「いかに子どもの声や姿に気付けるかで、あそび歌の楽しさは変わる」保育シンガーソングライター荒巻シャケさんの考える、あそび歌の在り方。
子どもと保育にとって、とても身近なものであり、切っても切り離せない「歌」。
今回は、特にその中で「あそび歌」に力を入れ、その場で子どもたちと共に歌を創りだし、豊かな時間を紡ぎ出している保育シンガーソングライターの荒巻シャケさんにお話を伺いました。
どうしたら子どもとの歌の時間がより豊かで楽しいものになる?子どもと歌う時にどんなことに気をつけるといいだろう?・・・シャケさんのお話の中にヒントがたくさん隠されていました。
荒巻シャケさん
新宿区の公立保育園で6年間保育士として勤務した後に退職。
現在は保育シンガーソングライターとして活動中。町田市在住。
「子どもって面白い」を原点に、オリジナルのあそび歌を創作。あそび歌を通してうまれる、コミュニケーションを大切にしながら、全国の保育関連施設でライブ活動を展開するほか、保育雑誌への執筆・保育者への実技講習、保育者養成校の非常勤講師、Eテレ幼児向け番組への遊びの提供など、活躍の場を広げている。
また、2児の父として子育て真っ最中。
子ども主体というキーワードで僕ができることってなんだろう?
ー 今日はインタビューの前に園ライブを拝見させていただきました。ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
グローバルキッズ日吉五丁目園さんでの定期園ライブ。乳児さんの部屋で1時間半、幼児さんの部屋で1時間、たっぷりとあそび歌を楽しむシャケさんと子どもたちの姿を拝見して、こちらもエネルギーをたくさんもらいました!
ー シャケさんが元々保育士だったということを、子どもたちとの関わり方やシャケさんの佇まいなどから感じました。保育者としても充実した日々をきっと過ごされてたんじゃないのかなと思うと、なぜ保育士からシンガーソングライターへと転換されたのか、まずはそこからお話をお伺いしたくなりました。
いや、実はそんなこともなくて。僕は、大人がルールを決めることの多い保育をしていました。今思い返しても、その中で自分は子どもに何ができていたんだろうと思います。
でも、あそび歌を創り始めるきっかけをもらったのも、この保育園で勤めている時でした。
当時同じ地区の別の保育園に、10年先輩の男性保育者がいて、すでにあそび歌を創っていたんです。それで、僕が新人プロフィールに「作詞作曲が趣味です」と書いていたのを見つけてくれて、「一緒に創ってみない?」と誘ってくれました。とにかく「面白そう!」と気持ちが動いたので、迷いはなく即決でOKしました。
ただ、僕は保育者としては新人。保育のことも、子どものことも全然理解していない中で歌作りを始めたので、作った歌を歌っても子どもが全然一緒に歌ってくれないとか、そもそも話も聞いてくれないような状態になったりすることも多かった。でも次の日、その歌を子どもが口ずさんでくれたりする姿もあったりして、子どもと一緒に歌うことに惹きこまれていきました。
それで、保育士2年目の頃に、楽譜集を出版しましょうというお話をいただいたんですけど、そうなってくると、保育の仕事でなにかあった時に、「外でそういうことやってるから仕事に集中できていないんでしょう」と、全部歌のせいにされるようなこともあったりして・・・自分が保育者として至らないところももちろんあったんですけど、結構苦しい時期でした。
そこから二足のわらじを6年続けたんですが、「たった1回の人生に自分がやりたいことってなんだろう」と考えた時に、音楽を通して子どもと関われるんだったらそこにかけてみようと思い、『保育シンガーソングライター』としてやっていくことにしました。
ー そうだったんですね。今のような子どもと一緒につくりあげていくあそび歌のスタイルはその当時から?
保育シンガーソングライターとして仕事をしていこうと決めた数年後に、保育者養成校の非常勤の仕事をさせてもらうことになりました。これから保育者を目指す学生の前に立つにあたり、あらためて保育のことも学びたいと思って、保育の研究会に通ったり、本を読んだりするようになったのですが、その学びの中で「子どもが主体」というキーワードに出会ったんです。
「えー、こんな面白い保育実践があるんだ!」とか「子どもってやっぱりすごい!!」とあらためて思ったのとともに、「子どもが主体」というキーワードで、自分があそび歌を通してできることは何だろう?と考えるようになりました。それで突き詰めていったら、今の形になってきました。
持続可能なあそび歌
ー 子ども主体のあそび歌。たしかに、保育の中で歌の時間を持とうとすると、どうしてもその場を大人が主導して進めてしまったり、正しく歌うことに重きを置いてしまったりすることがあると思うのですが、シャケさんと子どもたちのやりとりを見ていると、歌って自由なんだな、その場で作っていいものなんだと気付かされます。
そう言ってもらえて嬉しいです。僕自身、いかに僕の手から離れて子どもたちが遊んでくれるかということを大事にしているので、このあそび歌のスタイルを「持続可能なあそび歌」と表現しています。自分(大人)が主導権を握って進めるんじゃなくて、子どもと一緒に作っていきたい。その方が絶対面白いと思うんですよ。
ー 今日、乳児クラスでライブをしていた時に、子どもたちが1つの曲を30分くらい楽しんでいました。小さな人の集中力は数分しか続かないとよく言われますが、その遊びや時間が子ども自身のものになっていると本当はそんなことはないんだなと感じました。
そうですね。僕もあそび歌を創り始めた頃に、子どもたちってこんなにできるんだというか、彼らを信じられていなかったなと反省したことがあります。そこから作品を作るときに意識するようになったのが、「余白」を作ること。要は歌詞の一部分を子どもが想像していくらでも変えていけますよというところを作るようにしているんです。
たとえばさっきのライブでもやった「ピーピーバックします」という曲だと、乗り物の部分を車にも、飛行機にも、バイクにも、新幹線にもできて、子どもたちが一緒に歌う中で「そこの部分を変えていいんだ」と気付くと、僕が次どうする?と言わなくても、子どもが勝手に「つぎは、しょうぼうしゃ!」って言ってくる。そうすると、1、2歳児は乗り物じゃない概念もぶつけてきたりするんですよね。
園ライブ中、ずっと動き回る子どもたち。
ー たしかに今日も、おばけが登場していました。
そうなった時、それも面白いねってできる限り面白がって受け止めたいなと思っています。もちろん、じゃあ全部面白がれるかと言ったら、ちょっとそれはなーと思うものも出てくる。それこそ盛り上がってくると、うんちとか言う子が出てきたりするので(笑)。そういう時は、「シャケちゃんそれはちょっと嫌なんだけど〜」とか「何回もやるのは嫌だから1回だけにしない?」と、その子が言ったことを否定するっていうよりは、こちらの意見として伝えるのも大事にしています。
全部子どもの声を聞こうと思うと、パンクしちゃうっていうか、バランスが取れなくなっちゃうので。結構そういうところで、保育現場の皆さんも苦労されているんじゃないかな。僕もうまくいかない日はやっぱりあるし、その場その場でどう対応するかとずっと考えてるので、ライブ後は体力面より精神面の疲労感のほうが強いくらい。
今日も2階(幼児クラス)で「もりのオオカミ」はどうしてもやりたくないという子と絶対やりたいという子がいましたけど、僕の心はもうずっと揺れてるんですよ、どうしようって。でも、こっちで決めることでもないから、子どもたちに「どうしたらいい?」と投げかけてみたり、「こうするのはどうかな?」と提案してみたり。結局はオオカミをやることにしたから、やりたくないと言った彼女は場から離れて違う遊びを始めたけれど、終わった後に1番最初にタッチしにきてくれたんです。「今日怖いオオカミやっちゃってごめんね」と声をかけたら、「全然大丈夫だよ」と。
でも、そういう日もあれば、去年同じようなやり取りがあった時は、「(オオカミじゃなくて)パイナップルならいい」って誰かが言って、即興で「パイナップルプル」という歌を作ったこともあって。
ー 面白い!本当に子どもたちとその場で歌を作ってるんですね。
考え込んで作った歌よりも、即興で作った歌の方が子どもたちの間で流行ったりするので、面白いです。しかもそれって、この園でしか流行らない。
違う園では、「鬼公園(大きな鬼の滑り台がある公園)という公園に行ったから歌を作って」と言われて、即興で鬼公園という歌を作ったことがありました。その曲もその園だけで今も歌われ続けていて、遊びと同じように、そこの園の環境とその時の前後のやり取りでしか生まれてこないような歌ってあるなと感じています。
「私たちが求めているのはそれじゃないよ」
園ライブをやると、子どもたちに気付かされることばかりなんです。
たとえば、なんどもライブでお邪魔している園さんに行ったときに、いつも同じ曲ばかりはよくないかな?と思って新しい曲を何曲もやったことがあったんですけど、終わってから、「シャケちゃん、今日はりきりすぎ」と子どもに声をかけられて(笑)。ああ、子どもたちが求めているのはそれじゃなかったんだと気付かされました。
他の園では、ライブが終わったら、突然蹴りを入れてきた男の子がいて、その子はライブ中一生懸命に「次はこれがいい」とアイデアを言っていたのに、シャケちゃんが全然聞いてくれなかったと。そうだったのか、ごめんねと話を聞いてみると、バンダナを振り回してヘリコプターに見立てるあそび歌にちなんで、針がまわるからと「時計」のアイデアを出してくれていたことがわかった。めっちゃいいこと言ってたのに、やっぱり全員の意見は拾えないということを改めて突きつけられて、そこからなるべく最後にみんなのアイデアを並べた形で歌ってみることもするようになりました。
ー 今日も「ピーピーバックします」の曲で、1つの乗り物だけでなく、4つくらい乗り物を登場させて歌っているときがありましたね。
でもあれもいいようで悪くて、大人は都合よく何個も入れればいいって思うけど「ちがう!僕はずっとスポーツカーがよかったんだ!!」みたいなことを言われる時もあるんですよ。子どもは全然納得してないんですよね。
まだ盛り上がってるのに次の歌にいったりすると、「この歌じゃない!」と、2歳児が言ったりするんです。「さっきの歌もう1回やりたかったの?」と聞くと「うん」と言うのでまた元に戻ったりして。
今日も「うさぎがぴょんぴょん」を2回歌って、結局「ピーピーバックします」に戻ったけれど、ずっと「うさぎがぴょんぴょん」がいい日もあるんですよ。でも今日のあの時間は「ピーピーバックします」だったんでしょうね、きっと。
自分が飽きてそろそろ曲を変えたいなとか、一度子どもたちの気持ちを落ち着けた方がいいんじゃないかなというような邪な大人の感覚が出た時に、子どもたちの気持ちとのずれが生じて怒られている気がします。「いや、私たちが求めてるのはそれじゃないよ」って。
いかに子どもの声や姿に気づけるかどうかで、あそび歌の楽しさも変わってくるなと日々実感しています。
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園ライブ会場・インタビュー場所提供:グローバルキッズ日吉五丁目園
撮影:雨宮 みなみ
この記事の連載
保育シンガーソングライター荒巻シャケさんに聞く、「自発的に楽しめるあそび歌」になる4つのポイント
後編では、あそび歌を子どもたちと共に歌うときの工夫や気をつけるべきことについて、具体的にお話いただきます!