝の「お集まり」でその日のスケジュール確認をした後、音楽、体操、造形などの一斉活動を日替わりで行います。自由活動だけでなく一斉活動を行うことで、自閉症児のクラスの子どもたちは友達とかかわる楽しさや一緒に活動する楽しさをより感じやすくなると考えているので、一斉活動も大切にしています。「苦手なことも友達と一緒ならできた」というような経験は、自閉症児クラスの子どもたちにとって大事なことです。もちろん一斉活動だけでなく自分の好きなことに取り組む時間も大事にしているので、園庭や保育室での自由遊びの時間もたっぷりとります。そのバランスを大切にしています。
園庭や廊下からよく見通せる保育室
1階玄関の脇にガラス戸で仕切られた小ホール「なかよしるーむ」があり、その奥に少人数クラスの部屋があります。小ホールは少人数クラスの子どもはもちろん、通常クラスの子どもも来て交流が生まれています。保育室からはサッシを開けて玄関を通らずに園庭に出ることができます。万一の災害時に避難がしやすく、外からでも助けに行きやすいようにという配慮からです。
「なかよしるーむ」の奥に少人数クラスの保育室がある。この日は造形物の片づけを行っていた。
通常クラスの部屋も廊下に面した壁はガラスになっており、廊下から部屋の中がよく見渡せます。新型コロナの流行を機に入り口の戸を外してさらに開かれた空間にしました。子どもたちがほかのクラスの様子を見て学んだり交流したりしやすいですし、フリーの先生が、必要に応じてヘルプに入っていきやすいのもメリットです。
廊下から見た通常クラスの保育室。
「チーム幼稚園」としてともに学び合う
少人数クラスの担当は主担任と補助、2人の教諭が担当しています。およそ10人の子どもたちを担任と補助の先生で見ているということになります。活動によってフリーの先生や各学年の音楽、体育の専任の先生が入る場合もあります。通常クラスを含めて加配の教員はいません。頼る大人の人数が多すぎると、子どもの自立を妨げる恐れがあります。
ふだんから子どもの情報を共有し、よりよいやり方についてベテランの先生、新人の先生にかかわらず活発に話し合っています。クラス担任は2〜3年くらいでローテーションしているので、少人数クラスも通常クラスもよく知っている教員が多く、クラスを超えてアドバイスし合うこともできています。外部講師を招いて研修会を行うこともあります。また同じ法人に小学校、中学校、高等専修学校があり、幼稚園年齢だけでなく18歳までの年齢軸の中での幼児期の適切なかかわりを模索する視点を持つことができています。
文/佐藤暢子 撮影/丸橋ユキ
この記事の出典 『新 幼児と保育』について
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