しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記Ⅲ(第二回)「おばけの葵さん」

駆け抜けるように過ぎた4月、ではあるけれど、駆け抜けるほど軽やかでもなく、ズンと重い足取りの日もあった4月、でも、少しずつ他者のリズムを感じられるようになってきたような、そこから自分のリズムも見えてきたような気がするそんな季節。
先日の給食会議。やってみたいことを語り合った。「大きいおにぎりが食べてみたい」「おえかきパン」(食パンにチョコペン、ジャムで絵を描くという昔からあるメニュー。)「空をみてたらごはん」(当時のこどもたちが口ずさんでいた歌から作られたメニュー。白いごはんを空に見立てて、そこに海苔の佃煮で絵を描く)をもっと楽しみたい、というアイデアが浮かんだ。
保育者のゆりあちゃんが「食べものの話をするって楽しいですねえ」と言ってくれて、私もうれしくなる。しぜんの国のキッチンは本当に軽やかで大らか。
すぐ次の日に、ちょうど献立とあっていたこともあって、大きいおにぎりや、「出張おえかきパン」を行うことに。
私とマネージャーの葵さんとで、1歳児の部屋に遊びに行き絵を描きに出かける。「何を描いて欲しい?何が好きかな?」子ども一人一人とコミュニケーションを取る。まだ言葉にすることができない子もいる。すると新人のまいかちゃんが「散歩に行くと花をじーっと見ています」「車が好きみたいです」などとそっと教えてくれる。ああ、この季節、傍にいる子どもが何が好きなのかな、と眼差しを向けていたのだな、と思う。
全員分描き終えたところで、0歳児担当のふうかちゃんから「こちらもお願いします!」と、みーちゃんの席に呼ばれた。みーちゃんは、チョコじゃなくいちごのジャム。チョコより難しくて、ちょっと花がつぶれてしまった。
その後、今度は「空をみてたらごはん」の日に、2歳児すみれ組に、また出張に。最近おばけの絵本が好きだということで、おばけになってきて欲しいという担任のしほのさんと、うのさんのリクエスト。
あんまり派手にしたくないので、そこらへんにある布を被って行くことにした。途中で、るりさん(ダウン症のある保育者がしぜんの国にはいます)もいたので誘うことに。葵さんは、フルートを吹きながらの登場。私は、るりさんと一つの布に入って足が4本あるおばけを演出(成り行きで)。
葵さんが布の中で「こいのぼり」を吹くと、るりさんが布の中でマイクを持つふりをする。私しか見えない世界で、思わず吹き出しそうになる。
部屋に着くと、布をかぶるのがあまりにも苦しかったので、布をはいで、さっそく、ごはんに絵を描く。
「おばけ描いて」「車描いて」「こいのぼり描いて」「魚描いて」みんな小さい声でリクエストをしてくれる。パッと見ると、葵さんはまだ布を被って、キャラを守って絵を描いていた。おばけの絵を描いて、横に「おばけ」と描いている・・・。担当のうのさんが「わあ。おばけにサインをもらった」と笑っている。確かに・・・。
そんなこんなで、全員分の絵を描き終わる。さらっと帰ろうと思っていたから、おばけの葵さん(最後までおばけだった)と一緒にスッと事務所に戻った。なんか、へんな日で、しばらく二人でぼーっとしてしまった。なんだったんだろう、でも、なんかおもしろかった。こんな日もあっていいね。
ー このコラムは『しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記Ⅲ』の連載第二回です。
このコラムの連載
しぜんの国保育園 園長美和さんのわっしょい日記Ⅲ (第一回)「春のひかり。まぶしい出会い」