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「子どもたちが育ち合える環境を」ーおへそグループ おへそこども園(佐賀県佐賀市)

雨宮みなみ
掲載日:2019/12/12
「子どもたちが育ち合える環境を」ーおへそグループ おへそこども園(佐賀県佐賀市)

今回訪れたのは、佐賀県佐賀市にある、「おへそこども園」。
社会福祉法人みずものがたりが運営する、おへそグループのうちの1つです。

“みずから育つ「個」育て”という考えを大切にした保育には、保育者の想いやアイデアがつまった、さまざまな工夫がありました。


おへその保育・環境

おへそこども園は、同じおへそグループの各施設と、ひとつの園庭を通してつながっています。

今回はこども園を中心に、学道場(放課後学童クラブ)やこどもスタジオ(児童発達支援施設)、つながり(企業主導型保育園)もちょっぴりのぞかせていただきました。

園内や保育のようすを案内してくださったのは、主任の諸岡琴美さん。

実は、この取材に訪れる10日程前の2019年8月に九州地方を襲った大雨により、床上浸水や雨漏り、電気系統の故障など、こども園はとても深刻な状況におかれていました。

取材日にはすっかり水は引き、保育を再開していたものの、いたるところにその爪痕が。

災害を経ての今の保育環境や、子どもたちのようすなどを色々とお話してくださいました。


この日は、まぶしいくらい、良い天気。
事前に「いきたい」と希望していた子どもたちは、干潟体験へ出かける準備中。

一方、園内では、園で遊ぶことを選択した子どもたちが、思い思いに遊んでいました。



大雨の浸水による被害により一部遊べなくなってしまったスペースがあるため、環境設定を変えて、限られたスペースのなかで、それぞれに遊びを楽しめるような工夫がされています。

いつもは裸足で過ごしている子どもたちも、浸水後の床の膨張による木のささくれで怪我をしないよう、上履きを履いていました。


こちらは、「おへそ小学校」という、小学校をイメージして作られたスペース。


乳児期の子どもたちもまた、のんびりと個々のペースで過ごしています。


味わいある“あそび跡”のような子どもたちの作品が、いろいろなところに飾られていました。


園庭でのびのびと遊ぶ子どもたちの姿も。


それぞれの場所でそれぞれに楽しんでいた子どもたち。お昼ごはんの時間には、1階フロアに集まってきました。
席は予約制となっています。自分で座りたい場所を決めたら、そこに名札を置いて、ごはんの準備。

「あ、きょうのおさかな、すきなやつだ」
「これ、あんまりすきじゃない…」
と、おかずごとに量を調整しながらお皿に入れていきます。
スープを入れてくれるお当番さんも、「どれくらいがいいですか?」と一人ひとりに確認しながらよそいます。

その日の気分や体調や好みに合わせて、自分で選んだ場所で自分に合った量のごはんを美味しそうに頬張る姿が印象的でした。

おへそグループのこだわり・工夫

【おへそグループをつなぐ、園庭】

幼保連携型認定こども園、企業主導型保育園、児童発達支援施設、放課後学童クラブと、各施設の子どもたちがみんなで共有している園庭。
自然と広がる園や年齢を越えた関わりを通して、子どもたちが育ち合える環境の一つ。

【地域の達人たちとの交流】

園内には、アートな作品がたくさん。
写真は、地域の達人、ボンドアートの作品に触れて作ったという子どもたちの作品。
アートの他にも、空手やお花など、同じ地域で活動する、さまざまな分野の“達人”と触れ合ったり、発見や学びを広げられる機会がつくられている。

【言語化されたカード】

園内のいたるところに貼られていたカード。
“場”や“活動”、“玩具や道具”など、種類はさまざまで、園と子どもとの様々な場面や関わり方が言語化されている。
なかには、QRコードがついたものまで。
それぞれにどんな意味があるのか。どんな考えのもとに、どうしてそうしているのかなど、一つひとつの意図について、保育者の説明が書かれている。
(詳細は、後編の園長先生へのインタビューでも触れています)

今回の、大雨の災害を通して…

保育園の一階部分が全て浸水してしまったという、2019年8月の大雨。
大雨の翌日に先生たちが園を訪れた際には、園の周辺はまだ腰下ぐらいの高さまで水があったそうです。

取材に訪れた際にはすっかり水は引いていましたが、水を吸って木が膨張し、床がぼこぼこ盛り上がっていたり、そのせいでドアの開け締めができなかったり…
写真のカラーテープが貼ってある部分は、床の盛り上がりにより裂け目ができて、ささくれができてしまっている部分。

園内の水を掃き出し、掃除をし、限られた場所で保育環境を作り、整え、安全面の確認を都度行いながらの子どもたちの受け入れ…

大雨の数日後に保育を再開したものの、受け入れ当時はまだ電気系統の故障で明かりがなく、ランタンを集めての保育だったのだそう。

それでも、ピンチはチャンスと、キャンプのような楽しい保育をしようとポジティブな先生たちに、うれしそうな子どもたち。

「子どもたちが、一番に環境の変化を受け入れて順応していた気がします。」と、諸岡先生もお話されていました。

玄関入ってすぐの床には、こんなポジティブなメッセージが。


「ご注意ください 床の気持ちが盛り上がっています ここに立つと若干、背が高くなりうれしくなります」


想像をはるかに超えるであろう、実際の被害の大きさ、大変さや不安。
でもそれを感じさせないくらいの、先生たちの前向きで明るい姿や連携の強さには、おへそグループが日頃から大切にしている、さまざまな取り組みやチーム体制が大きく関係しているように感じられました。

おへそグループの保育はどんな想いや考えから成り立っているのか、またそれを体現するための取り組みについて、園長の吉村 直記さんにお話を伺いました。

後編は、明日12/13に公開予定です。お楽しみに…!)


取材・文・写真:雨宮 みなみ


後編: 「子どもから大人が学び、大人から子どもが学び、子ども同士が学び合い、職員同士が学び合う」おへそグループの在り方

「子どもから大人が学び、大人から子どもが学び、子ども同士が学び合い、職員同士が学び合う」おへそグループの在り方

佐賀県佐賀市にある、「おへそこども園」。
社会福祉法人みずものがたりが運営する“おへそグループ”のうちの1つです。

園全体の広い空間に散りばめられた、さまざまな温もりあるこだわりや工夫。
その背景にある、願いや想い、取り組みなど。

園長の吉村 直記さんに、お話をお聞きしました。