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「人って、群れてこそ育っていく動物だと思う。」柴田愛子さん×スクールカウンセラー 鈴木綾子さん<番外編>

三輪ひかり
掲載日:2022/04/28
「人って、群れてこそ育っていく動物だと思う。」柴田愛子さん×スクールカウンセラー 鈴木綾子さん<番外編>

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする新連載「井戸端aiko」。

第3回目のおしゃべりのお相手は、神奈川県にある小・中学校でスクールカウンセラーをしている臨床心理士の鈴木綾子さん。

盛り上がったおしゃべりの中で、泣く泣く本編からはカットした「愛子さんと鈴木さんのこぼれ話」を、番外編としてお届けしたいと思います。

井戸端aiko 第3回 柴田愛子さん ✕ スクールカウンセラー 鈴木綾子さん

前編:「役立たずと思われてもいい。時間を味方につけるのが私たちの仕事。」
後編:「小学校で困ったっていいじゃない!」

「発達障がいの子がいて、発達障がいじゃない子がいる」わけじゃない。

愛子さん
その子の特性を受けとめようとしている学校も増えてきたじゃない。たとえば教室に入れない子だったら廊下でいいよ、校長室使いなよ、とかさ。全国的に、そういうふうに向いているものなのかしら?

鈴木さん:
向いていると思うよ。向いてきていると思うけど、「みんな〇〇できたほうがいい」とか、「みんな教室に入れたらいい」というような思いを、根っこの部分ではゼロにはできない先生もいるかもしれないね。

でも「こういう子もいていいよね」という視点でクラスを見てみようとする先生は増えてきているし、最終的には校長裁量でできることを探る感じだけど、合理的配慮として、黒板を写すことが間に合わなくて話が聞けないなら写真を撮るとか、読み書きに少し時間がかかるならテストの時間を延ばしたりしている学校もある。

私自身も、「発達障がいの子がいて、発達障がいじゃない子がいる」という理解ではないから、どのくらいどこに困っている感じがあるのかを子どもや先生と一緒に考えて、その困っているところにどう手当てしていくか。その困っている気持ちが少し減るならいいよねって考えてるな。

愛子さん
そうよね。特徴のある子の中には最初警戒しているから部屋に入らない子もいるじゃない。遊んでいるときは平気なんだけど、集まる時に入らなくなる。でもりんごの木だったらね、それでよしにしてる。

というのもね、そういう子は、最初は離れたところで遊んでいるふりをするの。でも、だんだんと近づいてくるんだよね。集まりの話の内容に興味があるかは知らないけど。それで椅子を車座に丸くするときにひとつだけ反対向き(外向き)にしてあげたのよ。そうするとそこに座るんだよね。そうこうしているうちに、自分で椅子を前向きにしたりする。

そういう姿を見ていると、安心した空間で安心した人たちの中だと、みんなと同じ空間にいることも心地良いっていうふうになるんだなあと思うのよ。

前にハヤトっていう子がいたの。集団に入るのが苦手な子だったんだけど、運動会のリレーにどうやったらハヤトに参加してもらえるだろうって子どもたちが考えて、コーナーの2、3か所に室外機の写真を貼った段ボールを置いて「ハヤト、ハヤト!」って呼ぶことにしたのよね。ハヤトが室外機が大好きだったから。そうしたらハヤトがちゃんと走ってきて、「ひたちじゃない」とか言っちゃってさ。ああ、そうですか“日立”じゃないとダメでしたかって(笑)。


愛子さん

だから、子どもたちはカタログとか見ながら苦労して日立のマークを描いたりしたんだけど、そこから彼は変わってくるんだよね。やっぱり自分が大事にされている思いって伝わる。しかも、運動会が終わったあと、子どもたちの間で室外機探検が流行って、マンションの間を歩き回って「これはどこどこのメーカーだ」とかって。こうなるとさ、仲間がいることの嬉しさも感じていたと思うんだよ。

私はね、人間って群れている動物で、群れていて心地よい、群れてこそ育っていく動物だと思っているから、それはどんな子にも当てはまる話なんじゃないかなって思うの。でも、小学校にあがると勉強っていうのが入ってきちゃうから、なかなかその状況をつくることが難しいのかねぇ。

鈴木さん:
学校には、この期間までにこの単元まではやらなくちゃいけないというのがあるから、子どもたち一人ひとりのリズムに合わせるのが難しかったり、先生たちが子どもを見守る視点を持つのが、担任の1年間と短いこともあるかもしれない。

それこそ赤ちゃんの時におむつが取れないと心配になったりするけど、「大人になってまでおむつしている子なんていないから大丈夫よ」って、結構みんな言うじゃない。勉強でもそういう感覚でいられるといいな。別に1年生で足し算・引き算ができなくても、大人になったら誤魔化す方法はいくらでもあるよって。

愛子さん:
余計な話かもしれないけど、なんでもきっちりしたがる先生っているじゃない。この前もあるお母さんが、「筆箱の中の鉛筆の向きまで先生が決めるんだ」って子どもが言うから、「先生はこう言っているけど、ママはごちゃごちゃでもいいと思う。〇〇ちゃんはどうしたいか自分で考えたら?」って言ったら、結局子どもは向きを揃えたんだって、教えてくれて。

そういうのって、どう思う?

鈴木さん:
いいんじゃないかな?別にそこに魂を売っていないというか、そうしている方が楽だからそうしているだけってくらいかもしれない。そこで反抗して「自分はこういうスタイルでいくんだ!」というのは、他の場面でもう充分にやれていて、鉛筆揃えるくらい、自分は窮屈に感じないよくらいでやってたりすると思う。

愛子さん:
そうか、そうだよね、私もそういう時期が子どもの頃にあってもいいと思う。従っているけど、「これってどうでもいいことなんじゃない?」と思っている自分に気がついていればいいよね。



「井戸端aiko」おしゃべりのお相手は…

鈴木綾子さん

1977年、神奈川生まれ。
大学では心理学を学び、大学院在学中に「フリースペースたまりば」(現在は認定NPO法人)と出会い、「命を真ん中に」した子どもたちとの関わり方を知る。人が人を支えるとはどういうことか、常に自分の問題と向き合いながら誰かのそばにいるという姿勢、深いところで人と繋がっていくことに魅力を感じ、2002年からスタッフとして関わりはじめる。2007年より横浜市のスクールカウンセラーを兼務。現在は、「りんごの木」で親子の相談にものっている。
公認心理師・臨床心理士。

柴田愛子さん

1948年、東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。
1982年、「子どもの心に添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。保育のかたわら、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。テレビ、ラジオなどのメディアにも出演。
子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。
著書 
「子育てを楽しむ本」「親と子のいい関係」りんごの木、「こどものみかた」福音館、「それって保育の常識ですか?」鈴木出版、「今日からしつけをやめてみた」主婦の友社、「とことんあそんで でっかく育て」世界文化社、「保育のコミュ力」ひかりのくに、「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」小学館、絵本「けんかのきもち」絵本大賞受賞、「わたしのくつ」その他多数。



取材・撮影:雨宮 みなみ



この記事の連載

「役立たずと思われてもいい。時間を味方につけるのが私たちの仕事。」柴田愛子さん×スクールカウンセラー 鈴木綾子さん<前編>

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りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする連載「井戸端aiko」。

小学校入学をひかえる時期は、子どもや保護者、そして保育者も、気持ちが揺れたり、不安に思うことがあるかと思います。
そこで第3回目は、神奈川県にある小・中学校でスクールカウンセラーをしている臨床心理士の鈴木綾子さんとおしゃべりすることにしました。

「小学校で困ったっていいじゃない!」柴田愛子さん×スクールカウンセラー 鈴木 綾子さん<後編>

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