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「保育は風景をつくる仕事。保育者は原風景のひとつ。」日常を大切にする、ごかんのもりの在り方。

三輪ひかり
掲載日:2020/11/13
「保育は風景をつくる仕事。保育者は原風景のひとつ。」日常を大切にする、ごかんのもりの在り方。

今回訪れたのは、神奈川県逗子市にある“NPO法人ごかんたいそう”が運営する保育園「ごかんのもり」。

豊かな自然のなかで、手づくりされる自分たちの暮らし。
ごかんのもりの豊かな生活の秘訣はどこにあるのか、代表理事の全田 和也さんにお話を伺いました。

予定不調和である、ということ

ー 改めまして、今日はありがとうございました。

保育、入られてみてどうでしたか?

ー 子どもたちのペースや状態を見ながら散歩中に行き先を変えたり、準備ができた人からごはんを食べ始めたりと、緩やかな時間と空間の移り変わりがとても印象的でした。

保育って心身共にタフな仕事ですし、つい楽なほうに流されやすいと思うんです。保育園でも、大人都合で「この間はこの範囲で」とか「何時までに〇〇して」となってしまうことがあると思うので、それは気をつけています。

ごかんのメンバーとも「子どもたちが豊かな毎日を送れるかどうかの分かれ目は、“慣れ”に慣れちゃうかどうか」だと、いつも話しているんですよ。

もちろん、生活のリズムは必要だし、ごかんも動と静のバランスを大切にしていますが、それって一歩間違えるとルーティンワーク化しかねないなと思っているんです。

日常がルーティンワーク化してしまうと、子どもたちのことも「あの子って、ああいう子だよね」って、だんだん決めつけるような見方になっていってしまうし、保育の中で同僚に違和感を感じたとしても、「あの人は、ああいう人だから。まぁいっか」となりかねない。

ー 保育って忙しいし、葛藤や悩みの連続だからこそルーティンワークとして行えると楽なこともあるのかもしれない。でも、相手を知ろうとすることや疑問を持つことをしなくなると、それはもう保育ではない気もしますね。

慣れ自体は防げないと思うんですよね。でも、その中で「あ、慣れてしまっていない?」と日常的に立ち戻ったり、葛藤したりすることがすごい大事だなあと思っています。それすら慣れちゃうと、その状況や状態が当たり前になってなにも疑問を持てなくなってしまうし、子どもたちの姿にも感動できなくなっていってしまいますから。

保育という仕事自体が、そういうリスクをはらんでいるとは思うんです。デイリースケジュールって基本同じですし。でもその中でも子どもたちは、確実に、その日その日でミラクルを起こしているし、成長している。

ごかんの中でいくつか標語をつくっていて、そのひとつに「予定不調和」という言葉があるんですけど。

ー 予定不調和、ですか。

そう。子どもだって、この社会に存在する一つの個性であり人格。大人が思い通りに育てるなんてできっこないと考えています。だから“予定調和”ではなく、“予定不調和”な存在として向き合おうって。

外部の方が見学に来られた時に、こういう環境だから「森のようちえんの感じでやってるんですよね?」「自然保育ですよね?」とかよく言われるんですけど、それもあまりピンとこないんですよね。卒園する時に「私が一番好きだったのは、海とか山よりも絵本読む時間だった」という子だっている。

昨日も、子どもたちが火起こしして、味噌汁を作ったりしてたけど、全員が全員同じようにそこに興味を持つということもないので、作る子もいれば、作らない子もいました。でも、僕はそれでいいと思っているんです。


子どもの自尊心を育む暮らしの場でありたい

ー 予定不調和であるということ以外に、保育のなかで大切にしていることがあればぜひ教えてください。

子どもの「自尊心」を育むこと、ですかね。

ー 自尊心って、他の言葉で言い換えるとどういうことでしょう?

自分が自分のままでいるということを、肯定的に思えること。乳幼児の時期の子どもたちって、元来それができていますよね。自然体ってこういうことなんだなって、彼らの姿を見ているととても思います。

でもそれを、先回りしたり、決めつけたりする大人の世界が、その自尊心を育んでいくことを邪魔してしまうことがある気がするんです。ごかんは、その逆でありたい。理想と現実のギャップの難しさはあるんですけど、「子どもの自尊心を育む暮らしの場をつくる」ことを目指しています。

つまり、運動会で一等をとったとか、成績で一番とったとかではなく、勇気を持ってあの子にあの一言を言えたというような、普通の日常の中にあるちょっとした一歩。そういう日常のなかにある小さなミラクルの積み重ねで、子どもたちの自尊心って育まれていくと思うんですよね。

たとえば、さっきからあそこでずっと虫取りしている女の子がいますよね。ここ最近の彼女のブームなんですけど、ああやって一日6匹、7匹…って数を更新していくことに楽しさや嬉しさを感じている。

さっきの予定不調和の話とつながるんですけど、ああやって夢中になっていると、「お布団敷けたよ。そろそろお昼寝だよ」と声をかけても、なかなか部屋の中に入ってこないじゃないですか。その時に、大人都合でデイリースケジュール回そうとしていたら「あんた何やってるの!早く帰っておいで!!」って、様子も見ずに、会話もせずに言ってしまうことって起こりうると思うんです。

でも、日常の流れの中で、あの子は今これにすごく好奇心と想像力をひろげているとか、今日も記録更新できるかなって、その子の心に意識をむけてみると、そんな頭ごなしに言うことってまずしない。「あの30分で、5匹も捕まえたの?!」「種類もそんなにあるの?」って、そういう大人の意識や眼差し、温度感、そこに一緒に感動できている感じって、絶対その子に伝わるし、そこを共にしつつ「お布団敷けたよ」という話をしていくのだと、伝わり方も全然違いますよね。

本当にちょっとしたことがその瞬間、自尊心が育まれるのか、摘まれるのかの差になる気がするし、そのちょっとしたことが日常の中でどんどんどんどん積み重なっていって、3ヶ月とか半年、1年、2年と経っていくと、すごく大きな差になると思うんです。

保育は原風景をつくる仕事

僕は、保育は原風景をつくる仕事だと考えています。保育者とは…って保育所保育指針などにも出ていますし、みなさんそれぞれ捉え方があると思うんですけど、ごかんの中では保育者の仕事は子どもたちの原風景をつくる仕事と定義してて。

この四季折々の自然と共に生活していく感じも一つの風景だし、保育者自身も原風景の中のひとつの要素なので、一緒に生活している保育者がずっとピリピリしているのか、喜怒哀楽あるけど基本的にはおおらかで、家族的な安心感があるのかどうか。僕たち保育者の意識ひとつで、僕らがつくっている原風景は変わってくるんだなと思っています。

この前の園内研修でもスタッフと話をしたんです。この時期の野菜を使って、自分たちでごはんをつくるというのも原風景ですけど、同じ活動していても、大人が「ああ、それあぶない!もうそれだったらやらなくていい」と言ってしまってるのか、覚悟を持って、ぐっと見守っているのかどうかで、子どもたちが大人になってここでの暮らしを思い出した時の、原風景も変わると思うんですよね。風景って、結構空気も宿ると思うので。

ー ちょっと覚悟を持って、ぐっと見守る。すごく大事なことだと分かってはいるけど、あぁまたできなかった…ということもある部分だと思います。

難しいですよね。でも、ただ受けとめてみたり、本当にその子になったつもりでいろんな想像をしてみると、なんとなく相手のことも微笑ましく思えてくる。自分がその立場だったら、たしかにそうしたくなるなぁ、とかね。

だからといって、その子の表面的なニーズをすべて叶えましょうということではないんですけど。

ー 表面的なニーズ。どういうことでしょう?

たとえば、「散歩に行きたくない」と言っている子がいた時に、「じゃあ、散歩に行かなくていいよ」と、そのニーズを叶えるという手もあるんですけど、本当のニーズはどこにあるのかな、それを直接的に表現できないから、散歩行きたくないという表現になっているんじゃないかなと、子どもを見てみるんです。

そうすると、実は朝、親子ゲンカをしてさみしい気持ちを引きずっていて、とにかく先生に構ってほしい、気持ちを知ってほしいということが見えてきて、その時にそっちを少しでも満たせる対話ができたら、散歩に行かないというニーズを叶えなくてもいいことって結構多いなと思うんです。だから根っこのほうを受け止めるのが大事。表面的なものばかり満たしていると、場もぐちゃぐちゃになっちゃいますよね。

ー 本当のニーズと表面的なニーズが別物の時って、確かに結構多い気がします。でも、そこの見極めって難しいなぁと思う時もないですか。

あります、あります。だから、日常の積み上げが大事だと思います。その会話だけ入っていってもわからないことも多いので、ずっと一緒に生活をしていく中で、その子の内側で起きている変化とか、最近こういうことに葛藤しているんだろうなということに目を向けておく。そうすると、流れのなかで起きた一つのこととして、文脈を読み取りながらそのニーズを見れるので、本当のニーズに辿りつきやすくなる。本当、子どもたちといると、日常の大切さにいろんな角度から気付かされます。



取材・文:三輪 ひかり

この記事の連載

「自分たちで、暮らしをつくる。」ー ごかんのもり(神奈川県逗子市)

「自分たちで、暮らしをつくる。」ー ごかんのもり(神奈川県逗子市)

今回訪れたのは、神奈川県逗子市にある“NPO法人ごかんたいそう”が運営する保育園、「ごかんのもり」。
「“原風景がうまれるきっかけとなる暮らしの場”をつくりたいんです。」
 そう語ってくださった理由がわかるような空間、時間、暮らしが、そこにはありました。