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「小学校で困ったっていいじゃない!」柴田愛子さん×スクールカウンセラー 鈴木 綾子さん<後編>

三輪ひかり
掲載日:2022/04/20
「小学校で困ったっていいじゃない!」柴田愛子さん×スクールカウンセラー 鈴木 綾子さん<後編>

りんごの木子どもクラブの柴田愛子さんが、子どもの世界の淵(ふち)にいる方とおしゃべりをする新連載「井戸端aiko」。
第3回目のおしゃべりのお相手は、神奈川県にある小・中学校でスクールカウンセラーをしている臨床心理士の鈴木 綾子さん。

前編は、スクールカウンセラーとは?という話から、おふたりそれぞれの子どもへの眼差しと関わり方へと話が深まっていきました。

後編では、気心知れたお2人だからこそ、ちょっと突っ込んだ話に。みなさんの現場にいる子どもたちや保護者の方のことを思い浮かべながら、読んでほしいなと思います。

「井戸端aiko」おしゃべりのお相手は…

鈴木 綾子さん

1977年、神奈川生まれ。
大学では心理学を学び、大学院在学中に「フリースペースたまりば」(現在は認定NPO法人)と出会い、「命を真ん中に」した子どもたちとの関わり方を知る。人が人を支えるとはどういうことか、常に自分の問題と向き合いながら誰かのそばにいるという姿勢、深いところで人と繋がっていくことに魅力を感じ、2002年からスタッフとして関わりはじめる。2007年より横浜市のスクールカウンセラーを兼務。現在は、「りんごの木」で親子の相談にものっている。
公認心理師・臨床心理士。

柴田愛子さん

1948年、東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。
1982年、「子どもの心に添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。保育のかたわら、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。テレビ、ラジオなどのメディアにも出演。
子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。
著書 
「子育てを楽しむ本」「親と子のいい関係」りんごの木、「こどものみかた」福音館、「それって保育の常識ですか?」鈴木出版、「今日からしつけをやめてみた」主婦の友社、「とことんあそんで でっかく育て」世界文化社、「保育のコミュ力」ひかりのくに、「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」小学館、絵本「けんかのきもち」絵本大賞受賞、「わたしのくつ」その他多数。

その子が自分を取り戻していくことになる一言を

愛子さん:
スクールカウンセラーがいない時代も長かったじゃない。そう考えたときに、失礼な言い方だけど「スクールカウンセラーがいる意味」ってあるのかしら?

鈴木さん:
一応、足しにはなっているかなって思うな。

愛子さん:

なぜこんなこと聞いたかって言うとね、私は担任の先生がもっと子どもを大事にすれば、カウンセラー以上の力を発揮するはずだと思うのよ。だって、毎日会ってるんだから。たとえば、子どもが元気ないな、どうやらいじめられているなって気づいた時に、一番感度を良くしなくちゃいけないのは担任の先生だと思うの。でも、先生たちは「忙しい、忙しい」って言っている。何を大事にする仕事なの?子どもを大事にする仕事なんでしょって思うわけ。

愛子さん:
もちろんカウンセラーの人は、コツを持っているかもしれないけど、たまにしか来ないわけだからその子を掴んではいない。そこを掴むのに必要なのは関係性で、築くのがすっごい大変だと思うのよ。だから、本来それを担任がやれたら、というかやるべきくらいに、私は思っているんだよね。つまり、スクールカウンセラーが入ったことで、もしそういうことを丸投げしちゃってるとしたら、それは違うなと思ったのよ。

鈴木さん:

丸投げされているなって感覚はないよ、どちらかというと通訳って感じかな。なにか子どもが困っているっぽいことはわかるけど、そこに自分がどう関わるのがいいのかがわからなかったり、これでいいのかなというときに、私たちが入っていく。先生たちもなんでもわかるわけじゃないから。

そしてやっぱり、1クラスにいる子どもの人数が多すぎる。一人の先生で見るのは無理だろうなと感じちゃう。コロナで分散登校になってクラスを2つにわけたりした時、その対応は大変そうだったけど、先生たちすごく生き生きしてたの。「この人数ならやれる。毎日この人数がいい」って。

愛子さん:

そうだよね。

鈴木さん:
この人数だったらもっと子どもたち一人ひとりを見れるし、いろんなことできるって。どの先生も言ってたのに、なぜそうならないかってことだよね。

愛子さん:
幼稚園や保育園も、コロナがあってひとつの場所で活動する人数を少人数にしたところが結構あるのよね。うちもさ、保育室で過ごす人もいれば、畑に行く人もいるって感じであちこちに行ってるわよ。でも、そのためには大人の人数を増やすしかなくて、そうなると予算が必要になってくる。行政が教育に使うお金が少なすぎるんだよね。誰がそれを崩せるんだろう。先生たち?親?政治家?

鈴木さん:

日本って、本当に教育貧困国だと思う。そもそも学校は、マンパワーが足りないもん。子どもの数に対して、大人の数が少なすぎる。もちろん一人ひとりの先生の子どもの姿に気づける感度の問題もすごくある。でも今の状況に気づいても、対応できることは限られちゃう。これがもし、頼りになる先生が他にもいて、一緒に学級を見れたら…とか考えちゃうな。

愛子さん:
でも、時間とか人数の問題だけじゃないとも思うのよね。教育ジャーナリストの青木悦さんが、子どもの頃にお父さんに暴力を受けていたんだけど、学校の先生の「ようがんばっちゅう」っていう一言で「私を見てくれている人もいるんだ」と気づいて、死にたいと思わなくなったっていう話もあるじゃない。

私もさ、今と全然違うんだけど、中学2年生くらいまで存在感のない子だったのよ。蛹の中でじっと身を硬くして、周りを観察しているような子だったの。でも中学2年のときに、数学の先生に出会って変わったのよね。今でも覚えているんだけど、「あなた自分が思っているよりできる人よ」って、廊下で急に言われたの。「え、なに?」と思ったけど、その一言がすごい励ましになったのよ。

最初の扉の小さな鍵って、そんなふうに何気ないところに転がっているっていうかさ。「見ているよ」ということを感じられるたった一言が、その子が自分を取り戻していくことになったりするのよ。だからさ、そうやって見守れるのがいつもそばにいる担任だったらいいなと思ってね。



学校で困ったっていい

愛子さん:
もうすぐ新1年生が学校に入学してくるけど、あなたから子どもや親にメッセージがあったりする?

鈴木さん:
うーん、そうだなあ。どうにかしようと思わないで大丈夫、まずは今の保育園や幼稚園を楽しんでほしいって伝えたいかな。

愛子さん:
案外、年長児の保育に「小学校で困らないように」という言葉が多いのよ。

鈴木さん:
えー、困ったっていいじゃない。

愛子さん:
私もそう思うんだけど、小学校で困らないようにって、座る練習とか、指示を聞く練習とかをするところもあるのよね。

鈴木さん:
小学校から「小学校に入学するまでにこういうことをできるようにしてください」って、園に連絡がくるわけじゃないんでしょう?

愛子さん:
こない、こない。でも張り切るのよ。親心と同じで、次のところで困らないように、ご迷惑をかけないようにって。

鈴木さん:
1年生の間は、出身の幼稚園や保育園の色が出るのは当たり前。そうやって子どもは育ってきてるんだから。だから、そのままでいいよ。学校の先生たちは、子どもの様子で園の評価なんかしない。

愛子さん:
そうよね。だから私も講演会なんかではよく、「小学校はそのまま行っていいんです。小学校はご迷惑をかけるためにいくんですから。そのなかで先生たちも、その子のことを理解していくんですよ」って言うの。

あと、「その子が興味を持っているならやってもいいと思うけど、幼稚園や保育園の間に教え込むまでしなくていいんじゃないですか」とも。その時に、私が「いずれ興味を持つから」なんて、適当なことを言うじゃない。そうすると、「それは理想です」って言われるのよ(笑)。保育者にも保護者にも言われる。でも、本当にそうですか?って思うわけ。

ほいくる雨宮:
うちの子は今、小学1年生なんですけど、入学説明会で「 傘は自分でたためるように」「立って靴を脱ぎ履きできるように」というような内容のプリントを学校からもらいました。園からは、「給食の時間は20分なので、20分以内にごはんを食べれるようにしましょう」と。そういうこともあってか、卒園前はすごく荒れていたんですよね。たぶん、求められることが増えて気持ちがざわざわしていたんだろうなと思うんですけど。

鈴木さん:

あぁ、たしかに保護者には配られているね。でも、あれ書いているだけだから!先生たちはそれができていないからって、別に叱ったりはしないよ。4月からはどうしたってそこに行かなくちゃいけないんだから、3月の終わりまではめいっぱい楽しんでほしいと思うなぁ。

愛子さん:

本末転倒よね。でも、保護者の人たちはそういうプリントを見て、一生懸命仕込むのよ。なんでこんなに、先生にご迷惑をかけちゃいけないとか、先生の言うことを聞けるようにって思うんだろうねぇ。あと、「子どもを人質にとられる」っていう言葉は今も聞かれるわよね。

鈴木さん:
保護者が学校に言いたいことがあっても、言い過ぎると子どもが先生から何かされるかもしれないっていうのだよね。そういう心配をされている親御さんは実際にいるけど、心配しなくて大丈夫って伝えている。先生の中には、「お母さんはちょっと心配症な人なんだな」と思う人もいるかもしれないけど、だからといってその子どもに意地悪をしたり、何かするってことはないよ。いたら、大問題。



保護者と先生の関係の築き方



愛子さん:
今、学校に行かない選択をしている子や学校に行けないという子も多いじゃない。そうすると、なにかと学校から電話がかかってくるっていうわよね。

鈴木さん:
先生たちの中には、「あなたのこと忘れていないよ」という思いも込めて、電話しなきゃいけないと思っている人もいる。でも、その学校からの電話が子どもや保護者にとってすごく負担になることもあるから、休みが続いている子に関しては、「来れそうな時に電話ください」とコミュニケーション取るのはどうですか?と割と早めの段階で先生に提案したりすることもあるよ。

その一方で、電話してほしいっていう保護者もいる。「毎日毎日子どもと向き合うのが辛いけど、先生と話すとちょっとガス抜きになるんです」って。少数ではあるけれど、いないわけではない。だから、保護者がどうしてほしいのか、先生と話せるといいと思う。

愛子さん:
そうなのよ。でも、申し訳ないから言えないっていう気持ちになるみたいね。言ってみれば、人と人との信頼関係がまだできてない、つくれないままの状態でお互いに探り探りしている感じなのかもしれないね。

でも、一言でも自分の気持ちを素直に言えないと、違う関係はつくれない。だから、「この電話負担だったら言ってね。かけないから」と先生から言うのでもいいから、どちらかが気持ちを表明できるといいなと思うの。



鈴木さん:
保護者の人も、なんでだか学校の先生とは心がつながらないと最初から思い込んでいるようなところがあるよね。

愛子さん:
そうだよね、なんかハードルあるよね。

ほいくる雨宮:
保育園の時は送り迎えの時に先生と話すことができたけど、小学校だとなかなか直接会う機会もないし、見ている生徒の人数も多いだろうし…とか考えちゃうと、話すということに保育園よりハードルがあるなと感じます。うちの子もしばらく学校に行かない期間があったんですけど、その時も先生に相談して一緒に状況を共有したい気持ちと、でも言い過ぎると言い訳みたいに聞こえちゃいそうだなという気持ちと両方あって、なかなか積極的にはコミュニケーションを取れなかったですね。

鈴木さん:
いいのよ!言ってくれなきゃわからないし。言ってくれれば考えるし、「言ってくるなよ」なんて全然思わないはずよ。



共に子どもを育てるということ

愛子さん:

学校にしても、幼稚園や保育園にしても、親と先生の温度差がすごくある、ってこと、ない?

この前も、りんごの木じゃない園に子どもを通わせているお母さんから相談を受けてね、「仲良しだった子が他の子と遊ぶようになっちゃって、遊ぶ子がいないから幼稚園に行きたくないって言ってる」って。わりと自由保育の園だから、お昼ごはんもどこで誰と食べてもいい。そうすると、その子は一人になっちゃう。だから行きたくないみたいなんです、というのが親の言い分だったの。だから、「ひとりで困っているのかもしれないから、先生に言えばいいんじゃない?そういう時どんなふうに子どもを見守ったり、アプローチをすればいいのか、先生は方法をいくつでも考えられるから」と提案したの。そうしたらね、面談の時間をつくってくれるけど、「今、忙しいので10分で」と言われて、しかも話をしたら、「お母さん気にしすぎ。毎日「行く?行かない?」と聞かないで、背中を押してくれればいいです。幼稚園では遊ぶんですから大丈夫です」って言われたんだって。

子どもが園に行きたくなくなった理由がそれだけかはわからないんだけど、私だったらそういうふうに居場所を自分でつくれない子には、「そうしたら朝ちょっと早くきてくれたら2人で過ごす時間をつくるから」とかって、先生は困ったときに頼りになる人という関係を改めて築くけどね。結局その園は、「子どもがちゃんと自分で遊びを見つけていくから大丈夫です」と言うだけで、そのお母さんは面談してより不安になっちゃったって言ってたわ。

鈴木さん
うーん、それは対応が雑だなぁ。お母さんに対してやりとりしても埒があかないって思われているんだろうか。



愛子さん:
そのお母さんは、そういうふうに個別の相談をしたのが3回目なんだって。モンスターペアレントって思われているのかもしれない。

鈴木さん:
えぇー、私、モンスターペアレントはいないって思っているよ。

愛子さん:
私も。

鈴木さん:

私は少なくとも出会ったことがない。「この人ちょっとモンスターなんです」と先生に言われて来た人もいるけど、だいたい困ってるだけだから。

愛子さん:
そうなのよね。困っていることの表現がそうなっている。

鈴木さん:
時間もかかるし、丁寧にやりとりをしなくちゃいけないのに、時間をかけてこなかったり、雑に対応したりしてきたツケで、その人のせいじゃないと私は思う。
保護者の中には、「モンスターって思われたくないから」という理由で、本当は先生に相談したいことがあるのに言えなかったりもする人もいて、みんなすごく我慢しているよね。

「こんな小さなことでも言っていいのかな」って悩む人もいるけど、困っていることに大きいも小さいもない。今気になっていることがあるなら、早めに出して整理して。それで明日からちょっとでもスッキリした気持ちで子どもと向き合えるなら、どんなに小さなことでも話して意味があると思う。

愛子さん:
本当その通りよね。

鈴木さん:
どんなことも、いきなり大ごとにはならないもの。小さなことも共有する。それがみんなで子どもを育てるってことじゃない?


取材・撮影:雨宮 みなみ



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小学校入学をひかえる時期は、子どもや保護者、そして保育者も、気持ちが揺れたり、不安に思うことがあるかと思います。
そこで第3回目は、神奈川県にある小・中学校でスクールカウンセラーをしている臨床心理士の鈴木綾子さんとおしゃべりすることにしました。

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第3回目のおしゃべりのお相手は、神奈川県にある小・中学校でスクールカウンセラーをしている臨床心理士の鈴木綾子さん。

盛り上がったおしゃべりの中で、泣く泣く本編からはカットした「愛子さんと鈴木さんのこぼれ話」を、番外編としてお届けしたいと思います。