「あかいぼーるをさがしています!」〜ボールがない!〜/青山 誠
(第46回「わたしの保育記録」対象受賞作品)
ボールがない!
3月のある日。
最初にそのことに気がついたのはたかちゃんだった。
「ボールがない!」
「きのうのきのう、公園にころがってたよ。」
と、花ちゃん。どうやら一昨日しまい忘れたようだ。
「 だれかが、けっていっちゃったかな。」
「風で、はこばれたのかな?」
なくなったのは、サッカーに使っていた、赤いボール。
大人と対戦し、貴重な1点を、勝ちとったボール。
思い出と殊勲がつまった、大事なボールだ。
サッカーをよくやる人たちと、あたりを歩いて探す。
垣根の下、草むらの中、池の底、橋の下……ない!
「どうしたらいいかねぇ。」
ぼくがぼやくと、子どもたちも、わからない、とのこと。
そうだ、こんなときこそミーティングだ!
ミーティング「どうやってさがす?」
りんごの木の『ミーティング』。
車座に椅子を並べてすわり、そのときどきにあったいろんなことを話し合う。
この日は4歳児クラス(2番組)、30人ほどで集まった。
「赤いボールがないんだ。」
ぼくが切りだす。
「サッカーやる人で、歩いて探したけど見つからなくて、困ってるんだ。歩いて探す、の他に、いい考えあるかな?」
ハイ!ハイ!いっせいに手があがる。
「けいさつにききにいく。おとし物みつけた人はとどけるから。もうとどいてるかもよ。」
「このへんのおうちをまわって、きく。」
「留守のおうちも多いかもね。」と、保育者。
「じゃ、『ぼーるさがしてます』って紙を、るすの家のまどに、はっておく!」
がくちゃんが目をキラキラさせていう。
「それはまずいよ。」と、かっちゃん。「新聞うけにいれておくのは?」
「『ぼーるさがしてます』って紙を、新聞にいれてもらう。」
だんだんと話が具体的になってくる。しっかり者の、こっちゃんが続く。
「公園でなくなったんだから、公園に紙をはっておけばいいよ。」
けんちゃんは、別の案。
「人のたくさんいるところで『ぼーるさがしてます』っていいながら、その紙をくばる。」
「それいいね!」
みんなも盛りあがってくる。
「たくさん紙がいるならコピーしようよ。」
「りんごまでの地図も、かかなくちゃ。ばしょをしらない人もきっといるから。」
「その紙をみんなのリュックに貼って歩く。」
と、保育者。
「それなら、からだぜんぶに、はる!」と、ゆうきくん。「あたまとか、おなかとか、おしりとか。」
やだぁ、はずかしい、とみんな。
「いいよ。おれ、やる!」と、ゆうきくん。
最後に、さくちゃん。
「よくお店に『まいごのこねこ、さがしてます』って、はってあるの。『あかいぼーる、さがしてます』って、はってもらう。」
ミーティングっておもしろい。
ともに考え合うことで、誰が何に困っていて、どんな想いでいるかに気づき、ひとりの問題がみんなの問題になっていく。
「仲間」になっていく。
正解はない。
もちろん大人も用意しない。
どうなるかな?とワクワクしながら子どもの隣にいる。
子どもたちは実際、思いもよらぬ考えをだし、行動に移す。
自分たちの次をつくっていく。
その力は子どもたちの中にきちんとある。
さて、ボール探しはどうなるだろう....。
(つづく)
中編はこちら:「あかいぼーるをさがしています!」〜けいさつに行く〜/青山 誠