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異年齢クラスでの遊びの広がり〜ハンバーガー屋さんごっこ<後編:遊びの広がり>〜

新 幼児と保育
掲載日:2021/05/18
異年齢クラスでの遊びの広がり〜ハンバーガー屋さんごっこ<後編:遊びの広がり>〜

ノートルダム清心女子大学で教鞭をとる西隆太朗先生と伊藤美保子先生が、子どもたちの遊びの場面を見ながら語り合うシリーズ「異年齢クラスでの遊びの広がり〜ハンバーガー屋さんごっこ」。
その後編をお届けします。

編「遊びが始まったころ」の2週間後に、先生がたは再び園を訪れ、そこで目にした遊びの広がりについて語ります。

(この記事は、『新 幼児と保育』2021年4/5月号 に掲載された連載「保育を見ること、語り合うこと」を元に再構成しました)

お話

西 隆太朗先生
ノートルダム清心女子大学教授。保育における関係性の意義について、子どもたちとかかわりながら、保育学的・臨床心理学的研究を進めている。著書『子どもと出会う保育学――思想と実践の融合をめざして』(ミネルヴァ書房)ほか。

伊藤美保子先生
ノートルダム清心女子大学准教授。保育士を長年務め、子どもたちの姿に惹きつけられて、保育の観察研究を続けている。共著『写真で描く乳児保育の実践――子どもの世界を見つめて』(ミネルヴァ書房)ほか。


保育の場面~みんながつながって

前編「遊びが始まったころ」の2週間後に再び園を訪れると、ハンバーガー屋さんはさらに発展していました。自由遊びの時間なので手紙を書いたり、人形のお世話をしたりなど、ほかの遊びも広がっていて、今日のハンバーガー屋さんのメンバーも前回とは少し違っています。3歳児のDちゃんも、堂々とメニューを見せてくれました。

先生が紙粘土と絵の具を持ってくると、3・4・5歳児が集まって、ナゲットを作り始めます。

今日の遊びでは、5歳児同士も相談しながら作っていますが……

3歳児たちも自分からお店のスタッフになって、いろんなものを調理していました(この下の写真2枚とも写っているのは3歳児)。

別の場所でおうちごっこをしていたEちゃん(4歳児)が人形の世話をしながら、ハンバーガー店スタッフのCくん(5歳児)に電話をかけています。

配達を頼んでいたようです。
Eちゃんはあとで友達や人形たちと一緒に、おいしそうに食べていました。


保育を見て語り合う

伊藤 
前回は5歳児の子どもたちがお店の中心となって、3・4歳の子どもたちはお客さんになることが多かったのですが、今日はみんなが作る側にも、食べる側にもなっていました。異年齢クラスの中で、5歳児が作り出したイメージや遊び方が、3・4歳児にも広がっていく様子を見ることができます。ナゲットはどの年齢の子どもも自分なりに参加できる遊びで、やり始めた子はすごく集中して取り組んでいました。

ポテトの入れ物も、お店でくれた本物を活用したものもあれば、子どもたちが厚紙で作ったものもあります。こうしたごっこ遊びでは、本物があることも楽しいし、子どもたち自身が考えるのもまた楽しいものです。どの程度子どもが作るのか、またどの程度保育者が提供するのか、子どもも考えるし、保育者も考えています。保育は子どもと保育者が一緒に作り上げるものだということはよくいわれますが、それがうまくいっている様子を見ることができました。

西 
大きな子のしていることを、小さい子どもたちもよく見ていて、触発されているんですね。写真に写っていた3歳児の調理スタッフたちは、随分てきぱきと、協力しながら進めていました。黄色いストローを切ったものですが、フライドポテトの雰囲気がよく出ていました。

伊藤 
異年齢クラスでの遊びでは、3歳児なら3歳児、5歳児なら5歳児と、どの年齢の子どもたちも自分らしく参加して遊べるような素材、遊具、環境と保育者の配慮が必要ですね。

西 
電話で注文していたEちゃんは、女の子同士おうちごっこで遊んでいて、たくさんの人形のお世話をしたり、おしゃれして出かけては帰ってきたりしていました。そんな中で、何かいいことを思いついたという笑顔で、電話をかけ始めたんです。予約じゃなくって配達の注文なんだということまで伝えていました。

伊藤 
自分たちの遊びに熱中しているのに、ほかの子の遊びの様子もよく感じ取っているんですね。

西 
電話線もないのに、違う空間の遊びがすんなりとつながっています。いつもクラスの中に心通じ合う関係があるから、こんなことができるんだと思います。

保育を「コーナー」でとらえることがありますが、子どもたちの遊びはそれだけにとどまっているわけではなくて、大人が思う以上につながりあっているんでしょうね。

そういうつながりの豊かさは、子どもたち自身の心が自由に動いていることで生まれてきます。大人が遊び方や順番などを決めてしまっていれば、こうした展開にはならなかったでしょう。3歳児が自ら店員となって調理するのも、はじめから計画するというよりは、自分から自由に動いて楽しむことができる環境と雰囲気があるからこそできることです。

自由な遊びの世界を尊重し、一人ひとりどんな楽しみ方をしているか見ていくとき、その子の個性や今伸びようとしている力、子どもたちの想像性の豊かさを、さまざまに発見していくことができるでしょう。


撮影/伊藤美保子 
協力/社会福祉法人倉敷福祉事業会 連島東保育園(岡山・倉敷市)


この記事の出典  『新 幼児と保育』について

新 幼児と保育

保育園・幼稚園・認定こども園などの先生向けに、保育をより充実させるためのアイデアを提案する保育専門誌です。

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この記事の連載

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子どもたちが生き生きと遊び、生活する保育の場では、訪れるたび、心動かされる場面に出会います。そんな保育の場面から、語り合うこと、考えさせられることは数多くあります。
3・4・5歳児の異年齢クラスでの遊びの場面を見ながら、ノートルダム清心女子大学で教鞭をとる西隆太朗先生と、伊藤美保子先生が語り合う様子をお届けします。