「あかいぼーるをさがしています!」〜やってみたけれど……そして!〜/青山 誠
(第46回「わたしの保育記録」対象受賞作品)
前編:「あかいぼーるをさがしています!」〜ボールがない!〜
中編:「あかいぼーるをさがしています!」〜けいさつに行く〜
やってみたけれど……そして!
それから4回寝て待った。
ボールはでてこない。
あと2回寝たら1番組はもう卒業だ。
「ちょっと聞いていい?」と愛子さん。
「あの赤いボールをどうしても見つけたい?
もう、あきらめたらいい?
新しいの、買えばいいじゃん!
この3つだったら、みんなどう思う?」
子どもたちは圧倒的に「見つけたい!」。
「そうだねぇ。」と、ぼく。
「でも1番組はもう卒業。貼ってもらったポスター、ありがとうございましたって、はがしにいこうか。」
どのお店でも、気の毒そうに「あらー、まだみつからないの?」といってくれる。
インコの隣のビラもはがす。インコもまだだ。
図書館のビラもこっそり回収。
保育園では「もう少し貼ってあげるわよ。」といってくれるが、1番組のかずくんが残念そうに断る。
「ぼくたち、あさって……そつぎょうなので。」
掃除しながら、みんなの「あーあ」という顔が目に浮かぶ。
そうだよね、でも立派だよ、やれるだけのことはやったよ……あーあ。
公園では西日の中で小学生たちが遊んでいる。
いや、あれは、かずくんじゃないか。
ん?ぼくを呼んでる?何か手に持って....。
ボール!赤いボール!
「ど、どうしたの?それって、あ、あの!」
「みつかったの!いま小学生のおねえちゃんたちがもってきてくれたの!」
少し先に小学生の3人連れが。
走っていって事情を聞く。
その子たちは公園のポスターを目にしていた。
今日、あるマンションの軒下をたまたま覗きこむと、奥に何か赤いものが。
ひとりの子が「あれって、ポスターの。」といって....。
みんなで、「やったー!」
次の日は卒業式前日。
大きい組70人で集合。
「あかいぼーる、みつかったー!」
拍手がわきおこり、やったー!の大合唱。
まるで誰かが卒業に合わせて、とっておきの「おめでとう」を用意してくれたみたい。
1番組、最後の日は、子どもたちの歓声と笑い声に包まれた一日になった。
街では、ときに子どもへの視線に厳しさを感じる。
子どもが子どもらしくいることに、街はあまり寛容ではない。
しかし今回、街の大人たちの、なんとやわらかかったことか!
ボール探しを通して、子どもたちは、街を自分たちの空間に変えていった。
自分たちのアイデアを形にしていくことによって。
大人たちにやわらかく呼びかけることによって。
「あかいぼーるをさがしています!」の大声は、「ここに、こどもがいます!」という、宣言でもあったのだ。
「あかいぼーるをさがしています!」/青山 誠