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「こうあるべき」に振り回されないで。放送作家・鈴木おさむさんが考える子育てと保育<後編>

ほいくる編集部
更新日:2021/01/18 掲載日:2016/04/26
「こうあるべき」に振り回されないで。放送作家・鈴木おさむさんが考える子育てと保育<後編>

前編では、鈴木おさむさんの一児の父としてのあり方、放送作家という仕事ならではの子どもと大人の関わり方を伺いました。

後編では、鈴木さんが目指す子育てや保育士さんに期待すること、大人気のブログを通して学んだことまで、話が広がっていきます。

知育やお受験は重要?保育園に求めること

雨宮みなみ

鈴木さんが育休を終えられた後は、笑福(えふ)くんを保育園に託すことも考えられていたりするんですか?


鈴木おさむ

そうですね、検討しています。僕は、笑福に子ども同士のコミュニケーションを学んでほしくて保育園に入れたいなって。あとはこれからの生活の中の基本的なマナーも保育園という社会で身につけてほしいです。

雨宮みなみ

生活の中のマナーというと、食事のマナーとか、あいさつとか?

鈴木おさむ

そうですね。もちろん僕たち親もやりますけど、保育園という集団だから身につくこともあるのかなって。そのあたりを保育士さんに任せたいです。


最近気になっているのは、かけっことかで順位をつけないこと。個人的には順位をつけたほうがいいと思ってて。同じくらいの能力の子どもたちの中で競争して、もし負けちゃっても「だめだったな」という中でまた学びがあると思うんですよね。子どもが自分のできることと、できないことを認識する機会があったらいいなと。

雨宮みなみ

多様性が叫ばれているのに、平均化されているとは感じることはありますね。子どもの個性を伸ばしたいと思いつつ、つい周りと比べてしまいがちな環境にあったり。


鈴木おさむ

最近は知育とか、小さい頃から英語を習わせるとか、教育熱心な親が多いですよね。でも僕にとって、子どもの学力的な頭の良し悪しはどうでもいい。子どもの興味・関心を引き出して才能を伸ばしたいんですよね。


芸人の浜田雅功さんの息子さんのハマ・オカモトさんって方がいて、彼はすごいミュージシャンなんですよ。たぶん浜田さんの家庭だから、学業に専念させるとか色んな選択肢があったと思っていて……。その中でどうやって息子さんが音楽にハマって、才能を伸ばす環境を作り出したのか、彼の才能にいつ気付いたのか気になりますね!

雨宮みなみ

個性を伸ばしたり、社会の多様性を持たせたりするのであれば、みんなが学力・学歴重視のところに向かわなくてもいいですもんね。

「あの時は」って過去形で語る。でもこれって未来の話


鈴木おさむ

話は変わるんですが、東日本大震災以降、僕の中で大きな変化があって。あんな大地震、今まで誰も起こると思ってなかった。でも実際に起きて、その後親になって……「親は子どもを守る立場にいるから、いつでも危機意識を持っておかなきゃいけない」と強く感じたんです。

雨宮みなみ

震災当時私は保育園で保育中だったんです。子どもたちを目の前に「どう守ろうか」と頭の中でグルグル思考を巡らせていたのを思い出します。普段から避難訓練とかしているから自然と動けるは動けるんですけど、訓練とはやっぱり全く違う。緊張感も、危機感も。

鈴木おさむ

保育士さんだけじゃなくて、親もみんなそうだと思います。どこか楽観的だった。


そしてみんな、「あの時は」って過去形で語る。でもこれって未来の話でもあって。これから何があるかわからない。だから、保育園に預けるにあたって保育士さんにはもっと危機意識を持ってもらって、子どもを守る具体的な方法を考えてもらいたいなと思います。もちろん、親も同じ。

雨宮みなみ

本当にそうですね。普段から様々な可能性を考慮することを意識付けていかなくてはいけないですね。それぞれどんな考え方を元にどんな取り組みをしているのか、いろんな保育園に聞いてみようと思います。親としても気になるところですが、きっと保育園同士も情報共有できたら深まることもあると思う。

自身のブログが悩めるお母さん同士の共感の場になっていることが嬉しい


雨宮みなみ

実は私、鈴木さんのブログを見ているんですけど、毎回すごくたくさんのコメントが付いていますよね。

鈴木おさむ

ブログを見てもらったらわかると思うんですけど、僕、妻が妊活を始めた時から今まで、言いにくいことも「これ、叩かれるだろうな」って内容も、全部書いてるんですよ。妊娠・出産・育児って人それぞれだし不安も多いじゃないですか。だから僕のブログでそういうのを発信して、読者からコメントをもらうことで参考にしてくれる人もいるんじゃないかなーって。

雨宮みなみ

読者の方とのやりとりで印象的だったことってありますか?

鈴木おさむ

笑福は出産予定日を10日過ぎても産まれなくて。それでブログに「予定日を過ぎても産まれない」って書いたら「うちも遅れましたよー!」って励ましてくれる読者がいたんです。


他にも、人工授精や流産とか、人には言いにくいことをどんどん書くと、それについてのコメントがもらえて。僕が励まされるだけじゃなくて、僕のブログを見に来てくれる同じ境遇の読者も励ますことができる。そうして傷を見せ合って共感できる場所を作ることができて嬉しかったですね。


雨宮みなみ

なかなかそういったセンシティブなことを、正直に共有してプラスに向き合える場ってないですよね。一人一人違った悩みや考え方の中で揺れている時期に、そういう場があるのって心強いなと思います。


他に、何かブログの反響ってありましたか?

鈴木おさむ

色々ありますよ。前、ある絵本に「子どもは早い時間に寝かせること、部屋を暗くすること……」みたいにルールが書かれてたんですね。でも、僕らはそのほとんどを実践できてなかった。


そのことをブログに書いたら、「子どもがかわいそう!」と有名なコンテーターの方などたくさんの人から「心配だ」と言われてしまって。落ち込みましたね(笑)

雨宮みなみ

それは……(笑)確かに、妊娠とか出産や育児に関して「こうあるべき」みたいなのってたくさんあふれていて、正直悩んでいるお母さんも多いと思います。私も出産して初めて、あまりにも子育てに関する情報がありすぎてちょっと困惑したりしました。

鈴木おさむ

そうなんですよね。でも、その情報の正しさも時代や専門家の意見によって変わるじゃないですか。それに親たちは振り回される。前に「お母さんが口にする食べ物によって母乳の質も変わるらしい」と書いたら、医療関係者に「あなたは影響力があるんだからいい加減なことを書かないで」って怒られちゃいました。


でも、多くの情報が手に入れられる今、親に求められるのは情報を取捨選択して、その情報を信じきることなんじゃないかと。変に「こうあるべき」という言葉に惑わされてお母さんがピリピリしていたら、それが子どもにも伝わっちゃうから。

雨宮みなみ

そうですよね。取捨選択するのもなかなか難しいですが。


鈴木さんはこれから、この父勉中の期間や子育てを、どういう風に放送作家という仕事に活かしていきたいですか?

鈴木おさむ

ストレスを抱えながら子育てをしてるお母さんたちも多いと思うんです。だから、僕はそんなお母さんたちに生活の中で少しでもいいから楽しさとかおもしろさを見つけてほしい。あとはちゃんと自分を大切にして、その上で子どもと向き合ってほしいかな。


だからまずは自分がそのロールモデルとなって、テレビやネットを通して発信していけたらいいなと思っています。



鈴木おさむ(すずきおさむ)


*鈴木おさむ(すずきおさむ):1972年4月25日生まれ。
高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。バラエティーを中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆等さまざまなジャンルで活躍している。2002年に森三中 大島美幸さんと結婚。2015年に第一子を授かり、一児のパパに。“父勉”と称して一年間の育休を取得中。

雨宮みなみ(あめみやみなみ)


*雨宮みなみ(あめみやみなみ):こども法人キッズカラー代表。中学生時の職業体験で、自然と自分が笑顔でいられる保育の世界に魅了され、保育士になる事だけを目指し20歳で保育園に就職。保育の現場で感じた保育士の不安や負担を楽しさに繋げたい、という想いから2010年にキッズカラーを設立。同年HoiClue♪をスタート。2014年に第一子を出産し、一児の母でもある。

(執筆 サムライト末永 瞳/撮影 サムライト初瀬川 裕介)