身近な大人ほど気づいてほしい「ムコ多糖症」 〜早期発見につながった保育者の違和感とは?〜
何か気になる…。毎日子どもたちを見ていると、ふと気づくことがあると思います。
そうした保育者の気づきがきっかけとなり、病気の発見につながったケースがあるそうです。
「ムコ多糖症」という病気をご存知ですか?
その発見・診断に立ち会った、佐賀県の小児科医の円城寺しづか先生、垣内俊彦先生にくわしいお話をうかがいました。
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お話を聞いたのは…
(左)円城寺しづか先生と(右)垣内俊彦先生
円城寺 しづか 先生
富﨑小児科院長。長崎大学卒。
父が開業した医院を引き継ぎ2018年より現職。幼稚園などの嘱託医も務める。
垣内 俊彦 先生
佐賀大学医学部附属病院 小児科 診療准教授。
自治医科大学卒。僻地医療などに関わったのち佐賀大学に勤務。先天性代謝異常を専門とする。
幼稚園の定期健診から見つかったムコ多糖症
ー 今回のムコ多糖症の発見は、幼稚園での定期健診がきっかけだとうかがいました。円城寺先生は最初どのようなことから気づいたのでしょうか?
円城寺先生:
定期健診の際に、その子を見たときに何となく違和感を感じていました。ムコ多糖症には特有の顔つきがあって、その特徴がありました。「ムコ多糖症かもしれない」とピンときました。
そこで園の保育者さんだけを呼び止めて「このお子さん、気になるところありませんか?」と聞いてみると、「そうなんです。ちょっと気になっています」と。どうやら発達の遅れもあるということでした。顔つきだけなら生まれつきという可能性もありますが、発達の遅れもあるというので、おそらく間違いないなと思いました。
ー お子さんのご家族も違和感を持っていらっしゃったのでしょうか?
円城寺先生:
保育者さんが言うには、とりわけお母さんが発達の遅れを気にされていて心配されているということでした。でも、どこに相談していいか分からなかったようです。
そこで、一度私の医院に来ていただき、正確な診断のために垣内先生への紹介状を書きました。
垣内先生:
ご紹介いただいた後、いくつかの検査方法を用いて確定診断を行いました。
結果は、やはりムコ多糖症でした。かなりめずらしい病気で、おそらく佐賀県では初の診断事例ではないでしょうか。
円城寺先生:
私も長いあいだ小児科医をやっていますが、研修医時代に1人出会ったか、出会わないかぐらいで、はっきり確定診断につながったのは初めてのケースです。
ー 診断後のご家族はどんな様子でしたか?
円城寺先生:
実は、保育者さんに「ムコ多糖症はこんな病気です」と、特有の顔つきなどの情報をお見せしたところ、そこからご自身でいろいろ調べて、診断の前に保育者さんからご家族にも共有されていたようです。
垣内先生:
とはいえ診断直後はご家族もショックを受けておられました。けれども長いあいだモヤモヤを抱えていたので、はっきり病名が分かり、治療法もあるということで、かえって安心されたようです。
今後の治療方針についてご説明していくと「ずっとモヤモヤしていたので診断をつけてもらって本当に良かったです。これから前向きに治療に取り組んでいけそうです」とおっしゃっていただきました。
ー 治療を開始してからの変化はありましたか?
円城寺先生:
現在は垣内先生がムコ多糖症の主治医、私が小児科のかかりつけ医としてその子を診ていますが、以前は風邪や中耳炎をくり返していたそうです。
けれども今は表情が生き生きしてきました。以前より身長も伸びて、顔つきもずいぶん変わりましたね。
垣内先生:
その子どもには扁桃肥大(のどの奥の腫れ)がありました。これはムコ多糖症の症状のひとつで、いびきや睡眠障害の原因になっています。
そこで切除手術を行いました。これはムコ多糖症と診断されたから原因が特定できたことのひとつです。手術後は夜ぐっすり眠れるようになり、昼間がとても活動的になったと聞いています。
円城寺先生:
お母さんもいろいろ不安だったと思うんです。でも原因が分かって、お母さんの表情も明るく柔らかくなりましたね。
垣内先生:
ご家族も病気をみつけてくれた円城寺先生に大変感謝されています。
家族や保育者が気づくことがとても大切
ー ムコ多糖症はめずらしい病気ですが、早く発見することが重要だと聞きました。どのような症状があるのでしょうか?
円城寺先生:
先ほどお話ししたとおり、特有の顔つきがあります。ほかにも主な症状としては、大きな蒙古斑、くり返す中耳炎、いびきなどがあります。ただ人によって症状はさまざまで、あまり目立たない場合もあります。
今回は発達の遅れが現れてからの診断になりましたが、できれば発達の遅れがみられる前に治療を開始できるのが理想です。早く発見できればそれだけ早く治療を開始でき、病気の進行を遅らせることができるかもしれません。
垣内先生:
ムコ多糖症は小児科医でも診断の機会が少なく、医師だけのアプローチでは発見に限界があります。明らかに病気だと分かる子なら、病院へ行きますよね。
でも一番重要なのは、普通に元気に幼稚園や保育園、こども園などに通っている子の中から早期に発見すること。
ですから身近な人が違和感に気づくことがとても大切です。
ー身近な人というと、ご家族や保育者ということになりますか?
垣内先生:
子どもと接する時間が長いことを考えると、1番目はやはり親御さんや保護者ですね。そして2番目が幼稚園や保育園、こども園などの保育者になると思います。
さらに医師や保健師などが関わる機会ということでは、3番目が幼稚園、保育園、こども園で行う定期健診、4番目が保健師さんが時間をかけて話を聞いてくれる1歳半・3歳健診で発見できる可能性が高いと思います。
円城寺先生:
いくつかの園で園医を務めていますが、やはり保育者さんは子どもたちをよく見ているんですよね。ちょっと気になる子がいると「この子、気になります」と声をかけてくれます。
保育者の視点はとても重要です。
垣内先生:
例えば定期健診で100人も園児がいると、一人一人にそこまで多くの時間はかけられませんし、事前に分かる情報も限られています。
そんな中で普段の様子をよく知る保育者から「気になります」という一言があると、病気に気づく大きなきっかけになると思います。
医師から保育者に伝えたいこと
ー 子どもに違和感をおぼえたら、保育者としてはどうしたらいいでしょう?
円城寺先生:
気になったことをモヤモヤしたままで終わらせないことが大切です。定期健診の際に園医に一言伝えてもいいですし、保護者の方にできるだけ早く小児科医に相談するよう伝えてもらえればと思います。各家庭で、予防接種を受けに行くかかりつけの小児科があると思いますので、予防接種のついでに相談することを勧めるのもいいと思います。
垣内先生:
ムコ多糖症は医師でも判断に迷うケースがあります。ですから検査をしても必ずムコ多糖症と診断されるわけではありません。実際、私もムコ多糖症を疑って検査したら違っていたというケースがありました。
でも、もし違っていた場合も、病気ではないと分かったことが安心材料になると考えるといいかもしれません。
円城寺先生:
今回はご家族も以前からモヤモヤを抱えていましたが、そうではない場合もあります。
保育者だけが違和感に気づいているけど、ご家族は気にしていないというケースです。これがなかなか難しいんですよね。
ー そうした場合、保育者はどう対応すればいいですか?
円城寺先生:
園医に一度相談して、「園医がこのように言っています」と伝えていただくのがいいと思います。専門家である医師のアドバイスならご家族も受け入れやすいと思いますので、園医の存在を活かしてコミュニケーションをとってください。
垣内先生:
それはいい方法ですね。基本的にはご家族も正確なことが知りたいと思っているはずです。
モヤモヤをずっと引きずるよりも、相談して違っていたら違っていたでいいし、もし病気が確定すれば次の治療へ進むことができますから。
円城寺先生:
ぜひムコ多糖症には相談先があること、治療法があることを知ってほしいと思います。
ムコ多糖症ってどんな病気?
ムコ多糖症は、生まれつきある酵素の働きが弱かったり、あるいは酵素がないことが原因で、全身にさまざまな症状が現れます。ムコ多糖症は進行していく病気のため、なるべく早く診断を受けて、治療を開始することが大切です。
ムコ多糖症にはこんな症状が見られます
広範囲の蒙古斑、中耳炎をくり返す、眉毛が太く濃いといった顔つき、発達の遅れがある、いびきをかくといった主な症状があります。どんな症状が現れるか、また症状がどの程度かは人によってさまざまです。
以下のいくつかの症状が重なった場合には、ムコ多糖症の可能性があります。
図)からだのさまざまな場所にみられるムコ多糖症の症状(サノフィサイトより)
相談できる場所があります
もし、どこか違和感を覚えるお子さんがいたり、モヤモヤを抱えて悩んでいるご家族がいたら、そのままにせず、早めに園医に相談したり、子どものかかりつけ医などへの相談を勧めてください。以下のサイトでも、情報収集や相談ができます。
ムコ多糖症の解説
・「ライソゾーム病の症状や治療に関する情報サイト ライソライフ」内「ムコ多糖症とは?」
患者さんやご家族の相談窓口
【医学監修】
埼玉医科大学 ゲノム医療科 希少疾患ゲノム医療推進講座
特任教授 奥山 虎之先生
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