「こどものとも」編集長・関根さんと考える、絵本と子どもをつなぐ大人の在り方
2020年11月20日に発刊した、ほいくる初の本「こどもこなた」。
ほいくるが大切にしている「こどもの“やってみたい”っておもしろい」という思いを、もっと広く深く体感できるものをつくりたい!と制作しました。
今回、その中のひとつの企画として、「子どもや保育と切っても切り離せない “絵本” から子どもを見つめなおしたい」という想いから、福音館書店「こどものとも」編集長 関根里江さんとの対談が実現しました。
絵本づくりをする人から見える、子どもや大人の姿って…?
冊子には載せきれなかったおはなしを、web記事特別号として、前・後編2本立てでお届けします。
「こどものとも」編集長 関根里江さん
月刊物語絵本「こどものとも」「こどものとも 年中向き」シリーズの編集に20年以上携わる。
編集した本に『バルバルさん』『ちょっとだけ』『でんしゃにのったよ』「おばけかぞく」シリーズ『もじもじこぶくん』など多数。
「こどものとも」
1956年の刊行以来、『ぐりとぐら』『はじめてのおつかい』『きんぎょがにげた』などのロングセラー絵本を生み出してきた、福音館書店発行の月刊絵本シリーズ。
季節や成長にあわせたバラエティ豊かな絵本で、子どもたちの好奇心と想像力を育んでいます。
https://www.fukuinkan.co.jp/maga/
変わらない子ども、変わった大人。
ー 長い間、絵本を通して “親子” や “保育者と子ども” といったような「大人と子どもの関わり」に携わられてきたと思います。その中で、今と昔で変わったことがあるのか、何か感じていることがあればお聞きしたいです。
私たちは、子どもの気持ちや楽しむ心は今も昔も変わらないと思っています。だからこそ、何世代も読み継がれる“ロングセラー”の絵本がたくさんあるんだとも思います。
でもその一方で、与える大人は少し変わってきている気がしますね。絵本の選び方にも変化があるなぁと。
ー 選び方、ですか。
公園で危ない遊具があったら、それは使わせない。安全安心のために、先回りして危険を取り除いてあげるということがあったりすると思うんですけど、それと同じようなことが絵本の選び方でも起きているように感じています。「怖いものは見せない」「これはおもしろそうかな」という、大人の判断が先に入ってしまっているというか。
もちろん、子どもと関わる上で「安全である」のは大切なこと。でも、危険を察知する力や、自分で考える力は、経験しないとつかないものでもありますよね。おはなしも同じで、いろんないいおはなしに接してもらった方が、心の力がつくんです。
だから、大人の好みでいつも同じようなおはなしばかりを読んでいたらもったいないなぁと感じてしまいます。ワクワクするような楽しいおはなしから、ちょっとドキドキする怖いおはなしまで、いろんな絵本がある。子どもたちは、好奇心いっぱいで、おはなしにすっぽり入り込んで楽しめる貴重な時期なんですけどね。
ー 子どもは変わらないけど、与える大人の側に変化があるんですね。絵の可愛さで選ぶ人もいるように感じます。
絵本の状況も変わった、ということもあるかもしれません。昔は、こんなにたくさん絵本がなかったので、「このおはなし、子どもたちがすごく楽しんでいる」という話を聞くと、まずはそれを読んでみようという感じだったんだと思うんです。でも今は、本当にたくさん出版されていますから、選ぶのが難しいですよね。
あと、テレビやスマホなど、絵本以外のものに触れる機会も増えましたよね。刺激が強いので、子どもは引きつけられる。大人も楽ですから、そういうものを多く与えていく…ということもあるのかなと思います。
そう考えると、世の中が便利になったことで、“親子” や “保育者と子ども” の関係を深めていく時間が失われてきているのかもしれません。
絵本と子どもをつなぐ、大人の在り方。
「絵本は情操教育にいい」とされているので、教育的な視点で絵本を読む人も増えていますよね。
もちろんその通りではあるのですが、「この本とこの本は絶対に読まなくちゃいけない」と、読むことが課題みたいになってしまうと、せっかくの絵本の時間が、ちょっと勉強っぽくなってしまう。子どもたちもそれを敏感に感じとりますから、「このあと、こう質問されちゃうかな」などと緊張して、おはなし自体を楽しめなくなってしまうこともあります。
ー 子どもが少し大きくなると、大人が読み聞かせるより子どもが自分で読む方がいいのかな、と考える親や保育者もいるような気がします。
そうですね。でも幼児期はまだスムーズに文字を読めないこともあるので、耳で聞くのと自分で読むのとだと、おはなしの世界への没入の仕方も違います。「本っておもしろいな」と思える体験ができれば、子どもは自然と文字に興味を持ったり、自分で読むようになったりすると思うので、まずはたっぷりと読み聞かせをしてあげてほしい。
勉強のため、しつけのためなど、“〜ねばならない”で絵本を読むのではなく、純粋におはなしを楽しんでほしいなぁと思います。
ー 自分の子ども時代を思い返してみると、先生がどういう気持ちでこの絵本を読んでくれていたのかなとか、お母さんもこのおはなし大好きだねとか、そういう読み手の気持ちも感じとっていたように思います。そう考えると、絵本と子どもをつなぐ役割として大人の在り方って、すごく大事ですね。
本当、そうですよね。だから、“〜ねばならない” ではなくて、大人も子どもみたいにそのおはなしを楽しんでくれるのが一番いいなと思っています。
先生だから、親だからというより、「この絵本おもしろそうだから、一緒に読もうよ」って、子ども同士みたいな気持ちで読んでみる。絵本を読む時は、素になって楽しんでみてほしいですね。大人が楽しんでいるのが、やっぱり子どもも楽しいですから。
ー 保育園で働いている時、お昼寝前に、「いやいやえん」や「エルマーのぼうけん」を一話ずつ読んでいたんですけど、なんとも言えない場の一体感があったのを思い出しました。子どもたちも、私(大人)も、「この続き、どうなるのかな」って、一緒に楽しんでいる感じがあったなあと。
それって読み手の醍醐味ですよね。読んでいる人にしかわからない、その場の一体感ってあるなと思います。
毎月、「こどものとも」の絵本が出来上がる前に、保育園で読んでもらうんですけど、その時も子どもの様子がとってもいいんです。その世界に入り込んでいるなぁって。
保育園や幼稚園など、集団で読むからこそ生まれる一体感みたいなものもありますよね。たとえば、洞窟に入るようなシーンだと、みんなで実際にその洞窟に入っていくような、ちょっとした緊張感みたいなものが生まれたりする。人と人とが自然に影響しあうのでしょうね。
現実と空想を行き来する。
ー 絵本を読む際、声の大小や速さなど、大人側が演出して生み出されるものもありますよね。読む人によって、全く異なるおはなしになっていくというか。
そう、そう。絵本の楽しみ方や広がり方って、読み手次第なんですよね。先生方って遊びがとっても上手なので、こんな読み方もあるんだってこちらがビックリするくらい、絵本を読むのも上手。
私たちは、一冊一冊丁寧に絵本をつくる仕事なので、そこから先は読み手が自由に読んで、子どもと一緒に世界をつくってください、という気持ちでいます。絵本の世界で自由に遊んでもらえたらな、と。
ー 絵本から遊びへ発展していくこともあれば、実際の体験と結びついて、イメージがどんどん広がることもありますよね。子どものそばにいる大人は、「子どもたち、最近こういう体験をしたな」とか「今はこんなことに興味あるな」と子どもの姿から絵本を選んであげるのもいいですね。
そうなんです。絵本を楽しむと、実際にそれをやってみたくなるのでしょうね。みんなでイメージを共有しているからこそ、ごっこ遊びや空想遊びができる。子どものそばにいるからこそ、その子の興味の旬がわかりますよね。どんどん広げてほしいです。
科学の絵本もそうですけど、実際のことと絵本が結びつくと、最強です。「これはなんで?」「次はこんなことしてみたい!」と、好奇心に火がつきます。現実の世界がどんどん楽しくふくらみますよね。
「『しょうぼうじどうしゃ じぷた』を読んで、そのあと消防署まで散歩に行きました」という感想をもらったこともあるそう。
幼児期の子どもたちは、「現実」と「空想」の世界を自由に行き来しています。子どもたちは、そのなかでどんどん自分の世界を豊かにしていっているんでしょうね。
▶福音館書店「こどものとも」編集長 関根里江さん×HoiClue代表雨宮 対談【後編】はこちら
文:三輪 ひかり
写真:中野 亜沙美
この対談が掲載されている、リトルプレス「こどもこなた」
HoiClue初(発)のリトルプレス『こどもこなた』が、完成しました!
子どもと関わるみなさんが、ずっとずっと手元に置いておきたくなるような、
なにかあった時に開いてホッと安心したり、あたたかい気持ちになったり、励まされたり、いつでも“こども”を近くに感じられるような、
“こども”を考える手がかりになるような…
そんな本にしたい。
想いを込めて、またたくさんの方の協力を得てつくった一冊です。
どうぞ、手にとってみてくださいね。
この記事の連載
絵本と出会い、日常が変わっていく。ー「こどものとも」編集長・関根さんが 23年絵本と関わり続けて気づいたこと
後編では、絵本を通してより変化していく子どもと大人の姿について、ほいくる 雨宮の疑問から話が深まっていきます。