「やらなきゃいけないこと」から「未来も踏まえて重要なこと」へ。 ー ほいくる生みの親・雨宮みなみが考える、いま保育に必要なこと。
4月19日は、4(ふぉー)19(いく)で、保育の日。
保育者はもちろんのこと、様々な視点や立場から「保育」というものについて共に考え、向き合うきっかけをつくりたいという想いを込め、ほいくるを運営しているキッズカラーが2015年に「みんなの保育の日」という記念日をつくりました。
そんな「みんなの保育の日」も今年(2020年)で6回目を迎えます。
このタイミングに合わせ、何か新しい記事を読者のみなさんに届けることはできないか。
ほいくる編集部で考え、普段一緒にほいくるのコンテンツをつくっているライター(三輪)が、ほいくる代表・雨宮に改めて「みんなの保育の日」を設立した想いやこれからの歩み、保育について話を聞くことにしました。
“知らない”ことがいっぱいある、ということを知る
ー 今年で「みんなの保育の日」も6回目を迎えますね。
はじめに、なぜみなみさんが「みんなの保育の日」をつくろうと思ったのか。きっかけを聞かせてください。
当時は保育の現場から離れ、ほいくるを始めて5年ほど経った頃だったんだけど、保育士として子どもと関わるときとは違う立場から保育を見つめたり、捉え直していったら「知らなかった」ということばかりで、それがとても衝撃的で…。
雨宮みなみ
中学生の頃から目指していた保育士資格を取得後、複数の保育園で6年間子どもに携わる。
現場での経験を通し、HoiClue[ほいくる](Webサイト)を立ち上げ、2010年にこども法人キッズカラーを設立。
「こどもの“やってみたい”っておもしろい」というタグラインの元、新しいチャレンジに向けて奮闘中。一児の母。
ー 知らなかった、ですか。
いろいろな園へ取材に行き様々な保育環境や実践を見させてもらったり、お話を聞かせてもらう機会が増えたんだけど、今まで知らなかったことが本当にたくさんありました。
たとえば、ひと口に保育と言っても、担任の保育者を固定せずローテーションしながら園全体で子どもをみる保育をするところもあれば、環境を余すことなく使った保育や、子どもたちのお喋りから一日がはじまる保育をするところもある。
そんな様々な保育観に出会う中で、「保育ってこういうものだよね」とか「子どもとはこんな風に関わるものだよね」と、自分が知っていることの中で判断したり、それが正しいものだと思いこんでいたところがあったなと気がつきました。
そもそも深くは考えずに、「こうするのが当たり前だよね」と行動・対応してしまっていたこともたくさんあったなと。
ほいくるで読者のみなさんにアンケートを取らせてもらうことがあるでしょう。
その中でも「子どもが初めて歩いた瞬間が保育園にいる時だったら、そのことを保護者に伝えるか伝えないか」とか、「噛みつきがあった時にどう対応するか」というアンケートを取った時に、まるっきり反対の対応をする人たちがいるということを知って驚きました。
同時に、どちらが良くてどちらが悪いということではないけれど、もしかしたら回答してくださった方の中には私と同じように、その人や園の“当たり前”に沿っているだけの対応もあるんじゃないかなとも思ったんです。
ー なるほど。 あくまでも「“私”“うちの園”はこうしていた(いる)」というのは一つの考え方や方法にすぎないということを自覚すること。そこから他の視点や子ども理解に触れたり、考えたりする時間があると、一人ひとりの保育が変わっていきそうですね。
その通りで、正解はないんだけどまずは「知る」こと。そしてその上で自分は何を選択するのか。
そのワンクッションが入るだけで、子どもたちとの日々がより充実するんじゃないかなと思いました。
そこから「保育について、知って、考えて、自分自身や保育を見つめなおす時間」を作れたらと思うようになったんだよね。
もちろん、日々ほいくるが発信していくものもそのきっかけでありたいと思っています。でも、子どもや保育に関わっているのは保育者だけではないので、もっと大きな枠、社会全体で保育や子どものことを見つめ直す機会もつくれたらいいなと。
それが「みんなの保育の日」が生まれたきっかけかなぁ。
ー それで4(ふぉー)月19(いく)日に記念日をつくったんですね。
今回、みなみさんにインタビューが決まった時から聞いてみたいなと思っていたんですけど、なぜ保育の日ではなく“みんな”の保育の日にしたんですか?
これ実は…「保育の日」が記念日登録NGだったんです。保育の日だと一般的な名称すぎて、国の記念日のような印象になってしまうからと(笑)。
ー まさかの回答(笑)。でも、“みんなの”がつくことが大きいなと思いました。保育の日だったら、保育業界にまつわる人だけが関係するような日になっていたのではないかなと。主語が「みんな」になったことで、もっと広く、いろんな人がいろんな立場で保育について考えられる日になったんじゃないかなと感じました。
たしかに、「保育の日」という名称はNGとなった時に、誰のための記念日か?というのは改めて考えたんだよね。
実際、2017年のみんなの保育の日には「こどもはみんなで育てよう」をテーマに、保育者だけではなく、子どもに関わる活動をしている人や保護者も巻き込んだ企画やイベントを、認定NPO法人フローレンスさんをはじめいくつかの団体と共同開催しました。
そこで業界を超えたいろいろな人たちと繋がれたからこそ、普段いかに保育が分断されているかということや、社会で保育を見つめなおす機会がないということを感じたりもしたんだけど。
見つめなおす機会の重要性
ー 「見つめなおす」というキーワードが何度も出ていますね。
目の前にたくさんのすべきことが溢れているなかで、わざわざ立ち止まって見つめなおすって、難しいなと思っていて。でも、「今、やらなきゃいけないこと」だけではなく、「未来も踏まえて重要なこと」にどれだけ時間をつくれるかがすごく大切だと思うんです。
たとえば、明日の保育、来月の行事の準備ももちろん大事だけれど、あれ、わたしって保育において何を大切にしたいんだったっけ、とか、万が一を考えての備えをどれだけ真剣に考えるか、とか。
そのためには、過去と今を見つめなおす(ふりかえる)ことが大事。
でもそう思う一方、「未来も踏まえて重要なこと」に時間を使うのは、すごく大きなことに挑んでいるような気持ちになって、どこからどう考えていけばいいのか分からなくなったり、結局後回しにしてしまいがちになると思うんです。
大事だとわかっていても、日頃、自ら目を向けることが難しい。だから意識的に時間をつくることを、みんなの保育の日を通してやっていきたいなと。
2017年には「今こそ、保育の現場と子どもに目を向ける」という企画も実施しました。
特に保育って、本当に日々目まぐるしく過ぎていきますよね。大事なこと、考えなくちゃいけないことがありつつも、子どもに向き合い、目の前のことについて考えたり、対応するだけでも精いっぱい。
それだけ保育の仕事は大変だということでもあるけど、でもその時に「だからしょうがないよね」で終わらせてはいけないなと思うの。
時に立ちどまって振りかえり、見つめなおす機会を意識的につくらないと、大切な目の前の子どもとの日々が逆に疎かになっていってしまう。
立ちどまって、「よし」と思えれば、それはそれでいいと思うんです。必ず何かを変えるために見つめなおすというよりは、まずきちんと子どもや課題などに目と心を向けることが重要なんじゃないかなと。
もちろん、ほいくるを運営する私たちにとっても同様に大事なことだと思っています。
ー みなみさん自身が、去年の「みんなの保育の日」からこの一年を見つめなおすとしたら、どうでしょう?
そうだなぁ。この一年は、地震や台風などの災害、大津で起こった心が痛む事故、そして新型コロナウイルスの感染拡大と、保育園(者)って、「子どもたちの命を預かる」という大きな責任を担っているということを改めて感じ、考えさせられる年だったなと思います。
今も新型コロナウイルスの影響で社会が厳しい状況にあるけれど、その中でも「保育は社会の下支えの一つだ」と言われ、外出自粛要請が発令されていてもなお、多くの保育園が毎日子どもたちを受け入れている。大げさでなく、保育者のみなさんは必死に子どもたちの命を守りながら、日々保育をしてくれていますよね。
じゃあ私たちほいくるは、そんなみなさんにどんな情報を発信していくべきなのだろうか。
この一年改めて、この情報が届くその先にある保育の現場はどういう状況なんだろう、子どもたちにどんな影響があるだろうということを、ものすごく考えたし、これからより考えていかなくちゃいけないなと思っているところです。
ー どんな情報を届けていくべきか、考えていることがあれば教えてください。
情報が溢れ、記事はどんどん消費される。知る機会がたくさんあるのはいいことだと思うけれど、消費されることで終わってしまってはいけないなと思っています。
今回新型コロナウイルスの影響を受けて、今までほいくるでつくった室内遊びの記事を読みやすいようにまとめて出したりもしたけど、実際に遊ぶだけではなく、子どもたちに合わせてアレンジしたり、一緒に新しい遊びに展開したり。
子どもの姿を起点に、ほいくるのコンテンツは参考までに保育者のみなさんが自分自身で考えたり応用したりする力を支えるような、そんな仕掛けを考えていきたいなぁと。
ー たしかに、災害やウイルス、予期せぬことが起きた時、マニュアル通りの解決で、その場が収まることはすごく少ないです。だからこそ、その状況に対して自分はどう考え、どうアクションを起こすのか、保育者が考え続けられるような情報を届けることが大切かもしれないですね。
保育とは、育ちを保つもの
ー みんなの保育の日がこれから目指していることはありますか?
「まずは、やってみよう」でスタートし、2017年、フローレンス代表・駒崎弘樹さんをはじめとしたたくさんの方々との出会いから、多くの人が関わってくれる日になったなと思います。
でもその後は、正直、継続していくことが難しかった。
ー 何がその難しさをうんでいたのでしょう?
自分たちで何かしなくちゃいけないと思ってしまっていたんだと思います。“みんなの”保育の日のはずなのに、“私たちの”保育の日にしてしまっていたんだよね。
だから2020年のみんなの保育の日からは、この日に寄せてアクションをする人が増えていくといいなと考えています。私たちほいくるが何か実施するというよりは、全国各地でいろんな団体や個人が、保育や子どものことを考えて大小問わず何かしらのアクションをする日にしていけたらなと。
そしてほいくるは、そのアクションを紹介し、広げたり繋げたりする役割として、みんなの保育の日に関わっていきたいなと思っています(来年の保育の日までには、窓口をつくる予定ですので、追ってお知らせします!)。
ー ほいくるでは園取材に行くと必ず、お話を聞いた保育者の方に「あなたにとって保育とは?」という質問をしますよね。
最後にみなみさん自身にも、ぜひこの質問をさせてください。
私にとっての保育は、「育ちを保つもの」かな。
ー 育ちを保つ、とはどういうことでしょう?
遊んであげよう、教えてあげよう、みたいな感覚に違和感があって。子どもたちに何かしてあげるというのは、おこがましいというか。
現場にいた時にも、私が行動することによって子どもの世界を狭めていることもたくさんあるんだなというのを感じて、いかに邪魔しないかということが大事なんじゃないかなと思いました。
その子の育ちを邪魔せず、どうやったら生かせる環境をつくれるだろうって。
そうして迷う中で「保育」という字を見つめた時に、そのままじゃん!って。
保育にはいろいろな役割や側面があるけれど、大前提として保育者は子どもたちの育ちを保つためにそばにいる人で、保育園はそのための場なんだって思ったんだよね。
あと、「保育は子どもと遊んでいるだけ。誰でもできる仕事だ」みたいなことを言われることもあるけど、「保育って、遊びって、大事だよね」ということにもっと胸をはれるようになりたいなと思っています。
保育と強く結びつきのある遊びの重要性をもう少し紐解くことで、“育ちを保つ”ことがうまくできるようになるかもしれない。
そんなことを最近考えています。
インタビュー・執筆:三輪ひかり
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