保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「やらない子」〜造形あそびとこどもたち Vol.5〜

矢生秀仁
掲載日:2023/08/12
「やらない子」〜造形あそびとこどもたち Vol.5〜
子どもたちと造形活動をしている中で、保育者の皆さんが「どうしたらいいだろう」と困る子どもたちの姿の一つが「やらない」ではないでしょうか。
僕は、この「やらない」と言う姿にも様々な育ちがあるように思います。
今回は、それについて紹介したいと思います。

2023年度からスタートした、連載コラム「造形あそびとこどもたち」。
造形の時間を通して出会った子どもたちの姿から、その奥にある子どもの世界を覗いていきます。

今回出会ったのは…


やらない子

毎月造形を担当している、ある幼稚園でおばけづくりのワークショップをやったときのことです。
僕は導入の時、何の気なしに「今日はみんなが怖いお化けを作ろう!」と言って始めました。

するとケンちゃんは難しい顔をしながら、画用紙をみていました。
しばらく様子を見ていたのですが、そのあともしばらく続いていたので、途中で「ケンちゃん、なにかわからないことあったらいってね。」と声をかけました。すると一言。
「みんなが怖いお化けって難しいね。」

ケンちゃんはみんなが怖いと言うことを真剣に考えていたのです。
それを聞いてハッとする僕。
「そっかそっか。考えているところ邪魔してごめんね。じっくりやってね。」そう伝えてそばを離れました。ケンちゃんのやらないようにみえる姿は、考えている姿なのでした。

一方、みんながワイワイ言いながら作り始める中、少し不安そうな顔で戸惑っている「やらない」姿のさっちゃんもいました。さっちゃんに「今日の工作の説明わかった?」と聞くと、「ちょっと難しかった。」と教えてくれました。
そこで、「そっか、そっか。じゃあゆっくり説明するから、一緒にやろう。」と言って活動を始めました。

さっちゃんは説明がわからなかったから、「やらない」のでした。


また別の保育園でのことです。
こちらも毎月造形を担当しているクラスにて。
いつも造形の時間が大好きなヒロ君がその日は、何やらのらない様子でした。
いつもなら一目散に材料を取りに来るのに、今日はむすっとしているというか、作ろうという雰囲気がありません。
担任の先生に話を伺うと、造形活動の前の時間に隣のクラスの友達と喧嘩をしたんだそうです。だから造形活動をやりたいかどうか以前に、作って遊ぼうという気持ちになれなかったのでしょう。

また別の園では、こんな子の姿もありました。
こどもたちに、その日のワークショップの説明をすると、るーちゃんが僕のところにきました。
「わたし、今日違う遊びやりたいからやらなくていいかな?」「もちろん。やりたくなったらいつでもおいで。」「わかった。」そんなやりとりをしてからしばらく違う遊びをしていました。
しかし、そこからさらにしばらくして、他の子の作っているものが完成してそれで遊び始める友達の姿を見るとまたやってきて、「やっぱりやってもいい?」「もちろん!」

最初は、工作よりも、自分の好きな遊びの方が「やりたい」というワクワクが勝っていたのでしょう。
けれど、他の子どもたちの完成した作品や遊ぶ姿を見て、「なるほど!今日はこんなものが作れて、遊べるんだ!それなら私もやりたい」と工作にもワクワクして、途中から入ってきたのでしょう。


こんなふうに「やらない」と言う姿にもいろいろな理由があります。
今日は四つの姿を紹介しましたが、他にも様々、こどもたち一人一人違うのだと思います。
ですから、その理由によって、保育者の関わり方も変わってくる。

方法がわからないのであれば、じっくり教えたり、一緒にやる。ワクワクしていないのであれば、ワクワクして、やりたくなるのを待つ。
じっくり考えているならば、その姿を受け止める、見守る。
というようにこどもひとりひとりにあわせた関わりが大切だと思います。

そして、なにより「やらない」と言うその子の判断にも、育ちがあります。

こどもたちの「やらない姿」を前にしたとき、「あの子、できないのかな教えてあげなきゃ」と言う一択で、すぐに関わりにいくのではなく、一度深呼吸をして。
いろんな理由を想像しながら、じっくり子どもたちと関わっていけたらいいですよね。


明日も子どもたちと穏やかで素敵な1日になりますように。