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「子どもから大人が学び、大人から子どもが学び、子ども同士が学び合い、職員同士が学び合う」おへそグループの在り方

雨宮みなみ
掲載日:2019/12/13
「子どもから大人が学び、大人から子どもが学び、子ども同士が学び合い、職員同士が学び合う」おへそグループの在り方

佐賀県佐賀市にある、「おへそこども園」。
社会福祉法人みずものがたりが運営する“おへそグループ”のうちの1つです。
(園の保育や詳しい様子はこちら

園全体の広い空間に散りばめられた、さまざまな温もりあるこだわりや工夫。
その背景にある、願いや想い、取り組みなど。

園長の吉村 直記さんに、お話をお聞きしました。

全部があって、“おへそ”


おへそグループ理事・統括園長の、吉村 直記さん

ーー今回、保育のようすはこども園を中心に見せていただいたのですが、併設して、おへそつながり(企業主導型保育園)や、おへそ学童場(放課後学童クラブ)、おへそこどもスタジオ(児童発達支援施設)があるんですよね(少し離れたところに、おへそ保育園(小規模保育所)も)。

そうですね。
こども園の運営から始まって、子どもを長い目で見ていくことの必要性を感じたことをきっかけに、学童が生まれました。
年長までにこうしよう、という発想になりがちななかで、「卒園して終わり、ではない環境を作れないだろうか。」という気持ちが出てきたんですね。

育ちの連続性を取り入れたことで、その必要性や、幼児期にどんなことが必要なのかを考えさせられるなど、学ぶことがたくさんありました。


おへそ学道場(放課後学童クラブ)

児童発達支援についても、日々の保育のなかでその分野の知識を高める必要性とその難しさを感じたことがきっかけになっています。
保育園というフィルタを通さずに、児童発達支援という分野に興味がある専門的な人がいることで、全ての子どもたちが主役になれる保育ができると思ったんです。


おへそこどもスタジオ(こども発達教育スクール)

園庭やイベントを共有し、別グループとしてではなく同じ「おへそグループ」での関わりながらも、それぞれの分野に興味関心が高い人たちが全力を注ぐことができ、個別の教育ができる。
さらには、専門性がある場所が同じエリアにあれば、何かあったときにお互いにアドバイスがもらえるというのも、グループとしての良さだなと感じています。


すべての施設をつなぐ、園庭

おへその異年齢って、0歳から12歳まであって、大人もその環境と思えば、すごい年齢幅があるわけですよね。
かつ、ハンディキャップを持った子どもたちも共存していて、双方に刺激し合ったり学び合ったりしながら、子どもたちが育ち合える環境がある。

だからこそ、「全部があって、おへそ」だと思っています。

垣根を越えたチームづくり

ーー実際に園内を見させていただくなかで、重なるポイントや共通してされていることがたくさんあるなと思いました。
たとえば、「おへそ流保育ポイント21」とか、「言語化されたカード」とか。

同じ場所にあるっていうだけではダメというか、お互いにお互いを覗き込むような仕組みがあったり、職員の意識の中でつながったりしなければ、意味がないと思っているんです。

あえて同じことに取り組んだり、同じイベントをしたり。
それは例えば調理室の人も一緒で、“みんなで子どもを見ていく”という意識を持つために、共通のものに取り組んでいます。


保育をするうえでのポイントがつまった「おへそポイント21」

このおへそポイント21は、それぞれにちょっとだけ改良している部分があったり、まだ試行錯誤だったりするんですけど、どうしても保育理念とか教育理念って抽象的になりがちなので、落とし込むために作ってみました。

ーー確かに、一概に「子ども一人ひとりを大切に」と言っても、人によってその受け取り方に幅がありますもんね。

そうなんですよね。
何をもって「大切にします」なのか、どうしたら一人ひとり大切にするっていうことになるのか、とか。

具体的にすると分かりやすいですし、自分自身のなかに眠らせてしまっていてはいけない、と気づく機会にもなって。

例えば、愛情を伝えなくちゃいけないよね、ということでも、「子どもの肌に触れて挨拶をしよう」とか、「なるべく名前を呼んで挨拶をしよう」とか。

“子どもに愛情を伝える”という抽象的なことを、どう噛み砕いて保育に落とし込んでいくかということを、形にするようにしています。

毎月の月案などの振り返りと一緒に、保育のポイントをルーティンに沿ってどうだったかなぁと聞く仕組みになっているので、先生たちも日々子どもを(そのポイントに沿って)見ているような感じになっています。


いたるところに貼られている、言語化されたカード


ーー言語化カードも、同じように職員の意識のつながりを意識されての取り組みですか?

はい。保護者もそうですが、やっぱり職員の意識に向けた部分が大きいですね。
職員自身がどういう意図を持ってやろうとしているのかを、自分たちでつくっていくというか、自分たちで意味をもたせていくというか。

カードは、園長から「こういう風に書いて」というのではなく、職員が自由にカードを作成できるようになっています。子どもたちの主体性を育もうとしている先生たちだからこそ、日々の保育や環境の意図を職員たちが自ら考え、主体性を持って取り組める仕組みを大切にしていますね。


それぞれの得意を活かし合う。大変なことを楽しくする。

ーーおへそグループには、クラスとか施設の垣根を越えた、“チーム体制”があると聞きました。アートとか、音楽とか、哲学とか、それから性教育とか…
クラスとはまた別の軸でチームがあるって、とても興味深いなぁと思ったのですが、その取り組みの目的や、大切にしていることって、どんなことでしょうか?


グループ全体の、チーム体制表

目的は、「クラスや園の垣根を越えたチームを作っていく」こと。
そしてもう一つ、「好きなことで子どもに貢献するっていう部分を保証していく」こと、でしょうか。

やっぱり好きなことをやっていると、生き生きとしますよね。
たとえば、アメトークに出ている芸人さんとかも、すごく楽しそうじゃないですか(笑)。

自分の好きなことをやっている時って、すごく輝いているし、子どもたちも自然と惹きつけられる。保育士になりたいという背景には、子どもたちと関わって楽しく過ごしたい、といった気持ちがあると思うので、自分が好きなことで子どもたちと関わったほうがより楽しいよね、という発想でチームを作っています。

ーーなるほど。
ちなみに、実際に新しいことを取り入れたり、変化したりしていくことって、良いことももちろんたくさんあると思うんですけど、反面、ちょっと大変な側面もあったりしませんか?

ありますね(笑)。

何かを生むということは、何かを削らないといけないと思っていて。
それも同時進行で徹底的に効率を良くしていかなくてはならない。

もしも時間がないとしたら、「時間がない」じゃなくて、「時間をいかにつくるか」という視点で考えたうえで、新しいことを取り入れる。

もしかしたら上乗せになってしまっている部分もあるかもしれないですけど、保育が良くなるように、保育者が良くなるように、という視点を忘れないようにしながら、取り入れていっています。


指導計画。それぞれの担当部分を付箋に書き、貼り合わせて効率よく作成。


100%の子どもたち

ーー吉村さんが、保育で「面白いなぁ」と感じることって、どんなことですか?

面白いなぁと思うのは、やっぱり、子どもが100%でくることですかね。
100%で笑って、100%で泣いて、100%で怒っていて。

ちょっと控えて笑おう、ちょっと控えて泣こう、とかないじゃないですか(笑)。

ーーないですね(笑)。

一方、大人はあるじゃないですか。この場所では…とか抑えたりして。
でも子どもはほぼほぼ、100%で過ごしている。
それってかっこいいなと思いますよね。

それに負けないように、大人も100%で楽しもうと。

子どもたちがそのまま全力投球であれるように育てていくにはどうしたらいいかな、とか。
そういうことを一生懸命考えて、なるべくこちら側の強制ではなくって、子どたちが自分たちの思いをいかに直に実現できるかを応援するために、保育を頑張っているのかもしれませんね。



ーー反対に、難しさを感じることって、どんなことでしょう?

同じかな。
子どもが100%でいられるようにするために、人の問題だったり、協力してくれる保護者だったり、園内の物的環境だったりを、いかにこの場所でつくっていくのか、世の中につくっていくのか…
そのために、何をすればいいんだろう、ということを日々考えていくことに難しさを感じますね。

でも、難しさを追うことが楽しさでもあるので、難しさと楽しいことっていうのは表裏一体という感覚かな、と思います。

どんな気持ちも感覚も、温かく共有できる場所

ーーこれからも、いろいろな変化がうまれていくと思うのですが、子どもたちにとって、おへそグループはどんな場でありたいですか?

そうですね…
子どもから大人が学び、大人から子どもが学び、子ども同士が学び合い、職員同士が学び合う、みたいな、そんな場所になりたいですね。

あとは、被災以降に変わってきた部分もあって。

なんというか、あの被災や環境の制限などを通して、頑張りたくても頑張れなかったり、楽しみたくても楽しめなかったりするんだな、ということを実感したんですよね。
そういう気持ちや感覚を、温かく共有できる場所になればいいな、という気持ちがあります。子どもたちも、職員も。

その時は苦しくても、もしかしたらそれが良い方向に働くかもしれないし、頑張りたくても頑張れない、それなりに楽しもうとしても楽しめないかもしれない。
でも、いつも元気に「おはようございます」と挨拶するのが基本だと、余計に苦しくなってしまう。

だから、悲しみがあれば悲しみを出せるし、喜びがあれば喜びを出せるし、そんな風にして、自分に素直な気持ちで日々の生活を送れるような、そんな場でありたいと思っています。


取材・文・写真:雨宮 みなみ

前編: 「子どもたちが育ち合える環境を」ーおへそグループ おへそこども園(佐賀県佐賀市)

「子どもたちが育ち合える環境を」ーおへそグループ おへそこども園(佐賀県佐賀市)

今回訪れたのは、佐賀県佐賀市にある、「おへそこども園」。
社会福祉法人みずものがたりが運営する、おへそグループのうちの1つです。

“みずから育つ「個」育て”という考えを大切にした保育には、保育者の想いやアイデアがつまった、さまざま な工夫がありました。